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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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新たなる可能性

 リーアン王国軍による投石機を使った大攻勢が連合軍へと襲いかかり始めた頃、主戦場から離れた草が生い茂る藪の中で、別動隊として動いていたブレットは大きく息を吐く。


「ふぅ…………いよいよ、僕たちの出番だね」


 そう言ってブレットが後ろを振り向くと、彼の声に頷く仲間たちの姿が見える。

 ブレットのすぐ後ろには、片目を眼帯で覆い、頭に包帯を巻いた姿が痛々しいセシルがおり、ラファーガを手に力強く頷いてみせる。


 プリマヴェーラの紋章兵器を用いても、セシルの怪我を完治させることはできなかった。


 正確には、エレオスリングの力をしっかりと使い切ることができれば完治できたのだが、限りあるその力をヴィオラへの治療へと回してしまったので、そこまでの余力がなかったのだった。

 結果、セシルの片目の視力は戻らず、耳も殆ど聞こえないにも拘らず、彼女は健気にも文句一つ言わず、別動隊への参加を申し出たのだった。


 そんな無理を押しているセシルを、ブレットは心配そうに見やる。


「…………」


 すると、そんなブレットの視線から言いたいことを察したセシルが口を尖らせて「何か文句ある?」と目だけで話しかけてくる。

 体はボロボロでも、相も変わらずコロコロとよく変わる姉の表情を見て、ブレットは苦笑しながらも、彼女のに向かって大きく頷いて見せる。


「大丈夫だよ。今日は僕が姉さんの目と耳になるから、僕たちで皆を助けよう」

「…………」


 その言葉に、声は聞こえていないはずのセシルが納得したように大きく頷く。

 耳が聞こえないはずのセシルだが、双子の姉弟であるブレットの言いたいことはわかるようだった。

 それはブレットもまた同じで、セシルがこの作戦に参加するのが許可されたのは、二人の以心伝心があってこそのことだった。


「…………」

「うん、わかってる。一刻も早く行動に移そう」


 セシルに肩を掴まれたブレットは頷き返すと、残りの仲間たちと視線を交わし、これからの行動を目だけで確認し合って移動を開始する。




 ブレットたちは低い姿勢を維持したまま、生い茂る藪の中をガサガサと音を立てながら移動する。

 自然が豊富なラパン王国らしく、周辺に群生する草は、どれもブレットやセシルの身長よりも高く、敵から姿を隠してくれるのは幸いだった。

 だが、何者の阻害を受けずに奔放に育った植物たちは、温室育ちのそれと比べて、人に牙を剥くことが相応にある。


「…………ッ、痛ぅぅ……!?」


 注意して進んでいたつもりだが、分けた草が頬をかすっただけで、ブレットの頬に赤い筋が流れる。

 それはブレットだけでなく、他の者たちも同じようで、草を掻き分けて進む者たちは、誰もが体のどこかに切り傷を負っていた。


「…………」


 そんな中、ブレットたちと同じように指を切ってしまったセシルは、自分の人差し指から流れる血を見て、眉を顰める。

 そして、辺りを見渡して自分の周りの藪が思った以上に深く、抜けるにはまだまだ草を掻き分けて進まないと判断したセシルは、前を進むブレットの背中に手をかける。


「えっ、何、姉さん…………」


 汗だくになりながら草を掻き分けていたブレットは、額の汗を拭いながら後ろを振り返り、


「ちょ、ね、姉さん!?」


 飛び込んできた光景に、驚いて目を見開く。


 そこには、セシルが獲物を狙うような目でブレットを睨んでいたのだ。

 双子の以心伝心を持っても、どうして姉が睨んでいるのかわからず、ブレットは冷や汗を流しながら姉へと尋ねる。


「ね、姉さん、僕、何かした?」

「…………」


 ブレットの質問に、セシルは応えることなく無言のまま手を伸ばして後ろへ下げさせると、腰から相棒となったラファーガを抜き放ち、腰だめに構える。


「えっ、姉さん。まさか……」


 セシルが何をするのかを察したブレットは、慌てたように彼女へと手を伸ばす。


「姉さん、それはマズいよ! ここでそんな大きな力を使ったら、敵に僕たちのことがバレちゃうよ!」


 剣を振れないように腕を取るブレットに対し、セシルは不敵に笑ってみせる。


「…………」

「えっ、心配ないから任せろって?」

「…………」

「うう…………わかったよ。姉さんがそう言うのなら」


 自信に満ちた表情を見せる姉が頼りになることがわかっているブレットは、おとなしく引き下がることにする。


 自由になったセシルは、ラファーガを正眼に構えて力を解放させる。

 だが、そこでラファーガが普通とは違う輝きをを見せる。

 通常のラファーガは、六十センチほどの刀身全体が緑色に輝くのだが、今のセシルが構えるラファーガは、刀身の先だけがうすぼんやりと光るだけだった。

 いつもより輝きが抑えられているので、これならブレットたちが藪の中に隠れていることは敵に補足される心配はなさそうだった。


「すぅ…………」


 セシルは大きく息を吸うと、正眼に構えていたラファーガを顔の横へと引いて、突き攻撃の構えを取る。


「――ふっ!」


 そして、小さく息を吐き出しながら、ラファーガを何もない空間へと突き刺す。

 次の瞬間、ラファーガの先端から旋風が発生して深い藪へと突き刺さる。

 藪へと突き刺さった旋風は、渦を巻きながら立ち塞がる草木を次々となぎ倒していき、彼方へと消え去っていく。

 旋風が去った後は、調度、人一人が通れるだけの小さな小道ができていた。


「凄い…………」


 セシルの成果を見たブレットは、素直に感嘆の言葉を述べる。


「凄いよ姉さん。いつの間にラファーガの別の力を引き出す方法を知ったんだい?」

「…………」

「えっ、今さっきラファーガが教えてくれたって?」

「…………」


 ブレットの問いに、セシルはゆっくり頷く。

 セシル曰く、彼女が藪に手を焼いているの見兼ねたラファーガが、新たな力の使い方を示唆してくれたという。

 教えられたばかりの力を見事に制御し、悪戦苦闘していた藪の中に即席の道を造ってみせたセシルは、どうだと謂わんばかりに控えめな胸を張ってニヤリと笑ってみせる。

 それを受けて、ブレットは苦笑しながらも労うようにセシルに飲み物を手渡す。


「はいはい、これも全て姉さんのお蔭だよ」

「…………」

「感謝してるってば……本当だって」


 すっかりいつもの調子を取り戻した様子のセシルに、ブレットの顔にも自然と笑顔が浮かんでいた。

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