表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
147/169

恐怖へと立ち向かう

 バオファが紋章兵器マグナ・スレスト、グリーディスミスを地面に叩きつけると、ユリウスたちのすぐ後方で大爆発が起こり、地面を激しく揺らす。


「い、一体……何が」

「起きたんだ?」


 立っていられないほどの激しい揺れと、皮膚をチリチリと焼く熱量に、ユリウスたちは敵の前だというのに思わず後ろを振り返り、


「なっ……」

「そ、そんな……」


 二人揃って絶句してしまう。

 バオファへと続く道を切り開いてくれた仲間たちがいたであろう一帯、その全てが黒い黒煙に覆われ、何もかもが吹き飛ばされていたのだ。

 息をするだけで肺を焼かれるような熱風に煽られ、口を手で覆いながらファルコは目に涙を浮かべる。


「そんな、あれでは……」


 あの場にいた者はバオファの部下諸共、誰一人として生き残っていないだろう。


 彼等は、ミグラテール王国の騎士団を創設した黎明期からファルコを支え、共に歩んで来てくれたファルコにとって特別思い入れの深い仲間たちだった。

 今回、ファルコがユリウスと共にバオファへと奇襲をかける作戦を聞いた時も、途中でバオファを守る兵士たちの姿を見つけた時も、何も言わなくても自分たちから囮役を買って出てくれたのだった。


「…………クッ」


 特別に大切な仲間を失っただけでなく、自分の部下であろうと平然と殺してみせる卑劣な所業に、ファルコは目に怒りを灯らせてバオファを睨む。


「あなたは……なんてことを」

「ククク、ファルコ王子、いい表情をするではないか。そうだよ。その表情を待っていたんだ」


 憎しみの表情を受けたバオファは、嬉しそうに手を何度も打つ。


「仲間のお蔭なんて言う甘ちゃんだから、てっきり怒らない腰抜け野郎かと思ったが……何だ、ちゃんと怒れるじゃないか」

「……ふざけているのですか?」

「ふざけてなどいないさ。俺は何時だって本気さ。この俺をたぎらせてくれるような、命の削り合いができるような猛者を俺は常に求めている。そのためならば、役にも立たないゴミ共を斬り捨てることなど造作もない」

「……狂ってる」

「ハハハ、最高の褒め言葉だな。紋章兵器を持つ者は、誰もが大抵狂っているものさ。なあ、お前もそう思うだろう?」


 そう言ってバオファはユリウスの方を見やる。

 突然話を振られたユリウスは、言われたことに十分思い当たる節があったが、素直に答えるのも癪なのと、宿敵とのんびり論争するつもりはないので、目を合わせることなく素っ気なく答える。


