告げられる弱点
爆発が起きる瞬間、地面の変化に気付いたユリウスとファルコは、身を投げ出すように左右に分かれて飛び退いた。
地中からの爆発は、大量の土砂を天へと巻き上げたが、幸いにも爆発の威力そのものは決して高いものではなかった。
だが、爆発と同時に発生する爆風は変わらず強力で、爆発の回避に成功してもユリウスたちはそれぞれの方向に激しく吹き飛ばされる。
それでも普段から鍛錬を欠かしていないファルコは、華麗な身のこなしで着地してみせ、二人揃っていたら危険だと判断してバオファから距離を取る。
一方、ユリウスの方はそんな力量があるはずもなく、地面に顔から叩き付けられてしまう。
「うぐっ……そんな、馬鹿な」
顔から地面に叩きつけられ、赤くなった鼻を擦りながら立ち上がったユリウスは、今の敵の攻撃が全く見えなかったことに絶句する。
正確には見えていないのではなく、常に見えているのだが、それ以上の脅威の判別がつかなくなってしまっているのだった。
これでは余計なものが見えてしまっている所為で、動きに抑止がかかり、ファルコの足を引っ張りかねなかった。
(だけど……それでも)
何の武力を持たない自分は、紋章兵器に頼るしかない。
ここは意地でも力を維持して、ファルコのサポートができる何かを見つけることが最善だった。
「…………」
試しに地面を穴が開くほど凝視してみるが、危険を知らせる赤色が見えるだけで、それ以上のことはわからない。
(でも、それっておかしくないか?)
ユリウスの紋章兵器、アイディールアイズの左目の能力は、確かに敵の脅威を色で判定するものだが、敵の攻撃が来る場合は、赤い軌跡となって見えていた。
だが、今は辺り一帯の地面、全てが脅威を示す赤に染まっているが、敵の攻撃が来る直前になってもそれ以上の変化起きなくなっている。
これではまるで……
「もしかして、俺の攻撃が見えなくて混乱しているのか?」
「――っ!?」
まるで考えを読まれたかのようなバオファの言葉に、ユリウスは心臓を鷲掴みにされたかのように驚き、飛び上がる寸前でどうにか留まる。
どうにか心を落ち着け、おそるおそる振り向くと、全てを見透かしたかのような笑みを貼り付けたバオファと目が合う。
「何で? どうして? って顔をしているな」
「違っ…………」
「ああ、別に答える必要はないぞ。俺も今さっき思い出したばかりだからよ」
バオファは顎の無精髭を撫でながら思い出したことを口にする。
「正確な年数は忘れたが……あれは山奥の国…………確か、フォーゲル王国だったか?」
「――っ!?」
祖国の名前を出されたユリウスが驚きと怒りで目を見開くと、それを見たバオファがニヤリと笑う。
「どうやら間違いないようだな。全く、俺の記憶力もたいしたものだな」
バオファは自画自賛しながらユリウスの紋章兵器が役に立たない理由を語る。
「以前、あの国を攻める時にあいつから言われたんだよ。覇王の軍師は、あらゆる攻撃を先読みするってな。だが、その力には弱点があるとも言っていた」
「弱点……だって?」
「どうやら自分で身につけている紋章兵器なのに何も知らないみたいだな……まあ、それもそうか。まともに先代から力について教わる時間などなかっただろうからな」
「…………」
挑発するようなバオファの言葉に、ユリウスは無言を貫いたまま黙って睨み続けるが、その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
口を一文字に固く結び、意地でも泣かないという気迫をみせるユリウスを見て、バオファは思わず苦笑する。
「ククク……悪かったよ。泣かしたお詫びじゃないが、特別に教えてやるよ」
そう言うと、バオファは聞いたというアイディールアイズの弱点について話す。
紋章兵器、アイディールアイズの力の一つである敵の脅威を見る能力は、斬撃や投擲と言った直線の攻撃に対してはかなりの精度で正確に軌道を読み取ることが可能で無類の強さを誇るが、元々、面の攻撃、特に広範囲に渡る攻撃に対しては、精度が揺らぐことがあるという。
さらに、正確に読み取れる数には限りがあり、力の制御が正しく出来ないと全ての脅威を無意識に見てしまうので、相手に広範囲に渡って無数の脅威をばら撒かれると、それだけで左目の能力を抑止できてしまうという。
「虫の知らせというやつか、これまでの経緯を追っていたら急にフォーゲル王国のことを思い出してな……念のためと思って、この岩を爆弾に変えた後、破片を細かく砕いてこの辺の地面に埋めておいたんだよ」
「そんな……」
「ガハハハッ、どうした。先程見せた威勢の良さがすっかり鳴りを潜めているぞ? この俺を殺したくて、憎くて仕方がないのではないのか?」
「うぐ……うぐぐぐ…………」
まさか相手がこちらの紋章兵器を把握して、その対策を練られていたとは思わず、ユリウスは涙を流しながら唇を噛み切る。
バオファの言うことが真実であるならば、ユリウスが正確に脅威を読み取ることができる数には限りがあり、力の制御ができなければ、何時まで経っても相手の攻撃を読み取ることができないという。
(力の制御……力の制御…………)
ユリウスは左目に力を込めながら、赤く染まった地面を凝視する。
だが、どれだけ目を凝らしても、力の制御ができていないのか、見える景色が変わることはなかった。
「クソッ! どうして僕は……」
いざという時に役に立たないのだ。
ここで紋章兵器の制御ができるようにならなければ、成す術なく死ぬしかないのに、いくら頭を捻っても、どうすればこの目に嵌った紋章兵器が言うことをきいてくれるのか皆目見当もつかなかった。
ユリウスは思わず左目を抉り出したい衝動に駆られそうになるのをどうにか堪え、泣きながらどうにか紋章兵器を制御しようと試み続ける。
だが、宿敵を目の前にしてその行為は、余りにも無謀過ぎた。
「ククク……馬鹿め」
ユリウスのすぐ足元に一際大きな岩の破片があることを知っているバオファは、興味を引きそうな話を振ることで足止めさせることにしたのだった。
「悪いが、まだファルコ王子が残っているからな」
本命であるファルコ相手に十分楽しむ為、おまけであるユリウスを始末するためにバオファはグリーディスミスを振り上げ、無慈悲に振り下ろす。
後数秒で爆風がユリウスを襲い、その体を木端微塵に吹き飛ばすところだったが、
「ユリウス!!」
バオファの動きからユリウスの危機を察したファルコが、決死のダイブでユリウスにぶつかり、その場から飛び退かせる。
次の瞬間、グリーディスミスが岩に激突してユリウスがいた足元で大爆発を起こした。
再び爆風に吹き飛ばされながら、ユリウスは己の愚かさを呪う。
「し、しまった僕としたことが……」
相手の口車に乗り、致命的な隙を晒してしまうなど、未熟にもほどがあると思った。
だが、幸いにも今回はファルコの気転によって命を救われた。
こうなったらせめて自分が囮となり、どうにか二人で協力してバオファを倒そう。ユリウスはそう決めると、自分の腰にしがみついているファルコへと話しかけようとするが、
「…………えっ?」
その手にぬるりと生暖かい液体が触れ、顔を青くさせる。
「――っ、ファルコ!?」
叫ぶようにファルコを見たユリウスの目に飛び込んできたのは、ぐったりと寄りかかり、息も絶え絶えと言った様子の血塗れのファルコだった。




