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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
151/169

予測と予見

「そ……んな、馬鹿な」


 一方、一度ならず二度までも攻撃を完璧に読み切られたバオファの顔に、初めて焦りの表情が浮かぶ。


「奴の力は脅威を読み取る力のはずだ。その数には限りがあり、数が増えれば増えるほど、制御が難しくなる……はずだ」


 ならば、どうして先程まであれだけ怯えていたはずの男が、今ではこんなにもふてぶてしい態度を見せてくるのだろうか。


「――っ、そうか!?」


 そこである可能性に気付いたバオファは、すぐ脇の岩へとグリーディスミスを叩きつける。

 それは飛び散った破片を爆発させるのではなく、大岩を砕くための行為。

 既にグリーディスミスによって大岩は、岩ではなくバオファの武器へと変質しているため、軽く叩いただけであっさりといくつもの細かい破片となる。

 一抱えもある破片を手にしたバオファは、にんまりと口角を上げる。


「ククク、これだけあれば、奴の力を再び……」

「無駄だ」


 バオファの企みに対し、ユリウスから呆れたような声が飛ぶ。


「いくら数を増やしたところで、お前の攻撃はもう僕には届かない」

「何……だと?」

「聞こえなかったのか? 無駄だと言ったんだ」


 ユリウスは人差し指をバオファへと突き付けると、嘲るように笑う。


「一つ言っておくが、その破片をばら撒くと後悔するのはお前だぞ」

「……どういう意味だ」

「優しい僕が、憐れなお前にわざわざ忠告してやっているんだ。それを全て使ったところで、僕には傷一つつけられない。それどころか、自分自身を傷付けるだけの結果に終わるぞ」

「ハッ、何を言っている!」


 有り得ない。どうやら紋章兵器の力を制御できるようになったようだが、それでも所詮は見るだけ。こちらの力をどうこうできる力があるとは思えない。

 余裕を見せてはいるが、焦りを悟らせないための虚勢に過ぎないと見たバオファは、ユリウスの言葉を無視して一抱えの破片をユリウスに向けて放る。

 自分の力である以上、それぞれの破片の爆破範囲がどれほどになるかは、バオファには既に見えている。


 故に、ユリウスが言うような自爆するということは有り得ないのだった。


 グリーディスミスを振り上げたバオファは、降り注ぐ破片を前に恐怖で怯えているだろうユリウスの表情を見やるが、


「フッ……」

「――っ!?」


 変わらずこちらを嘲笑するように見ているユリウスの表情に、バオファの怒りが一気に頂点へと達する。


「このっ、痴れ者がああああああああああああああああぁぁぁぁ!!」


 バオファは怒りに任せて残りの破片を全て宙へ放ると、グリーディスミスを思いっ切り振り下ろし、僅かに残っている大岩の欠片に叩きつける。

 乱暴に叩きつけられた大岩の欠片が粉々に砕け散ると同時に、ユリウスに向かって投げられた岩の破片が空中で起爆し、細かい破片となって全包囲からユリウスへと襲いかかった。




 忠告を無視してバオファが岩の破片を放り投げたのを見たユリウスは、アイディールアイズから言われた紋章兵器の力の使い方を思い出していた。


 何もない白の世界で、どういう理屈なのか、空中で胡坐をかき、何かを楽しむようにウキウキとした様子のアイディールアイズが自分の赤い左目を指しながら尋ねる。


『ところでユリウス、君は左目で脅威が見えると思っているようだけど、本当にそれって脅威なのかな?』

「違うのか?」

『これは難しいところだけど、ユリウスがこの力を脅威と認識している以上、それは確かに脅威ではあるんだ』

「……どういう意味だ?」

『さっき言っただろ? 紋章兵器の力は思い込みの力だって』

「……なるほど」


 ユリウスは得心したように頷くと、気付いたことを話す。


「それはつまり、本来なら別の効果があるはずなのに、僕が脅威と思い込んでいる所為で、その力に絞られているということか」

『そうそう、流石に飲み込みは早いね』


 アイディールアイズは何度も頷きながらクルクルと宙で回る。


『でも、ユリウスの考えは妥当だよ。僕を使った殆どの人間は、この力を敵の脅威を見る先読みの力だと思っていたよ』


 だが、その認識では左目の力を十全には引き出せず、見える景色も漠然としたものになってしまう。それでも単体の攻撃に関しては、問題なく対処することはできるのだが、一気にたくさんの脅威が現れると、飽和状態になって認識できなくなってしまうという。


