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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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届かぬ想い

 その後もユリウスは、一心不乱に折れた剣を振り下ろし続けた。

 狂気を帯びた爛々と怪しい光を放つ両目と、返り血で全身真っ赤に染まったユリウスの様子は、正に復讐に取り憑かれた悪魔そのものだった。


「ダマレ………………マレ……………………レ………………」


 だが、流石に体力の限界が近づいてきたのか、振り下ろす動きは徐々に緩慢になっていく。


 それでもユリウスは剣を振り下ろすのを止めない。


 それは、これまでイデアが生きていたことも知らず、のうのうと過ごしてきたことに対するせめてもの贖罪なのかもしれなかった。




 ユリウスはこのまま体力が尽きるまで……もしかしたら死ぬまでバオファだったものを蹂躙し続けるのかと思われたが、


「ユリウス!」


 戦線離脱していたファルコが、ユリウスへと体当たりするようにしてバオファから身を剥がす。


「ユリウス、もう止めるんだ!」

「ファル…………コ?」

「ああ、僕だよ。落ち着いて、もう君の敵だった男は死んでいるよ」

「死ん………………だ?」


 ユリウスは呆然とした様子で顔を横へと向けると、そこには胸部から上がぐちゃぐちゃに潰され、最早それが誰だったのかどうかも判別できないほど破壊し尽くされたバオファだったものがいた。


「あれは……僕がやったのか?」

「そうだよ。いくら何でもやり過ぎだよ。ほら、僕の剣が折れてしまっているだろ?」

「剣……」


 そう言われて握っている剣を見やると、確かに剣が折れしまって、刀身が半分以下になっていた。


「全く、君って奴は……」


 言われるがままに視線を彷徨わせるユリウスに、ファルコは苦笑しながら手を伸ばす。


「ほら、危ないから早く剣を手放すんだ。怪我の治療もしないといけないからね」

「…………あ、うん」


 ユリウスは差し出されたファルコの手に剣を手渡すと、もう片方の手で押し倒された姿勢から起こしてもらう。


「ほら、傷口を見せて。プリムほどじゃないけど、応急処置だけならできるから」

「…………ああ」


 ユリウスは胡坐を組むと、傷口のある右手の二の腕をファルコへと託す。

 ファルコは自分の着ている服をビリビリと破くと、慣れた手つきでユリウスの傷口へと巻いていく。


「よし、これで大丈夫なはずだ」


 最後に巻いた布が外れてこないことを確認したファルコは、満足そうに頷く。


「これはあくまで応急処置だから、早くプリムに見てもらうといいよ」

「…………ああ、そうだな」

「それで、ユリウス。奴の紋章兵器マグナ・スレストは何処にあるんだい?」

「……それならそこら辺に奴の右手と一緒に転がっているはずだ」

「ありがとう。探してみるよ」


 ファルコはユリウスに礼を言うと、立ち上がってバオファの紋章兵器を探しに行った。




「…………」


 ファルコの背中を見送ったユリウスは、再びバオファの死体へと目を向ける。

 途中から意識が飛んでいて何処まで自分がやったのか記憶は定かではないが、それでもバオファの言葉だけはしっかりと耳に残っている。

 死んだと思っていた家族が、自分に紋章兵器を託して別れたイデアが生きていた。

 それはとても喜ばしいことなのだろうが、素直に喜ぶこともできない。

 ユリウスは今日まで生き延びる為、ヴィオラに耐え難い苦痛を強いてきた。

 山賊たちがヴィオラに対して行ってきたことについて、彼女がいる前では知らない振りをしてきたが、実際はある程度のことは知っていた。

 そのことについてユリウスは今もヴィオラに対して負い目を感じているし、彼女が

山賊たちにされたことを考えるだけで、腸が煮えくり返り、もう死んでしまったはずの連中を頭の中で何度も殺し続けるほどだった。

 だが、おそらくイデアは、ヴィオラとは比べ物にならないほどの屈辱と恥辱の日々を送り、それが今も続いているらしい。

 ユリウスの頭の中のイデアは、五年前に別れたあの時のままだが、記憶の中の彼女が見ず知らずの男たちによって襲われ、汚されるかと思うと居ても立っても居られなくなる。


「……クソッ!!」


 どうして自分はこんなところにいるんだ。

 今すぐにでも飛び出して姉を助けに行きたい。

 そして、イデアを汚した奴等を一人残らず殺し、殺して、殺し尽してやりたい。

 それだけじゃない。イデアをそんな状況に追い詰めたレオンも、バオファとは比べ物にならないほどの苦痛と屈辱を与えて殺してやりたい。


「レオン・ユースティア…………」


 次の目標を定めたユリウスの目に、再び復讐と狂気の色が灯る。


「殺してやる……絶対に殺してやるぞ」


 ユリウスはここにはいない見たこともないレオンという人物を頭の中で何度も殺し続ける。


 その顔は、完全にファルコと出会う以前のユリウスに戻っていた。


 ファルコによって一時は信頼することを思い出したユリウスだったが、バオファの死の間際の言葉によって自分の存在意義を思い出した。


 自分の大切な故郷を、かけがえのない人を奪った奴等を一人残らず殺し尽す。


 するとそこへ、


「ねえ、ユリウス」


 ユリウスの異常に全く気付いていない様子のファルコから声がかかる。


「念願の復讐を果たしてどうだった?」

「…………どう、とは?」

「少しは気分が晴れたとか、清々したとかそういう感情はうまれたとかないかい?」

「……………………いや、最悪の気分だ」


 大袈裟にかぶりを振って落胆した様子を見せるユリウスを見て、ファルコは大きく頷く。


「そうか……」


 引き続きバオファの紋章兵器を探しながら、ファルコは何処か得心がいったかのように何度も頷く。


「ユリウス、僕はね。実は前から思っていたことがあるんだ」

「…………」


 その声にユリウスから返事はないが、ファルコは気にせず自分の考えを伝える。


「復讐っていうのは、何も生まない悲しい行為だってね」


 そこからファルコは、バオファの紋章兵器を探しながら、復讐がいかに空しい行為であるかを滔々と語り始める。

 その言葉に、一切の嫌味や曇りはない。

 ファルコは心の底からユリウスのことを想い、彼を復讐に囚われないで光の道を歩んでほしいという純粋な願いからの言葉だった。

 一つの復讐を果たし、その無意味さを知った今なら、きっと立ち直れるそう思っての行為だった。

 自分の言葉はきっとユリウスに届く。そう信じて自分の想いを告げたファルコは、彼の反応を見るために創作の手を一旦止めて振り返る。


「だからさ、ユリウス。よかったら僕たちとここから……」


 やり直さないか? そう告げるはずの言葉は続かなかった。

 自分の腹部に衝撃が走ったかと思うと、燃えるような熱を感じ、ファルコはそちらへ目を向ける。

 すると、腹部には小振りのナイフが刺さっており、傷口からじわじわと血が溢れ出て来ていた。


「…………えっ?」


 ファルコは信じられない物を見るように目の前を見る。

 そこには、目をギラギラと光らせたユリウスが鬼の形相で睨んでいた。


「…………ああ、本当に最悪の気分だ」


 ファルコの腹部からナイフを引き抜いたユリウスは、滴り落ちる血を舐めながら底冷えするような低い声で話す。


「すぐ目の前に報復できる相手がいたのに、それに気付かず、骨抜きにされそうになっていたことにな!」


 そう言うと、ユリウスは再びファルコへとナイフを振り下ろした。

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