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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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覚醒

 ユリウスを排除しようした時、ファルコが身を挺して庇い、重症を負うのを見たバオファは、彼の部下が見たら裸足で逃げ出してしまうほど憮然としていた。


「……クソが!」


 燃えるような赤銅色の肌を怒りでさらに紅潮させ、激しく地団太を踏み鳴らしながらバオファは感情を爆発させる。


「何たることだ! まさかファルコ王子が、あの小僧を助けるとは……それが……それが王のすることか!」


 バオファにとって臣下とは、自分に傅き、奉仕し、果ては自分の盾となって死ぬものだった。これまで見て来た世界はそうやって成り立っていたし、そうでない国は次々と滅んでいった。


 そうして恐怖態勢を敷くことで常勝を重ねていったリーアン王国にとって、初と言っても過言ではない危機の訪れ。その報告を聞いた時、バオファは久しぶりに血が騒ぐのを自覚した。

 相手は民から光の王子などと呼ばれているミグラテール王国の第一王子、ファルコ。

 民から光の王子などと呼ばれているが、ここまで我が軍を追い詰めるとは、とんでもない実力の軍隊か、はたまた噂とは違い、自分に負けず劣らずの畜生か。

 どちらにしても、出会えば命の削り合いに興じることができると思っていた。


 だが、蓋を開けてみればどうだ。


 実力者であることは確かだったが、ファルコは予想を遥かに超えた腰抜けだった。

 仲間などという幻想に囚われ、紋章兵器の所有者だが、実戦では何の役にも立たないゴミを庇って戦闘不能に陥ってしまった。

 それを見た瞬間、かつてないほど昂っていたバオファの闘争心……漢の猛りが一気に萎えてしまった。


「…………もういい」


 こんなくだらない茶番にいつまでも付き合っていられなかった。

 バオファは小さくかぶりを振ると、無造作にグリーディスミスを振り上げる。

 地下に埋まっている爆発する岩の状態を確認するが、生憎と二人の足元の地中の岩の破片は、既に爆破させてしまっていた。


「……ならば」


 周囲に埋まっている岩の破片を一気に爆発させれば、爆風と舞い上がる岩の破片で二人を細切れにすることはできるだろう。

 そう判断したバオファは、近くの手頃な岩の破片のいくつかに目星をつけると、グリーディスミスを振り下ろす。

 次の瞬間、ユリウスたちを中心に大きな爆発が三つ、四つと立て続けに発生し、二人の体を黒い煙が包み込んだ。



「…………」


 爆発の余波で生まれた衝撃波と辺りに舞う細かい石の破片を前に、バオファは顔を覆って防御姿勢を取る。

 ユリウスたちとの距離は優に数十メートル離れていたが、それでもバオファの下まで無数の岩の破片が飛んできて、赤銅色の肌に細かな傷を付けていく。

 爆発の中心部から十分に距離を取っても、その余波だけでこれだけの目に遭うのだ。爆心地にいる二人の男たちがどうなったかなど言うまでもないだろう。


 衝撃波が一段落ついたら、死体の確認と紋章兵器の回収を行い、残った敵を一網打尽にして、この国を焼き尽くしてやろうと、バオファはそんなことを考えていた。


 すると、


「やれやれ、問答無用で不意討ちとは、中々のクズだな」

「――なっ!?」


 未だに晴れない黒い煙の向こうから嘲るような声が聞こえ、バオファは驚き、固まる。

 馬鹿な。そんなはずはない。敵の相手の脅威を読み取るという紋章兵器の力は既に封じている。こちらの攻撃を読み取れるはずが、あれだけの爆風と、その余波で生まれる岩の破片による数多の攻撃受けて無事でいるはずがないのだ。

 いくつもの考えがバオファの脳内を駆け巡る中、一陣の強い風が吹いて黒い煙を晴らしてくれる。

 その向こうから現れたのは、


「もしかして僕たちを倒したつもりでいたのか? だとしたら早計にも程があるだろう」


 眼前で人差し指を振り、自分の健在ぶりをアピールしながら不敵に笑うユリウスだった。




 初めて見るバオファの動揺する顔を見て、ユリウスはしてやったりとほくそ笑む。

 だが、動揺しているのはバオファだけではなかった。


「……今のは?」


 爆心地にいたにも拘らず、同じように無傷で切り抜けらたファルコもまた混乱しており、何が起きたのかをユリウスへと尋ねる。


「ユ、ユリウス……君は一体、何をしたんだ?」

「何をって……知っての通り、僕は何もしていないさ」


 そう言ってユリウスは肩を竦めてみせるが、ファルコの聞きたいことはそんなことではなかった。

 確かに爆発の瞬間、何をしたのかと言えば何もしなかった。

 敢えて言うならば、今いる場所から少し移動して、手足を中途半端に曲げた姿勢で寝るように指示されただけだった。

 後は目を潰り、爆発の余波が過ぎ去るのを死ぬ思いで耐えていたが、結果としてファルコの体には傷一つ付かなかったのだった。

 可能性があるとすれば、


「ユリウス、もしかして紋章兵器の新たな力を手に入れた、のか?」

「……ああ、今度は僕が奴を追いつめる番だ」


 そう語るユリウスの左目は幾何学模様が浮かび、何かを訴えるように赤く明滅を繰り返していた。

 果たしてそんな状態で碌に物が見えるのかとファルコは思うが、自信に満ちたユリウスの顔を見れば、そんなことは杞憂だと思われた。


「ユリウス……頼んだよ」

「任せろ。今の僕は無敵だ」


 大きく頷いたユリウスは、ファルコにその場にいれば安全だから動くなと厳命すると、ゆっくりとバオファに向けて歩き出す。

 その手には、ファルコから託された一振りの剣があった。

 ファルコから渡された剣は、ナイフよりは大きいが、普通の剣と比べると刃の短い剣の心得がないユリウスでも取り回しに困らない程度の長さの剣だった。


「うむ……」


 剣を軽く振りまわして調子を確かめながら、ユリウスは左目で自分の周りを見てみる。

 その目には、バオファが地中に埋めた爆発する岩の破片の在処、その全てが映っていた。

 アイディールアイズの力を制御することに成功した今となっては、これぐらいのことは造作もなかった。


 しかも、今はただ敵の仕掛けた罠が見えるだけではなかった。


「ん?」


 そうこうしている間に、左目に映る地中の岩の破片に変化が起きる。

 自分の前方、二つの岩の破片が赤く光り出したのだ。

 赤い光はあっという間に大きくなり、地中から暴風となって飛び出すと同時に破片を撒き散らし、周囲に甚大な被害をもたらす。

 破片はユリウスがいる場所にも当然届き、飛び散った無数の破片が体をズタズタに引き裂いてその命を奪う……………………………………………………………………はずだ。


 だが、それは現実に起きたことではなかった。


「ふむ……」


 ユリウスは小さく頷きながら横へ数メートル移動し、ファルコから受け取った剣を眼前に構える。

 次の瞬間、地中の岩が爆発し、爆風と共に無数の破片が周囲に飛び散る。


 先程、ユリウスが左目の紋章兵器で見た通りに。


 ユリウスに直撃するはずだった無数の破片はあらぬ方向へと飛んでいき、僅かに飛んできた破片も、掲げた剣の鞘によって全て防ぐ。

 そうして無傷で爆風を乗り切ったユリウスは、


「……フッ、浅はかだな」


 そう言ってニヤリと笑って見せると、再び剣を手にバオファへと歩みを勧めた。

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