「つまり、力の使い方を正しく理解すれば、その問題は解決するんだな?」

『当然。そもそもボクは世界を見る目なんだ。脅威なんてみみっちいもので満足されては困るよ』

「…………」


 みみっちいと言われ、ユリウスは思わず苦虫を嚙み潰したような表情を見せるが、


「……では、聞かせてもらおうか。この左目の力とは何なのだ?」

「それについてはユリウス、君はもう答えを知っているはずだよ」

「何だと?」

「以前、巨人を前に得意気に話していただろう? あの時はハッタリだと思っていた、あれさ」

「……まさか」


 その答えに思い当たる節があったユリウスは、疑いつつも過去に自分が話したという左目の力についてアイディールアイズに問い質した。




(やれやれ、まさかあの時に吐いた嘘が真になるとはな……)


 ユリウスは苦笑しながら左目が映し出す世界に集中する。

 ユリウスの目には、バオファが投げた岩が空中で爆発し、破片の礫となって降り注ぐ光景が赤い軌跡となって見えていた。

 全包囲から容赦なく襲いかかる礫は、ユリウスの体を容赦なく穿ち、ズタズタに切り裂く様子まで見えた。


 だが、それはこのまま何もしなければ起きる光景であった。


 アイディールアイズから告げられた左目の本当の力とは、これから起きる未来を予見する力だった。

 一見すると脅威を先読みするという力と差は殆どないように思えるが、予見と先読みは同じようで全く違った。

 先読みとはこれから起こることを予測することであるが、予見はあらかじめ起きる光景を見ることである。

 予測と予見、ここにこれまでとは決定的な違いがあった。


「さて……と」


 ユリウスは一度目を閉じて再度集中すると、今度は右目の力を解放させる。

 左目の力と同じように、右目の力もまたアイディールアイズから正しい使い方を教わっていた。

 右目の力は、自信の視界を飛ばし、遠くを見るものだと思っていた。

 遠くの物を見る。そういった大まかな部分では間違いではないのたが、これもまた微妙に認識のズレがあった。

 右目の力は、視界を飛ばして遠くを見ている……のではなく、自分と見る先の空間を捻じ曲げて距離を縮めているというものだった。

 空間を捻じ曲げるといっても、人や物には干渉することはできないので、これを使って相手を直接倒すことはできない。

 だが、捻じ曲げておいた空間に触れた物は、その影響を少なからず受けるとのことなので――


「右目の力を使えば……」


 ユリウスは右目に力を込めて自分の周囲の空間に大きな歪みを発生させる。

 その後、左目の力で確認すると、飛来する礫は捻じ曲げられた空間によってあらぬ方向へと散らばっていくのが確認できた。


 これこそが予測と予見との最大の違いで、本来の力を知ることで、これから起こる出来事を完璧に読み取ることが可能になり、さらに先んじて干渉して起こる未来を改変することができるようになったのだった。




 ユリウスが自分の周囲を歪めると同時に、バオファがグリーディスミスの力を発動させるが、飛来する礫は捻じ曲げられた空間によってあらぬ方向へと飛び、ユリウスの体に傷一つ付くことはなかった。


 爆発による余波が納まり、無傷でバオファの攻撃を凌ぎったユリウスが顔を上げると、地面に蹲るバオファの姿が見えた。

 どうやら爆発の余波で生まれた礫によって傷ついたようで、赤銅色の肌に深々と岩の破片が突き刺さっていた。

 それを見たユリウスは、やれやれと大きくかぶりを振りながら嘲笑するようにバオファへと鼻で笑って見せる。


「ほらな、僕の言った通りだったろ?」

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