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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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これからもずっと……

 プリマヴェーラの結婚発言をミグラテール王妃が容認したことによって、ミグラテール国内は、ファルコの死を悼む沈んだ雰囲気から、プリマヴェーラの結婚を祝う祝福ムードへと一転した。


 結婚相手であるユリウスのことは、ファルコの遺志を受け継ぐために立ち上がった親友として紹介された。

 そのことでユリウスは民衆から圧倒的な支持を得たたこともあり、一部の派閥による裁判でユリウスを追放するということも難しくなり、結局、うやむやのまま裁判そのものがなかったことになった。


 そして、日々はあっという間に過ぎ去り――




「はい、これでいいでしょう」


 ミグラテール城内にある塔、ユリウスたちの自室となっている部屋の真ん中でヴィオラは満面の笑みを浮かべると、満足そうに何度も頷く。


「うん、いつ見てもカッコいいユリウスですが、今日は一段とカッコいいですよ。ほら、見てみて下さい」

「……恥ずかしいからよしてくれ」

「何を言っているのですか。私が太鼓判を押しますからもっと自信を持って下さい」


 ヴィオラは嬉しそうに言うと、ユリウスを姿見の前へと連れて行く。

 そこには白いタキシードに身を包んだ、少し困ったように笑うユリウスがいた。

 その手には、裁判の時に持っていた杖はない。

 ユリウスの視界はプリマヴェーラの見立て通り徐々に回復し、裁判から三日ほど経った時には、ほぼ元に戻っていた。

 その時にはアイディールアイズと再びコンタクトが取れるようになり、視力を失った原因が力の使い過ぎによる反動であることを知った。

 ただ、どれだけ力を使えばその状態になってしまうのかは、アイディールアイズにも曖昧な部分があって具体的にはわからないということなので、未来を見る力は使いどころをしっかりと見極める必要がありそうだった。


(……まあ、流石に今日はその力を使う時はなさそうだけどな)


 左右で色の違う自分の目を確かめながら、ユリウスは自分の姿を改めて見つめる。

 今日は、ファルコの遺志を継ぐ者として、さらにはプリマヴェーラの婚約者となったユリウスを国民の前で披露する日となっていた。

 ユリウスの暗殺未遂事件が裁判の場で暴露されて以降、ユリウスを付け狙う者は、はたと現れなくなった。

 プリマヴェーラがユリウスに対して好意を抱いており、自分の夫に迎え入れると明言した以上、ユリウスの命を狙うということは、王族に反逆すると同義となる。

 ユリウスの命を狙う者にとって、国家反逆罪となるリスクを背負ってまで危険を冒すメリットはないということだろう。


 ただし、今日のような晴れの舞台をわざわざ狙って襲い掛かってくる輩が現れる可能性もゼロではないが、ユリウスは既に紋章兵器マグナ・スレストの力を取り戻しているので、怪しい奴がいたとしても、万が一の起きる可能性は皆無といえた。


(……だけど、人前に姿を晒す以上、紋章兵器を発動させて敵対している者を探すぐらいはすべきだろうな)


 そんなことをユリウスが考えていると、


「…………でもまさか、こんな日が来るなんて夢にも思いませんでした……今日のユリウスの姿を、ご両親にお見せできないのが残念で仕方ありません」


 ユリウスの晴れ姿を見たヴィオラが、感極まったかのように溢れてきた涙を拭う。


「…………ううぅっ、本当に……本当に良かった……ううぅ…………」


 しかし、それだけで気持ちが納まらなかったヴィオラは、ユリウスの胸元に縋りついて声を上げながら泣き始めてしまう。


「ああ、もう……ほら、服が皺になっちゃうから落ち着いて……それに、ヴィオラもせっかく綺麗に化粧したのに台無しになっちゃうだろう」


 ユリウスは慌てたようにヴィオラを引き剥がすと、彼女の頬を伝う涙を拭ってやる。


「……言っておくけど、今日の結婚は、僕の立場を守る為に行う偽装結婚だからね」

「……わかっています。でも……あの山賊たちに全てを奪われていたあの時には、こんな幸せな時が訪れるとは思わなかったものですから……」

「それは……確かに」


 ユリウスはヴィオラに胸ポケットに入れておいた真っ白なハンカチを手渡しながら、今日までの軌跡を思い返す。




 城を追われ、山賊に囚われてしまったあの時は、日々を生きるだけで精一杯で、何も考える余裕はなかった。

 そんな地獄の日々を三年にも渡って耐え、紋章兵器の噂を聞きつけてプリマヴェーラを見つけ、ファルコと出会った。

 そして、全てを賭けて山賊たちを罠に嵌め、再び人としての生を享受できる立場を手に入れた。


「ユリウスならきっと私を救って下さると信じていました」

「まあね。でも、ようやくまともな生活ができると思ったのに、僕にとってはまだまだ地獄の日々は続いたよ」



 ファルコの部下となったユリウスを待っていたのは、セシルをはじめとする脳筋兵士たちによる肉体改造、プリマヴェーラの本性を垣間見たパロマの街での一幕。


「まあ、苦労の甲斐があってプリムに協力を取りつけることに成功できたのは大きかったな。これもヴィオラが事前に手を打っておいてくれたお陰だったね」

「お漏らし姫という名は、我ながら見事だったと思いますよ」


 秘密をバラされた時のプリマヴェーラの顔を想い出し、ユリウスとヴィオラは揃って苦笑する。

 別に極限状態で漏らしたぐらいたいしたことじゃないと思うのだが、プリマヴェーラにとっては許容しがたい出来事だったようだ。



 そして、敵の一人であるバオファによるラパン王国での侵攻作戦。

 毎日が死と隣り合わせの命を削るような日々の中で、ユリウスは紋章兵器の真の力を手に入れることができたが、ヴィオラは片腕を失ってしまった。

 ユリウスはヴィオラの右腕に目を向けると、悲しそうに目を伏せる。


「あの時程自分の行いを後悔した時はなかった……本当に、ヴィオラが生きていてくれてよかった」

「お気になさらないでください。私の命は、ユリウスのためにあるのですから。それに、右腕を失ったお蔭で、色々とできることが増えたくらいですよ」


 ユリウスを心配させまいとヴィオラは笑顔を弾けさせると、ユリウスから受け取ったハンカチを左手一本で器用に折りたたんで見せる。


「そう……だね。ヴィオラは本当に凄いよ」


 今日も何も言わなくても、ヴィオラはユリウスの支度を完璧に行ってくれた。

 だが、利き腕である右腕を失った彼女がこうして普通に生活できるようになるまで、一体どれだけの努力をしたのかをユリウスは知らない。

 だが、そんなことは改めて聞かなくてもいいとユリウスは思っていた。

 ヴィオラのことを全面的に信用しているし、例え彼女が何もできなくなっても、絶対に見捨てるつもりはないからだ。

 ユリウスは健気に笑顔を見せているヴィオラを優しく抱き締めると、恋人がするように耳元に顔を寄せて彼女だけに聞こえる声で囁く。


「ヴィオラ、プリムと結婚してもこれからも僕たちはずっと一緒だ……嫌だって言っても放してやらないんだからな」

「ええ…………ええ…………わかっていますとも」


 ユリウスの言葉にヴィオラは何度も頷くと、再び大粒の涙を流した。

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