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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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攻勢と反攻と

 それからもブレットたちは、リーアン王国の投石機を次々と破壊していった。


 爆発による事故はよくあることなのか、ブレットたちが次の投石機の破壊に向かっても、特に警戒した様子はなく、驚くほど簡単に二つ目の投石機を破壊してみせた。


 そのままの勢いで三つ目の投石機の破壊へと向かうが、短い間で立て続けに爆発事故が起きれば流石に相手も警戒するようで、三つ目の時には敵による待ち伏せに遭った。


 だが、そんなことは当然ながら想定済みであった。


「ブレット殿、ここは我々にお任せください」

「あの様子を見る限りでは、我々の相手にならないでしょう」

「まあ、見ててください。奴等をすぐに蹴散らしてみせますから」


 そんな頼もしい言葉の数々を告げるのは、ブレットについて別動隊の任務を任されたミグラテール王国の兵士たちだった。

 数こそ僅かに十名弱と少数だが、いずれも普段からセシルと研鑽を積んできているミグラテール王国軍の中でも屈指の実力者たちで、全体的に連度の高くないリーアン王国の兵士たちでは手も足も出ない…………そのはずだった。




 当初、大方の予想通り、歴戦の猛者であるミグラテール王国の兵士たちは、迎撃に出てきたリーアン王国の兵士たちを圧倒した。

 ブレットも後方から矢による攻撃で援護を行い、セシルは伏兵に備えて辺りを注意深く観察していた。

 投石機に一つにつき配属されたリーアン王国軍の数は決して多くなく、このままいけば敵の投石機を奪い、カルドアたちの援護に回れるかもしれない。そんな淡い期待をブレットが抱いた時、突如として目の前で仲間の一人がポン、という軽い爆発音と共に炎に包まれる。


