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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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別れの挨拶

 これから訪れる辛い別れを吹き飛ばすように、ユリウスは天に向かって笑い続けていた。

 すると、


「…………雨?」


 頬に冷たい雫が当たり、ユリウスは手をかざしながら辺りを見渡す。

 先程まで雲は多くも青空が覗いていたはずだが、いつの間にか灰色の曇天に変わっており、こうしている間にも次々と雨粒が降り注いできていた。

 それに地平線の向こう、遥か彼方にはここより暗い雨雲が広がり、いくつもの稲光が雨雲の間を縦横無尽に走っているのが見えた。


「……これは、早く戻らないと嵐に巻き込まれるな。ファルコ?」


 一刻も早く帰ろう。そう思ってユリウスが声をかけるが、


「…………」


 ファルコから返事は帰ってこなかった。


「…………ファルコ?」

「…………」

「……………………ファルコ……」


 再び声をかけるが、やはりファルコからの返事はない。


「……………………」


 雨脚が強くなる中、ユリウスはギュッ、と強く目を瞑って何かに耐えるように天を仰ぎ続けていたが、やがて大きく息を吐いてファルコの方を見やる。


「………………逝ったのか」


 そう言って見るファルコの顔は、とても穏やかな笑みを浮かべていた。

 ユリウスを庇って背中を焼かれ、ユリウスによって体中を切り刻まれ、全身を激痛が駆け巡っていたはずなのに、その苦しみを一切感じさせないような穏やかな死に顔に、ユリウスは胸が締め付けられる思いになる。


「全く、君って奴は……」


 全てはユリウスが罪の意識に囚われないように、前を向いて進めるように、というファルコの配慮が痛いほどわかってしまう。


「…………」


 ユリウスは思わず溢れそうになって来た涙を乱暴に拭う。

 少なくとも親友と信じてくれたファルコを手にかけた自分に、泣く権利などありはしないのだから。


「それでも、これだけ言わせてくれ」


 ユリウスはファルコの手を取って胸の前で組ますと、優し気な微笑を浮かべる。


「……ありがとう」


 ユリウスはファルコの手を両手で包み込んで祈りを捧げ、想いを断ち切るように立ち上がると、ファルコに背中を向けて歩きはじめる。



 バオファが倒れた今、リーアン王国軍が壊滅するのは時間の問題だろう。

 その前に、ユリウスは済ませておかなければならないことがあった。


「…………ふぅ、さて」


 ユリウスは大きく息を吐くと、自分の紋章兵器マグナ・スレストを発動させる。


「――っ!?」


 すると、力を使い過ぎた所為か、頭が真っ二つに割れそうなほどの激痛が走って思わず顔をしかめる。

 だが、使う時間はほんの一瞬で済むので、ユリウスは意識を集中させる。

 程なくして目的の物を見つけると、紋章兵器の力を解除してそちらに向けて歩きはじめる。


「…………ファルコ、君は自分のことを決断できない奴だと卑下していたが、それを差し引いても君はとても優秀だと僕は思うよ」


 ユリウスは痛む目をほぐしながら、自分の指に嵌ったファルコから託された指輪を天にかざす。


 どうしてファルコは、母親から譲り受けた指輪をユリウスへと託したのか。


 その理由は聞かなくとも、痛いほど理解していた。

 そんなファルコの想いに感謝しながら、ユリウスは自分が斬り落としたバオファの右手、その手に握られた紋章兵器、グリーディスミスを回収する。

 続いて、バオファが力を行使して作った爆発する岩の破片をいくつか拾うと、ファルコの死体の下へと戻り、彼の体の周りに岩の破片を置き、残りをバオファの死体の傍へと置いていく。


「後は……」


 この破片と元になった岩を見つけてグリーディスミスで叩けば、岩の破片は爆発し、二つの死体を跡形なく吹き飛ばしてくれるはずだ。

 そう、ファルコがユリウスに指輪を託した理由は、自分の死体をユリウスに処分させるためだった。

 普通に考えれば、国の第一王子という立場にあるファルコの死体は、丁重に扱って国に持ち帰るのが筋だろう。

 だが、その場合、ファルコがバオファと死闘を繰り広げて死んだのではなく、技術の未熟な何者かに斬り刻まれて殺されたことがわかってしまう。

 そうなれば疑われるのはユリウスであり、ユリウスはそれに反証を挙げることができない。


 何故ならそれらは全て、事実だからだ。


 故に、ファルコは自分の死体をこの場でユリウスに処理させるだけでなく、自分の遺志はユリウスが受け継いだと内外に知らしめるために指輪を託したのだった。

 ユリウスが仲間の下へ助けを呼びに行こうとしたあの時、ファルコは既にそこまで先を読んでいたのだと思うと、本当に頭が上がらなくなる。

 バオファの死体を吹き飛ばすのもほぼ同じ理由で、死体の状態から余計なことを邪推されないために処理するのであった。

 ただ、一緒に吹き飛ばすとしても、二人の死体を一箇所にまとめて吹き飛ばすのは、言葉にすることはできないが、何となく嫌だった。


「誰もが笑って過ごせる世界……か」


 それが一体、どんな世界なのかは全く予想もつかない。だが、復讐を終えたその時、ファルコの願いを叶えるために生きるのも悪くないと思えた。

 ユリウスはバオファが叩いていた岩の破片を手に、ファルコの死体から十分距離を取ると、グリーディスミスを掲げる。


「…………」


 ユリウスの脳裏に、ファルコとの今日までの思い出がいくつも浮かんでは消えていく。

 辛いこと、苦しいこともあったが、ファルコは間違いなくユリウスにとって人生で初めての親友だった。

 もし、フォーゲル王国が健在で、違う形で出会うことができたらファルコとは親友になれただろうか?


「そんなこと、言うまでもない」


 間違いなく、親友になれただろう。

 それだけじゃない、一生涯付き合っていけるような大親友になっていただろうとユリウスは断言する。

 だから、


「ファルコ……君の遺志、確かに受け取った」


 ユリウスはファルコに別れの言葉を告げると、グリーディスミスを勢いよく振り下ろす。

 次の瞬間、金槌が岩を叩く甲高い音が響き渡ると同時に、バオファが仕掛けた岩が一斉に爆発し、辺り一帯、全てを吹き飛ばした。

いつも大変お世話になっております。柏木サトシです。

今回、話が少し長くなってしまいましたので、前後編に分けさせていただきました。

後編はこの後すぐに更新いたしますので、よかったら続けてご覧ください。

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