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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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天から見る者

 街の全容を知るため、ユリウスは手始めにスワローの街の入り口である城門前へとやって来た。


 十メートルを超える目を見張るほど巨大な城門の近くは、街の入り口ということもあってかこの街で一番の賑わいをみせており、あまりの喧騒に思わず耳を塞ぎたくなるほどだった。

 入り口から大通りへと続く道の両端にはいくつもの露店が軒を連ね、色とりどりの食材や料理、見たこともない工芸品から旅の必需品を揃えた店まで、ありとあらゆる店が並んでいた。

 通りに入ると、旅人を迎えるための宿屋や厩、行商人たちを束ねる商会が多く見え、これだけでこの街にやって来る人がいかに多いかを伺えた。


 ユリウスたちはそんな商人たちの喧騒から逃れるように宿屋の建物の陰へと移動する。

 人目はあるが、宿屋の近くで何気なく立っている分には、ただの待ち合わせだと思われるだろう。そう考えたユリウスは、宿屋の白い壁に背中を預け、ここで力を使うことに決める。


「…………ふぅ」


 深呼吸を一つして、紋章兵器マグナ・スレストを使うための準備をする。

 すると、


「おっ、ここで何をするんだ。俺は何をしたらいいんだ?」

「…………」


 うるさいな。そう思うユリウスだったが、何処かに行けと言ってもナルベに忠実なゼゼが言うことを聞いてくれるはずもないので、とりあえず無視することに決める。

 だが、無視されてもゼゼは一向に黙る様子を見せず、しつこくユリウスに話しかける。


「それで、一体どうやって聖女を誘拐するんだ? やっぱり、紋章兵器でガバーッとやっちまうのか?」

「…………」


 耳元で捲し立てるゼゼを無視して、ユリウスは左目を手で覆って右目に意識を集中する。

 別に左目を覆わなくても紋章兵器の力を使うことは可能なのだが、アイディールアイズは左右で違う力を宿している紋章兵器なので、こうやって片方の視界を遮ってしまった方が集中しやすかった。

 次の瞬間、ユリウスの右目に入った瞳に、仄かに青白く光る紋章が浮かび上がり、ユリウスの視界を天に引っ張り上げるように高く上げる。


「…………ふぅ」


 無事に紋章兵器の力を引き出すことに成功し、ユリウスは小さく嘆息する。

 今、ユリウスの右目に移る景色は、上空二十メートルほどの高さから自分自身を見下ろすようになっており、下からだけでは見ることのできない街の様子が伺えた。

 特に重要なのは、城壁の上に立つ見張りの兵士たち。彼等が何人体制で見張りを行い、どのようなローテーションで周り、誰かどの程度真面目に仕事に取り組んでいるかを知れば、見張りの隙を突いて街の中に侵入することも容易くなる。


(……といっても、見張りを真面目にやっている奴なんて殆どいないんだけどな)


 過去の経験からそんな気はしていたが、案の定この街の兵士たちもあくびを噛みしめていたり、街の中に可愛い女の子がいないかと探していたり、遠くの一点を呆然と眺めていたりと、誰もが敵なんか攻めてくることはないと思っている様だった。

 これなら街への侵入は楽そうだ。ユリウスがそう考えていると、


「…………おい、聞いているのか?」


 何やら耳元から喚き声が聞こえてくる。


「…………」


 今は集中しているから放っておいてくれ。ユリウスはゼゼに一睨みして自分の意思を伝えると、再び見張りの兵士たちの動向を探るために紋章兵器に意識を集中させる。

 だが、そんなユリウスの態度だけではゼゼが意思を汲み取ってくれるはずもなく、無視されたと思ったゼゼは、不満をぶちまけるようにユリウスの胸ぐらを乱暴に掴んで詰め寄る。


「おい、何、無視してんだよ。てめぇ、ちょっと紋章兵器が使えるからって調子乗ってんのか?」

「…………」


 こいつは何を言っているんだ。今は、そんなくだらない話をしている場合じゃないだろう。だが、そんなことをいちいち口にするのも馬鹿らしいと思ったユリウスは「はぁ……」と大袈裟に溜息を吐いて見せる。


「――っ!?」


 だが、それは完全に悪手だった。

 ユリウスの態度から完全に馬鹿にされたと思ったゼゼは、胸ぐらを掴んだままのユリウスの体を宿屋の壁に叩き付ける。


「テメェ、さっきからその態度は何だ! 俺っちのことナメているのか!?」

「うぐっ……今はそんなことを話している場合じゃないだろう」

「俺っちにはあるんだよ! ナルベさんのお気にだからって調子に乗るんじゃねえよ!」

「……調子になんか乗ってない!」


 ゼゼの物言いに流石にカチンときたユリウスは、ゼゼの腕を乱暴に振り払うと、苛立ちを紛らわすかのように頭をガシガシとかきながら話す。


「それより、目立つようなことはやめろ。憲兵たちに目をつけられたらどうする!」

「あ…………」


 ユリウスの言葉で少し冷静さを取り戻したのか、ゼゼは周りの視線が自分に集まっているのに気付き、気まずそうにユリウスと距離を取る。

 ゼゼから解放されたユリウスは、乱れた衣服を直すと、ゼゼの背中に話しかける。


「もういい、これ以上は厄介ごとに巻き込まれかねないからな。次の場所に移動するぞ」

「チッ、わかったよ。だが、これだけは覚えておけよ」


 振り向いたゼゼは、ユリウスに向き直ると、声のトーンを落として脅すように宣言する。


「俺っちはお前のことを一切信用していない。お前は必ずナルベさんを裏切るってな。だからこの俺の前で少しでも怪しい動きをしてみろ。その時はお前を容赦なく殺してやるからな」

「フン、言ってろ。それより、お前こそ次からは僕の邪魔をするなよ」


 ユリウスは吐き捨てるように言うと、次の目的地へ向けてとっとと歩きはじめた。

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