「…………さあな、興味ない」

「つれないね。同じ紋章兵器を持つ者同士なら、この気持ちはわかると思ったんだがな……まあ、いい。今はそれより……」


 ユリウスから同意を得られなくとも特にそれを機にした様子も見せず、バオファは手にしたグリーディスミスを再び振り上げ、


「邪魔者は完全に排除した。ここから先は……」


 今度は地面ではなく、すぐ傍にあった地面に半ば埋没している白い巨大な岩へと振り下ろす。


「お望みの殺し合いの時間だ!」


 すると、カーンという甲高い音が、まるで試合開始の合図のゴングのように響き渡った。




「――っ、ヒッ!?」


 バオファが岩へとグリーディスミスを叩きつけると同時に、ユリウスは慄いたかのように悲鳴を上げて後退りする。

 あれだけバオファに対して強い殺意を抱いていたのに拘わらず、明らかに怯えるユリウスを見てファルコは怪訝そうに眉を顰める。


「ユリウス、どうかしたのか?」

「い、いや……その……だな」


 ユリウスはしどろもどろになりながらも、辺りを見渡しながら尚も下がり続ける。

 顔は青ざめ、全身に脂汗をかき、視線は耐えずあちこち彷徨う。明らかに普通でない状態のユリウスに、ファルコは落ち着かせようと手を伸ばす。


「ユリウス!」

「――っ!? ファ、ファルコか……」

「何があったんだ。敵を前にしてそんな怯えるなんてユリウスらしくないよ」

「怯えるだって! 僕が…………いや、そうだな」


 ファルコの言葉で少しは落ち着いたのか、ユリウスは小さくかぶりを振ると、辺りを注視しながら絞り出すように話す。


「どうやら僕たちは、かなりマズイ状況に陥っているようだ」

「……それが君の紋章兵器で見えていると言うんだね?」


 その言葉に、ユリウスは小さく首肯する。

 バオファと対峙した時から、ユリウスは脅威の度合いを色で示してくれる左目の紋章兵器を絶えず使用していた。

 そして、バオファが岩へと紋章兵器を叩きつけた瞬間から、ここら辺り一帯、全てが危険範囲であることを示す赤色へと変わったのを見て、逃げ場がないことに焦ってしまったのだった。

 その危険範囲には、当然のようにバオファも含まれているのだが、彼は特段気にした様子も見せずに、泰然とした面持ちで佇んでいた。


「えっ……と、それはつまりどういうことなんだい?」

「……とにかく油断ならない状況なのだけは確かだと言うことだ。どうやらここら辺り、一帯、全てが爆発の範囲に入ってしまったようだ」


 それはユリウスにとっては到底考えられない恐怖だった。

 これまで敵の攻撃に対して、観測、分析、予測を駆使して最適解を見出して戦ってきた。それは、特別な武力の才を持たないユリウスにとって、強敵と渡り合うための必須スキルでもあった。

 バオファが操る紋章兵器に対しても、ある程度の答えを持って来た。

 相手は対象を爆発物へと付与する力を有しており、その威力は対象の大きさによって比例し、大きな衝撃を与えることで発動する。

 そしてそれはある意味で間違っておらず、おそらくカルドアやブレットたちに授けた策はそれなりに上手くいったはずだった。

 だが、現にこうして目の当たりにしたバオファの力はどうだ。対象に振るうことで能力を付与することは間違っていなかったが、その効果範囲が規格外過ぎた。

 まさか自信を含む辺り一帯全てを攻撃範囲内に収めるほど強大な力を有しているとは思っていなかったのだ。


「……でも、それって逆にチャンスなんじゃないのかな?」


 ユリウスの話を聞いたファルコが疑問に思ったことを口にする。


「考えてみてよ。もし、ここら辺り一帯が爆発の範囲内になって、力を発動させたとしたら、奴自身も無事では済まないんじゃないのかな?」

「そんなはずは……」


 ない。と思いたいが、相手はユリウスの目から見ても明らかに狂人と呼ばれる部類の人物だ。とても常人が思いつく様な思考を持っているとは思えない。

 だとすれば、ファルコの言う通り、これはチャンスかもしれなかった。

 直接この目で見たことは片手で数えるほどだが、ファルコの剣の腕前は、セシルを上回るほどの実力であると聞き及んでいる。

 ならば、相手に肉薄してしまえれば、紋章兵器の力を使わせることなく、ファルコの剣で倒せてしまえるのではないだろうか。


「……確信はないけど、今はそれに賭けるしかないか」

「そうだね。一刻も早くこの戦いに終止符を打つためにも、僕たちでやるんだ」


 感嘆に作戦を決め合った二人は互いに頷くと、再びバオファへと向き直る。


「どうだ、お得意の作戦は決まったのか?」


 高所に立つバオファは、ユリウスたちが話し合っている間、自分も危険範囲にいるも拘わらず、変わらずその場に留まって余裕の笑みを浮かべていた。

 こいつは自分の置かれている状況がわかっているのか。そう思いながらも、ユリウスは恐怖を振り払うように不敵に笑って見せながらバオファへと話しかける。


「ハッ、そうやって笑っていられるのも今の内だ」


 一気に勝負を決めてみせる。作戦通り一気に距離を詰めようとユリウスが駆け出すと同時に、


「そうか、ならば精々、俺を楽しませるために踊ってくれよな」


 バオファが三度グリーディスミスを振るう。



 その瞬間、ユリウスたちの足元が熱を持ったかのように赤く輝き出し、


「なっ!?」


 大量の土砂を撒き散らしながら大爆発を起こした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