呪いの言葉
「…………はぁ? な、何を言っているんだ」
バオファの言葉を聞いたユリウスは、全身から汗が吹き出すのを自覚する。
「僕の国を滅ぼした奴がファルコの兄だなんて……そんなはず」
「あるんだよ。お前は敵の懐でぬるま湯に浸かって、ヘラヘラと笑っていやがったんだ」
「――っ!?」
バオファの挑発に、ユリウスの頭に一気に血が上る。
思わず怒りに任せてバオファの顔を剣で刺し貫きそうになるが、どうにか堪える。
ここでこいつを殺すのは容易いが、まだ全てを聞き終えたわけではない。
大きく深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせようとするユリウスを見て、バオファの顔が嗜虐的に歪む。
「どうした? 衝撃の事実に言葉も出ないか?」
「…………そうだな。だが、それがどうした」
バオファから挑発をされても、ユリウスは動じた様子も見せずに不敵に笑って見せる。
確かにバオファの言葉は衝撃的だったが、奴の言葉が真実である保証はどこにもないし、ファルコもレオンのことは五年以上も音信不通となっており、何処で何をしているのかもわからないと言っていた。
だから、バオファの言葉が真実だったとしても、ファルコはレオンとは何の関係もない。こいつの言葉に惑わされる必要はないのだ。
「残念だったな。僕たちの関係を壊そうとしたのかもしれないが、お前の思い通りなんかにいかないからな」
「そうかい……そいつは残念だ」
口ではそう言うバオファだったが、その顔は変わらず嗜虐的に歪んでいる。
その顔は、ファルコのお蔭で人を信じるということを覚えたユリウスを堕とすなど、容易いと踏んでいるようだった。
バオファは残っている左目でユリウスを見やると、今さも思い出したかのように話を切り出す。
「……そういや、フォーゲル王国で思い出したんだが」
「おい、何を勝手に話して……」
「フォーゲル王国の王女……確か、イデアとかいったか?」
「えっ?」
「生きているぞ」
「――っ!?」
イデアという名前を出した途端、明らかに動揺するユリウスを見て、バオファの顔がさらに醜悪に歪む。
「な、な、なな……」
「どうした、お前の姉のことだ。聞きたくないのか?」
「うぐっ」
バオファの言うことを聞くのは業腹だったが、それより既に死んでいたと思っていたイデアの情報となれば、聞かないわけにはいかなかった。
「……聞か………………せろ」
「おいおい、それが人にものを頼む態度か?」
「……………………頼む。聞かせて…………くれ」
「…………ククッ、まあいい。その殊勝な態度に免じて教えてやろう」
バオファはやれやれとかぶりを振りながら、自身がフォーゲル王国が陥落した時に起きたことを話す。
フォーゲル王国がレオンの紋章兵器によって一瞬にして壊滅した後、崩れ落ちた城の地下から、イデアは発見されたという。
「城にいた奴は全滅だってのに、地下にいたから助かったっていうから、普通に考えれば運が良かったのだろうな」
「…………」
イデアが地下にいた理由は、ユリウスを城から逃がすために、秘密の地下水路へと案内したからだろう。そして、ユリウスを送り出した後、地上に戻る前にレオンの紋章兵器によって城は潰された。そう推察された。
全てが失われたと思ったが、最愛の姉が生き残っていたことがわかり、ユリウスは密かに嘆息する。
(可能なら、今すぐにでも会いに行きたいけど……)
それは現実的に不可能なので、必ず再会してみせるとユリウスは固く心に誓う。
だが、そんなユリウスの心に小さく灯った希望の灯を、バオファはあっさりと打ち消す。
「といっても、そこで死んでしまった方が姫様にとっては幸せだったかもな?」
「…………どういう意味だ?」
「そのままの意味だよ。敗北した国の重鎮、それも一国の姫がどうなるかなんて言うまでもないだろう?」
「…………まさか」
「そう、そのまさかだよ」
愕然とするユリウスに、バオファは下卑た笑みを浮かべる。
「イデア姫は、捕虜としてまともな扱いをされることなく、遠征によって女日照りになり、鬱憤が溜まっていた兵士たちの慰み者にされることになった」
「――っ!?」
「そりゃあ、最初は泣き叫んだものさ。適齢期とはいえ、まだ処女だった女がいきなり複数の、しかも名前も知らないような男たちに寄ってたかって犯されるわけだからな」
その時の光景を思い出したのか、バオファは呆れたように肩を竦める。
イデアがどれだけ助けを呼んでも、助けてくれるような変わり者はいない。
「むしろそうやって泣き叫ぶ姿を見て、興奮する男の方が多いってことをイデア姫は知らなかった。だから、男たちはより励んだものだよ」
「…………」
「毎日、意識がなくなるまで犯され続けてたよ。尤も、目が覚めたところで待っているのは順番待ちの男たちだったがな」
「………………」
「だが、一ヶ月も経つ頃には、泣き声にも変化が訪れたんだ。どうなったと思う?」
「………………………………」
「だんまりか。まあいい……聞いて驚け。イデア姫は数多の男に犯され続けて頭がイカれちまったのか、屋外まで聞こえるほどの喘ぎ声を上げるようになったんだ」
「…………………………………………れ」
「暴力によって全身痣だらけの精液まみれにも拘わらず、男が姿を見せると妖艶に笑って見せ、股を開いて男を迎え入れるようになった。たいした成長だと思わないか?」
「………………………………まれ」
「男たちのどんな要求にも応えるようになったイデア姫は、本来なら処刑されるところだったが、その殊勝な態度が認められて特別に生きることを許されたんだよ……男たちの、肉奴隷としてな」
「…………黙れ」
「あれから五年、弟が敵の親族と仲良く友情ごっこをやっている間も、イデア姫は毎日名も知らぬ男たちの前で股を開き続けているんだ。なあ、そんな淫乱な姉を持って、敵を前にしてもイカれることもできない、すっかり骨抜きにされた惰弱な弟はどう思うよ?」
「黙れええええええええええええええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇ!!」
ユリウスは絶叫しながら手にしていた剣をバオファの顔へと突き立てる。
「黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」
さらに二度、三度と、全力で振り被っては、容赦なく剣をバオファの顔目掛けて何度も、何度も振り下ろしていく。
加減もせず、ただがむしゃらに剣を振り下ろし続けていると、剣が半ばから折れてしまうが、それでもユリウスは半分以下の刀身になってしまった剣を振り下ろすのを止めない。
折れた剣の破片で手が裂け、傷口からかなりの勢いで血が噴き出しても、ユリウスは尚も動かなくなったバオファの肉塊へと剣を突き立て続ける。
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れだまれだまれだまれだまれだまれだまれダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレダマレ…………」
バオファの顔は、最早首から上が原形を留めないほどぐちゃぐちゃに潰れてしまっていたが、ユリウスは壊れた人形のように呪詛の言葉を吐きながら剣を振り下ろし続けた。




