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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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計算違い

 自分の目的、ファルコの後継者になると言い切ったユリウスは、誇らしげに胸を張る。


 周りを見てみると、誰もがユリウスの言葉に呆気に取られ、口を開けたまま呆けたように立ち尽くしていた。


(うん、ここまでは予想通りだ)


 周りの連中の驚いた顔で立ち尽くしているだろう姿を想像して、ユリウスはほくそ笑む。


 ファルコがいなくなり、軍に所属する誰もが共通して抱いている懸念事項がある。

 それは今後、自分たちはどうすべきか、だ。

 ミグラテール王国軍は、ファルコによって集められた外部の人間が多く、彼がいなくなってから軍を退役したいと申し出た者も一定数いると聞いている。

 このままでは何も決まることなく軍が空中崩壊してしまう可能性があると考えたユリウスは、一刻も早く軍を再編し、来るべきレオンの襲撃に備えたいと思っていた。

 だからこそユリウスは、いち早く自分がファルコの後継者として名乗り出て、皆の気持ちを一つにまとめようと思っていた。

 ファルコを中心に集まった仲間たちであったが、ラパン王国解放戦線では苦楽を共にした仲だ。亡くなったファルコの理想を体現させるという名目であれば問題ないとユリウスは思っていた。


 ――だが、


「…………ふざけるな!」


 凍り付いた室内に、静かな怒りの火が灯る。


「お前なんかがファルコ様の代わりが務まるはずないだろう」

「そうだ。軍師だか何だか知らないが、俺はお前を認めてはいないからな」

「ファルコ様の命令だったから従っていたが、ファルコ様を殺したお前の命令を聞くのは御免だ」


 ユリウスに対し口々に文句を言い始めたのは、先程までユリウスの味方についていたはずのミグラテール王国軍の兵士たちだった。


「ファルコ様の死をお前一人の所為にするのはお門違いだが、お前がファルコ様の代わりになると言うなら話は別だ」


 これまでおとなしくことの成り行きを見守っていた兵士たちは、突然の怒声に驚いて固まっている大臣に代わってユリウスを責める。


「それに知っているぞ。お前、情報を得るために敵を捕まえて拷問していただろう」

「まさか、知られていないとでも思ったのか?」


 その告発に、周囲がにわかに騒がしくなる。


「しかもただ拷問しただけじゃない。散々苦しめた挙句、容赦なく殺しただろ!」

「俺は見たんだ。体の中身をくり抜かれた死体を。あの死体は散々苦しんだのか、今まで見たことないくらい歪んでいた。あの顔を思い出すと……うっ」


 話していてその光景を思い出したのか、その兵士は口元を押さえて顔を背ける。

 荒事を生業とする兵士が青ざめる姿を見て、一体どんな非道を行ったのだと、ユリウスに非難の視線が集まる。

 ミグラテール王国軍の勝利は、騎士道精神に乗っ取って邪悪で卑劣なリーアン王国を打ち破ったと広く喧伝されていた。

 市井の者をはじめ、この場にいる殆どの者は卑劣な敵を正々堂々と破ったと信じていた。

 この告発は、ミグラテール王国軍の輝かしい戦果を根底から覆すものだった。


「ね、ねえ、ユリウス?」


 すると、兵士たちの中からセシルの不安そうな声が聞こえる。


「敵を拷問していたなんて嘘だよね? 無抵抗の相手をいたぶって殺すなんて卑劣な真似……してないよね?」


 一緒に戦った仲間が拷問なんてしていたなんて信じたくない。そう願うセシルだったが、


「…………事実だ」


 ユリウスが苦々しく吐き捨てると、セシルは息を飲んで押し黙ってしまう。


「聞いたか? やはり拷問していたみたいだぞ!」

「あんな幼いのに平然と人を拷問にかけるなんて……」

「やはり奴はファルコ様とは違う。信用なんかできないぞ」


 ユリウスが拷問の事実を認めると、兵士だけでなく、諸侯の貴族たちも口々にユリウスのことを罵りはじめる。

 その波はあっという間に広がり、謁見の間はかつてない喧騒に包まれる。


「…………」


 全包囲からの罵倒を受け、ユリウスは唇を噛み締めたまま舌を向いてジッと耐える。


(…………クソッ、僕だけ悪者扱いかよ)


 相手は一騎当千の力を持つ紋章兵器マグナ・スレストの使い手だったのだ。勝つ為に打てる手は何でも打つべきだし、実際、ユリウスが拷問して手に入れた情報がなければ、全員揃ってバオファに辿り着くどころか、あの巨人を倒せたかどうかも怪しいところだった。

