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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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変わらぬ友情

 儀式が行われる玉座の間に向かうため、ユリウスたちが自室のある塔から外へと出ると、色鮮やか景色と甘い香りが鼻孔をくすぐる。


 ミグラテール王城は現在、プリマヴェーラの婚礼の儀のために城内のありとあらゆるところに祝いの言葉が織られた色鮮やかな幕や、ミグラテール王国内の各地に咲く色とりどりの花で彩られ、風が吹く度に花の甘い香りを届けてくれた。

 そんな花弁が舞う中庭の真ん中に、ユリウスたちを待ち受けている者がいた。


「へぇ……中々似合っているじゃない」

「姉さん、素直にカッコいいって言った方が好感度高いと思うよ」


 なんだかんだ文句を言いながらも、最後まで面倒見てくれるセシルと、ユリウスのよき理解者であるブレットだった。

 いつもは動きやすさを重視したシンプルなデザインの服を着ることが多い二人だが、今日はミグラテール王家の紋章が入った揃いの白銀の眩しい鎧に、深紅のマントを身に付けていた。

 儀礼用の正装に身を包んでこちらをニヤニヤと見ている二人を見て、ユリウスもまたニヤリと唇の端を吊り上げて笑う。


「そう言う二人ともよく似合っているじゃないか。えっ? セシル将軍殿」

「もう、その呼び方は止めてって言ってるでしょ!」


 ユリウスのからかうような言葉に、セシルは赤面しながら顔を手で仰ぐ。


 あれからミグラテール王国軍は、大規模な再編成を余儀なくされた。

 やはり、ファルコの名の下に正義を成すために集まった他所の国からやってきた者たちは、ユリウスによる卑劣な作戦は良しとしないと、当初は半数近くの人間が除隊を申し出た。


 だが、そこに兵士たちの前に立ちはだかったのがセシルだった。


 せっかく自分たちの正義を成すためにこうして集まったのだから、最後まで戦いたいと、ファルコの遺志を継いで平和な世の中を創りたいと訴えたのだ。

 その必死の訴えに、一部の兵士たちが考えを改めてセシルのためならばと残ってくれたのだった。

 結果、人材流出の損失は全体の二割程度で済み、この功績を称えてセシルには将軍の地位が与えられ、彼女に従う者たちはそのまま部隊に組み込まれることとなったのだった。


「将軍になったのは事実だから仕方ないだろう。いい加減に将軍と呼ばれることになれないとこれから先苦労するぞ」

「うっ、そう……なんだけどさ」


 ユリウスのからかうような視線に、セシルは胸に輝く将軍の証である金色に輝く勲章を撫でながら困ったように眉を下げる。


「できればユリウスには、これからも普段通りに接してもらいたいなって……」

「ああ、それなら心配はない。僕がお前みたいな脳筋女に敬意を払うことなんて絶対にないからな」

「んなっ!?」


 歯に衣着せぬ辛辣な言葉に、セシルは一瞬にして沸点に達したかのように顔を真っ赤にさせるが、


「はぁ……」


 諦観したように嘆息すると、大袈裟にかぶりを振る。


「でも、そういうところがユリウスらしいのよね……まあ、いいわ。ユリウスがその気にならこっちだって考えがあるんだからね」

「……一応、聞いてやるが何を考えているんだ?」

「それはね……ユリウスに卑怯な戦い方をさせない部隊を創るの」


 セシルは不敵な笑みを浮かべると、自分の目標を話す。


「私たちが物凄く強くなって、誰にも負けない無敵の部隊に成長すれば、もう卑怯な真似をしなくてもいいわけでしょ?」

「……まあ、そうだな」

「言ったわね」


 ユリウスが頷くと、セシルは言質を得たとパチン、と指を鳴らして笑顔を弾けさせる。


「見てなさい。これからどんどん強くなって、どんな敵でも正々堂々と正面から打ち破ってみせるから覚悟しなさい」

「覚悟って……僕がするものなのか?」


 ユリウスが首を捻りながら問いかけるが、舞い上がっている様子のセシルの耳には届いていないようだった。


「…………しかし、わかっているのか」


 能天気に浮かれているセシルを見て、ユリウスは呆れたように肩を竦める。

 セシルが言うことを実現するためには、数でも質でも相手を圧倒するだけの戦力が整える必要があるということを。

 今回、いなくなってしまった人材を確保するために、新たに兵士の募集をしているようだが、平和な時が続いていたミグラテール王国内から優秀な人材を新たに確保するのは難しいと思われた。

 残念ながらファルコの後を継ぐユリウスでは、他所の国から噂を聞きつけての戦力の補充は厳しい。

 新たに紋章兵器マグナ・スレストの保持者となったセシルの活躍が知れ渡れば、彼女と共に戦いたいという者が現れる可能性はなくもないが、それはまだまだ先になりそうだった。




 そんな現実など知る由もないのか、浮かれたように自分の部下たちをどうやって鍛えるかを妄想しているセシルの様子を呆れたように眺めていると、


「……まあまあ、ユリウス。別にいいじゃないかな?」


 いつもと変わらない柔和な笑みを浮かべたブレットが、ユリウスへと話しかけてくる。


「姉さんがやる気になってくれたんだから、きっと上手い方向に転ぶよ」

「……まあ、確かに」

「そうそう、それに僕はユリウスがしていることが大事だってわかってるから。これからも協力は惜しまないつもりだよ」

「……そうか、助かるよ」


 ユリウスが安堵したように嘆息すると、ブレットは「任せてよ」と言って力強く頷いてくれる。

 これからやらなければならないことは山とあるが、この二人が協力してくれるのならばどうにかなるかもしれない。そう思えるくらいにユリウスは二人のことを信頼していた。

 それぞれの立ち位置を確認したユリウスは、数少ない信頼できる二人に護られる形で、玉座の部屋へと向かった。

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