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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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交易都市

 ミグラテール王国の王女を攫うと決めたナルベたち霧の山賊団だったが、いきなり敵の本拠地に乗り込んで計画を実行に移すほど愚かではない。

 先ずは情報収集、次にターゲットの動向を把握し、護衛の配置を覚え、準備を完璧に整えたところで適切なタイミングで事に及んで速やかに脱出する。

 ユリウスの指示に従い、それを忠実にこなしてきたからこそ、霧の山賊団はこれまでただの一人の犠牲も出さずに犯行を重ねてこられたのだ。


 今回も情報収集のため、ユリウスたちは王女がよく現れては民たちの治療を行っているというスワローの街へとやって来た。


 スワローは交通の要として発展したミグラテール王国第二の都市で、行商人を始め、多くの人が行き交うこの街に侵入するのは容易いことだった。

 行商人として街に侵入したユリウスたちは、一先ず人目を避けるために白い石でつくられた美しい街並みには目もくれず、暗く人気のない裏路地へと足を運んだ。


 辺りに人目がないことを確認したナルベは、変装用に被っていたフードを取りながら大きく息を吐く。


「ふぅ……やれやれ、暑くてかなわないな」


 その顔には大粒の汗が浮かび、見るだけで暑そうだった。

 ミグラテール王国は一年中暖かな温暖気候で、年中半袖で過ごせる陽気であるのだが、太陽が特に高くなるこの時期だけは例外で、暑さ対策を怠ると、命に関わる事態になるほど日中の気温は高かった。

 本来なら上着も着ずに、素肌を晒して過ごしたいと思うナルベたちだったが、街の中に怪しまれずに入るためには、顔が半分隠れるような変装をするしかなかったのだった。


 中に入ってしまえば、後はどうにでもなる。そう思っていたのだが……


「…………これだけ人が多いと迂闊なことはできないな」


 手で風を送りながらナルベが大通りに目を向けると、今も地方から選りすぐった自慢の商品を売り込む威勢のいい声が聞こえ、それらの商品を求める主婦たちの楽し気な喧騒が聞こえてくる。

 活気溢れる人の営みの中に、明らかにゴロツキ風情のナルベたちが姿を現したら、どうなるかなんて考えるまでもない。

 ナルベはやれやれと大袈裟に肩を竦めると、先程脱いだフードを再び被り、仲間たちに見えるように指でトントンと叩く。


「……というわけだ。お前たち、街の中にいる間は、絶対にこれを脱ぐんじゃねえぞ」


 その指示に、男たちが野太い声で「おうっ」と応える。

 それにナルベは頷いて応えると、一人さっさとフードを脱いでいるユリウスに声をかける。


「それで、王子様よ。街の中に入れと言われたから連れて来てやったが、これからどうするつもりだ。まさか、ここまで来てノープランなんてことはないよな?」

「フン、馬鹿にするな。街全体の構造の把握と警備の確認。それと、ターゲットの顔を実際にこの目で見ておきたい。せっかく表に出て来てくれているんだ。この機会を逃さない手はないだろう」

「ふむ……」


 ユリウスの提案に異論はないのか、ナルベは鷹揚に頷く。


「決まりだな。とりあえず王子様は、街全体を回ってこの街の構造を把握し、ついでに件の聖女様を見て来い。本来なら俺たちも一緒に行きたいところだが、人の多い場所にいくのは流石に控えた方がいいか……」

「当然だ。僕まで不審者扱いされて全ての計画がおしまいだ」

「言ってくれるじゃないか……だが、言うまでもないが、逃げようなんて馬鹿な真似、考えるなよ?」

「…………わかっている。ヴィオラを残して逃げるようなことは絶対にしない」

「どうだかな。まあ、そういう時のために……おい、ゼゼ!」

「へい、ここに……」


 ナルベが声をかけると、男たちの中から一人が前へ進み出る。


「これから王子様が街を徘徊するから、お前が一緒について何か問題が起きそうになったら王子様を助けてやれ」

「へい、お任せください」


 ゼゼと呼ばれた男はナルベからの指示に何度も頷くと「キシシ」と不気味な笑い声を上げながらユリウスに話しかける。


「というわけだ。何があっても俺っちが守ってやるから安心して見て回ってくれ」

「……ああ」


 ユリウスは適当に相槌を打つと、胡乱な目でゼゼを見やる。

 小柄な体格にぎょろりとした大きな一重まぶたの目、ネズミのように大きく突き出た前歯とかなり特徴的な顔をしているゼゼだが、強面の男の中では比較的まともな部類にまともな部類に入る……のかもしれない。だが、その真の目的は、ユリウスを守るのではなく、監視することが目的であることは明白だった。


 だが、ナルベがユリウスのことを信用していないのと同じように、ユリウスもまたナルベのことなど一ミリも信用していない。


 今回、街に来た目的は街の全容を知ることも勿論だが、最大の目的は霧の山賊団を壊滅させるための布石を打つことだった。

 そのためには、聖女を守護するためにやって来ているであろう、この国の正規兵たちと接触する必要があった。


(こいつが付いて回るのはめんどうだが、何処かで撒いて何としても詰所に駆けこまないとな)


 ユリウスはそう固く決心すると、何やら調子乗っている様子のゼゼを無視して一人で歩きはじめた。

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