 だが、そんなことを知る由もない連中は、騎士道精神などというありもしない幻想を追い求め、自分たちを一瞬で灰燼に帰す力を持つ紋章兵器を前に、無策で飛び込むことが正義であると言っているのだ。

 本当なら連中の考えがいかに愚かで、無為なものであるかを説き伏せてやりたいところだが、それをしてしまっては彼等との関係は完璧に壊れ、今後一切友好な関係は結べなくなってしまうだろう。


「み、皆さん。ちょっと待って下さい!」


 鳴り止む様子を見せないユリウスへの罵詈雑言を前に、プリマヴェーラが溜まらず待ったをかける。


「ユリウス様が拷問を行ったのは……」

「プリム!」


 大声で何かを告げようとするプリマヴェーラを、ユリウスは大声で制する。


 おそらくプリマヴェーラは、ユリウスが拷問を行った理由について話すと思われた。

 兵士が見たという死体は、確かにユリウスが拷問した者に間違いないが、遺体の損傷が激しいのは、プリマヴェーラが持つ紋章兵器、エレオスリングの力にする為に与えたからだ。

 だが、エレオスリングの秘密をここで晒してしまうと、ユリウスだけでなくプリマヴェーラまで悪者扱いされてしまう。

 そうなればプリマヴェーラの聖女としての立場も危ぶまれ、兵士たちがこぞってミグラテール王国から離れていってしまう可能性がある。

 だから真実を話す必要はない。ユリウスが口には出さずにプリマヴェーラに首を振って応えると、察した彼女は肩を落として腰を下ろす。


 しかし、ユリウスのその態度は、彼を嫌う者にとっては許されざる行為だった。


「おい、聞いたか。プリマヴェーラ様のことを気安くプリムと呼んだぞ」

「それだけじゃない。プリマヴェーラ様を否定するような態度を取って悲しませたぞ」

「そんな不敬な奴をこの国に置いておいていいのか?」

「いいわけない。追放すべきだ」

「そうだ。追放だ!」


 誰かの「追放」という言葉を皮切りに、人々は口々にユリウスをこの国から追放するように求める。


 さらに、


「この卑怯者。この国から出ていけ!」


 何者かが罵倒を浴びせながら物を投げ付ける。


「…………うぐっ!?」


 それは何者かが脱いだ片方の靴だったが、碌に視界が利かないユリウスは避けることもできず、ここめかみにまともに喰らって衝撃で倒れる。

 その時、ユリウスの手からキラリと光るものが転がり落ちる。


「あっ!?」


 そのことに気付いたユリウスが慌てて身を起こし、床に這いつくばって落ちた物を探すが、ぼやけた視界では手の平に収まるような小さな物を探すのは困難を極めた。


「おい、倒れた振りをして同情を誘ってんじゃねえぞ!」

「そうだ。騎士道の何たるかもわからない奴め。これ以上、酷い目に遭いたくなかったら、今すぐ出ていけ!」

「うっ…………やめ…………」


 人々の激しい怒りを一身に受け、ユリウスは落ちた物を探すところではなくなり、体を丸めて防御に徹するしかなかった。


 最早、ユリウスはこの場に似付かわしくない完全に悪者となっていた。


「…………やれやれ、王よ。これ以上の議論は不要ではないですか?」


 すると、最初にユリウスの処刑を言及していた大臣が玉座に座るミグラテール王へと向き直る。


「この場にいる者の総意は固まりました。後は王が決断を下すだけです」

「…………うむ」


 大臣の提案に、ミグラテール王は重々しく頷いて立ち上がろうとするが、


「お待ちください」


 立ち上がろうとする王を手で制し、横から割って入る者がいた。

 その者はミグラテール王の隣の一回り小さな玉座に座るミグラテール王妃だった。


「少し、確かめたいことがあります」

「う、うむぅ……だが」

「いいですね?」

「わ、わかった。お前がそう言うのなら」


 ミグラテール王妃は王にそう告げると、ゆっくりと立ち上がって床に転がっている物を拾うと、よく通る声でこの場にいる全員に話しかける。


「皆の者、静まりなさい」


 だが、ユリウスを罵る声が大き過ぎて誰の耳にも届かなかったのか、罵声が止むことはない。


「…………仕方ありませんね」


 すると、ミグラテール王妃は自分の頭に乗っていた王冠を取ると、大きく振りかぶって思いっきり床へと叩きつける。


「静まれと言っている!」


 散りばめられた宝石と金属が派手に砕ける音を立てながらミグラテール王妃が怒鳴ると、今度こそ場が一気に静まり返った。

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