「…………えっ?」


 何が起きたんだ。と目を見開いて状況を確認しようとするブレットだったが、


「あぐえぇぇ!」


 その前に何かに気付いたセシルに首根っこを掴まれて引き倒されてしまう。


「ね、姉さん!? 一体何を……」

「――っ!!」

「ヒッ、ご、ごめんなさい……」


 抗議の声を上げようとするブレットを一睨みで黙らせたセシルは、腰のラファーガに手をかけて腰を落とす。

 そして、ラファーガを顔の横へを引いて構える突きの姿勢を取ると、


「……フッ!」


 鋭く息を吐きながらラファーガを虚空へと突き刺す。

 すると、ビュオッ、という鋭い音を響かせながら、先程草を刈った時に比べるとかなり強い突風が発生する。

 ラファーガが生み出した風は、緑色の渦を描きながら放射状に広がったかと思うと、セシルたちの数メートル手前で爆発する。

 しかも立て続けに三回、赤い炎を上げながら爆発するのを見て、倒れたままのブレットは驚きに目を見開く。


「な、何で……どうして?」

「…………」

「えっ……敵の攻撃? 小さな石を投げてきているって?」


 以心伝心でセシルの思考を呼んだブレットは、少し冷静になって敵の様子を見てみる。

 そこにはセシルの言葉通り、こちらに向かって次々と石を投げてきている敵の姿があった。

 投げている石は、小石と呼んでも差支えの無い小さなものだが、敵の紋章兵器によって爆発するようになっているようだった。

 幸いなことは、爆発の威力が対象の大きさに依存する所為か、小石による爆発の直撃を受けても、死に至ることはないということだ。


 だが、最初に小石の爆破に巻き込まれたミグラテール王国の兵士は、驚いてのけ反った隙に、敵の槍で串刺しにされて物言わぬ死体となっていた。


「チッ、こんな奴等に……」


 明らかに実力で劣る敵に殺された仲間の無念を思いながら、ブレットは仲間を殺した敵を討とうと弓を構えるが、


「…………」


 セシルがブレットの視界を遮るように立ちはだかる。

 後ほんの少し、セシルが現れるのが遅かったら、姉の背中に穴が開いていたことにブレットはぞっ、と青ざめながら姉へと叫ぶ。


「姉さん、危ないじゃないか! 今の…かなり危なかったんだよ!」

「…………」

「えっ、少しは冷静になれって、この状況で何を……」

「…………」


 セシルは油断なくラファーガを構えたまま、顎でブレットにそちらを見るように促す。

 有無を言わさないセシルの迫力に、ブレットは口を尖らせながらもそちらを見やり、


「…………えっ?」


 驚きに目を見開く。

 そこには、こちらには背中を向けているはずの投石機が、リーアン王国の兵士たちによってブレットたちの方への回頭しているのが見えた。

 投石機には既に爆発すると思われる大岩が搭載されており、準備さえ整えば、すぐさまこちらに向けて撃ち出してきそうだった。


「わわっ、マジ!?」


 頭から冷水をぶっかけられたかのように一気に頭の冷えたブレットは、番えていた弓を投石機の向きを変えるために動かしているリーアン王国の兵士に狙いを変えて、矢を放つ。

 その矢は、狙い違わず一人の兵士のこめかみに突き刺さって命を絶つが、投石機の動きを止めるまでには至らない。


「クソッ、一人一人撃っていては駄目だ!」


 投石機を回頭させようとしている人数は、ここから見えるだけでも十人以上はいる。人数を減らせばそれだけ回る速度は遅くなるが、完全に止めるためには、半分以上の人数を削る必要がある。

 そう判断したブレットは、背中の矢筒から矢を三本一気に引き抜き、弓に番えようとするが、


「…………」


 その前にセシルがブレットの前に手の平サイズの物体を差し出す。

 それを見たブレットは、電撃が走ったかのように顔を上げて姉の顔を見る。


「姉さん、これは……」

「…………」


 ブレットと目が合ったセシルは、ラファーガで小さく風邪を生み出してみせながら力強く頷く。


「そうか、これなら……」


 それで全てを察したブレットは、予備の弦を取り出すと、矢の先にセシルから手渡されたそれを手早く結びつける。

 そう言って構えた矢の先には、敵が投げつけてきたものの、ラファーガに受け止められて爆発しなかった小石が結び付けられていた。


「これで、決めてやる!」


 素早く狙いを定めたブレットは、敵の投石機目掛けて矢を放つ。

 矢先に重りを付けた為、山なりの軌道を描くように発射された矢は、それでも狙い違わず真っ直ぐに回頭しようとする投石機目掛けて吸い込まれていき、


 着弾と同時に大爆発を起こした。


「ヒイイイィィィ……」


 爆発の余波に吹き飛ばされたブレットは、地面をゴロゴロと転がりながら情けない悲鳴を上げる。


「あだ……あだだだ…………」


 地面に伏せ、頭を抱えるようにして身を小さくしても、爆発によって巻き上げられた石や土砂が容赦なく体を襲い、ブレットは涙を流しながら嵐が過ぎ去るのを待つ。

 投石機を壊す度にこの爆風に耐えなければならないと思うと、それだけで気が滅入って来た。

 だが、その嵐が突如として嘘みたいにピタリと止まる。


「…………あれ?」


 今までの経験からまだ爆風が続くはずなのに、そう思ってブレットが顔を上げると、先程と同じように、セシルがブレットを庇うように立っていた。

 その手には、盾のように掲げられたラファーガがあり、セシルを中心に緑色が壁になるように渦巻いていた。

 自分もその盾の中にいることに気付いたブレットは、頼もしい姉の背中を見ながら感嘆の声を上げる。


「す、凄い……そんな使い方もできるんだ」


 そうこうしている間に、爆風は治まり、セシルは大きく息を吐いて風の壁を解除する。


 どんどん進化していくセシルの力があれば、もしかしたら敵の投石機を一網打尽にできるのではないか。そんな期待さえ湧いてくる。


「…………」


 だが、そんなブレットの考えを見透かしたかのように、セシルはふるふるとゆっくりとかぶりを振ると、いきなりブレットの手を取って走り出す。


「ね、姉さん!? いきなりどうしたんだよ」

「…………」

「えっ、後ろだって?」


 訳が分からないが、それでも走る速度を落とすことなくブレットが後ろを振り返ると、


「…………いっ!?」


 澄み渡った青空に、こちらに向かって物凄い勢い飛翔する三つの大きな影が見えた。


 どうやらブレットたちがいる場所が敵に悟られたようで、一部の敵が、カルドアたちより先にこちらを潰すことに決めたようだった。

 いくら何でも、あの質量の爆発に、セシルの風の壁が到底耐えられるとは思えなかった。

 となれば、一刻も早くこの場を立ち去らなければ、次は自分たちがこれまで潰してきた敵みたいに肉片一つ残らないだろう。


 どうやら他の仲間たちも、自分たちが窮地に立っていることに気付いたようで、ブレットたちに追従するように駆けていた。

 だが、こちらが走る速度より、明らかに飛来してくる大岩の方が早かった。

 みるみる大きくなる大岩を見ながら、ブレットは必死に足を動かす。


「う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」


 次の瞬間、ブレットたちがいた場所に三つの大岩が次々と着弾し、大地を揺るがすほどの大爆発を起こした。

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