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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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後継者

 プリマヴェーラとの会談から一週間後、いよいよユリウスの処遇を決める裁判が開かれる日がやって来た。


「……やれやれ、まるで罪を犯した者の扱いそのものだな」


 周囲からの奇異の視線を向けられている気配を感じ、ユリウスは喧騒激しい場所を中心に、自分の周囲に目を向ける。


 場所はミグラテール王国城の謁見の間、ユリウスの正面に見える玉座には主たるミグラテール王の姿はなく、その周りを囲むように国の重鎮、諸侯の貴族、そして軍の関係者たちが一堂に会していた。

 そんなこの国を動かしている者たちに取り囲まれるようにしてユリウスは、裁判のために設えられた証言台に独り立ち、裁判が始まるのをおとなしく待っていた。



 この一週間でユリウスの目は僅かであるが回復し、視界は定まらないがシルエット程度なら把握でき、杖があれば問題なく歩けるくらいまでには回復した。

 しかし、アイディールアイズとの対話は相変わらずできない状態が続いており、その所為か、紋章兵器マグナ・スレストとして使える力も右目の遠くを見る力と、左目の色で脅威を見極めるという彼女から力の使い方を教わる以前の力しか使えなくなっていた。最も、右目の力は使ったところで視界がボケているのは変わらないので、使うだけ無駄であった。


 それ故、ユリウスは左目の力だけを使い、誰が自分に敵意を向けているかを確認し、レオンと繋がっている者がいないかを探っていた。

 問題の人間は、紋章兵器の力を使えばすぐに見つかる。そう思っていたのだが、


(……これは、予想外だったな)


 予想外の事態に、ユリウスは内心で舌打ちをする。

 視界が定まらないのでハッキリとした人数は分からないが、この場にいるかなりの人間が赤く光っているのだ。

 ファルコが前面に出て庇っていたのでユリウスは知る由もなかったのだが、いきなり現れては軍師という立場に収まり、あれこれと偉そうに命令するユリウスを快く思っていない人物は多かった。

 そして、ファルコという絶対的な指導者を失った今、ユリウスが軍師として命令を下しても、軍としてちゃんと機能するかどうかは未知数だった。

 だが、それでもセシルをはじめとするユリウスと近い場所にいた者たちは、正しくユリウスのことを評価しており、赤く染まる人数と同じくらい青く光っている者たちもいた。

 また、ユリウスの目に映る色の違い同士の関係も余り仲が良くないので、色の境界部分は、既に険悪な雰囲気になっているようだった。


(……ファルコ、僕の知らないところで色んな苦労をしていたんだな)


 ユリウスは改めてファルコの偉大さを噛み締めながら、王が現れて裁判が始まるのを今か今かと待つのだった。




「皆の者、待たせたな」


 ミグラテール王が現れたのは、全員が揃ってから三十分後だった。

 王の後ろには王妃とプリマヴェーラの姿があり、プリマヴェーラはユリウスの姿を見ると、微笑を浮かべて小さく頷いてみせる。

 一週間前、ユリウスの考えを聞いたプリマヴェーラは、


「そんなことを思いつくなんて流石です。悪いことを考えさせたらユリウス様の隣に立つ者はいませんね」


 などと、果たして褒めているのかどうかわからないことを言っていたが、どうやらユリウスの答えに満足してくれたようで、裁判の折には手助けしてくれると約束してくれたのだった。


(…………任せたぞ)


 視界は定まらないが、プリマヴェーラの輪郭からある程度の予測を付けたユリウスは、他の者に気取られないように小さく頷き返した。




 王が来て始まったユリウスの裁判は、ハッキリ言って見るに堪えない酷いものだった。


「彼はリーアン王国と繋がってラパン王国を滅ぼしたのです」


 そう語るのはミグラテール王国の財政を司る大臣で、ユリウスを断罪してこの国から追放したいと願う筆頭のようだった。


「それだけではありません。ファルコ様をそそのかし、ラパン王国へと進撃して謀殺した後、我が国を亡き者にしようと画策しているに違いありません!」

「何を言っているんだ! 彼はファルコ様と親友だったのだぞ」

「その親友という情報も怪しいな。ちゃんとファルコ様に確認したのか?」

「ファルコ様がそう仰っていたから間違いない!」

「だとしたら、ファルコ様を完璧に騙すほどの演技力の持ち主だということだろう」


 大臣が言うには、ユリウスはリーアン王国の間者で、ラパン王国を滅ぼしてファルコをおびき出し、ファルコを亡き者にしたという荒唐無稽の主張をし出したのだ。


「王よこの男は我が国をに仇成す危険人物です。どうか第二のファルコ様を生まぬ内にここで処刑するべきです」


 大臣の過激な発言に、一部の者たちから「そうだ」という賛同の声が上がる。

 それらの罵倒の声を聞きながら、ユリウスは真っ赤に光って見えるこの大臣こそが、レオンと繋がっているものかどうかを考えるが、


(いや、それはないだろう)


 一瞬だけよぎった考えをユリウスはすぐさま否定する。

 ここまで露骨に行動する者では、間者としては三流以下だ。

 それに、ユリウスのことを追放ではなく、処刑しろと言っている時点でレオンとは考えが根本的に違う。

 あるとすれば、レオンの命を受けてユリウスを追い込むように指示された何者かによって、さらに操られているというところだろうか。


(……もしかしたらただの阿呆かもしれんがな)


 だとしたらお笑いだな。そう思ったユリウスが思わず苦笑すると、


「何を笑っているのだ!」


 ユリウスの行動を目敏く発見した大臣が、額に青筋を浮かべながら詰め寄って来る。


「お前の処遇を決める神聖な裁判で何を笑っている。それが、被告のする態度か!」

「……発言しても?」

「何だ釈明したいことがあるなら言ってみろ。この聡明な私が全て論破してやろう」

「それはどうも…………」


 鼻息荒く息巻く大臣に、ユリウスは内心で「馬鹿め」と罵りながら話しだす。


「僕がリーアン王国と繋がっていて、ラパン王国を滅ぼしてファルコ様を誘い込み、謀殺したという話ですが……」

「おお、そうだ。ついに自分で認める気になったか?」

「有り得ないでしょう。余りにも馬鹿らしくて思わず笑ってしまいましたよ」

「な、なん……だと?」


 額をピクピクと痙攣させ、明らかに怒り顔になる大臣に向かってユリウスはさらに続ける。


「僕がリーアン王国と繋がっているのならば、どうしてあの国は負けたのですかね?」

「そ、それは、我々を油断させようと……」

「リーアン王を殺してまで油断させるなんて本末転倒だと思いませんか? それに、あの国が持っていた紋章兵器を二つも奪わす意味は?」

「意味だと? 意味は……えっ、と」


 まさか反撃されると思っていなかったのか、大臣は見るからに狼狽え始める。

 そんな大臣にユリウスはさらに追い打ちをかける。


「それに、さっきから何か喚いているようですが、根本的に間違っていることがありますよ」

「何だ。何が間違っているのだ?」

「ラパン王国のことです。あの国は確かに王を倒されましたが滅んではいませんよ。むしろ、積極的に復興しようと努力しているところです」


 それに、


「もし僕の目的が、ファルコ様を謀殺することであるならば、それが達成された今、こうしてこの国に戻ってくること自体どうかしているでしょう」

「な、ならば、お前の目的は一体何だと言うのだ?」

「僕の目的は……」


 その言葉を引き出せただけで大臣は十分役に立ってくれた。ユリウスは唇の端を吊り上げて笑うと、手にした杖を地面に強く打ち鳴らし注目を集める。

 この場にいる全員がこちらを見たとも思われる間を置いて、ユリウスは大きく息を吸ってから声高々に宣言する。


「僕が帰って来た目的は、ファルコ様の遺志を受け継いで、皆が笑って過ごせる世の中を創るためだ!」

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