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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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炎熱の王

 翌日の早朝、山向こうから一日の始まりを告げる陽がようやくその姿を見せた頃、リーアン王国を統べる王、バオファが自身の就寝していた天幕から姿を見せる。


 二メートル近い巨躯の持ち主のバオファは、巨大な肉食獣の毛皮を赤く染めて作ったガウンを纏い、頭には王の証である金でできた王冠を頭に乗せている。

 よく見るとその王冠には、所々に赤黒いシミや黒い煤が見て取れる。これらのシミは、バオファがかつてリーアン王国を統べていた王を爆殺した時に付着したもので、自分の物とした証としてわざと残しているシミであった。


 そんな前王の血で汚れた王冠を誇らしげに見せつけながらバオファが闊歩すると、周りの者は委縮し、怯えたように頭を垂れて平伏する。


 そんな臣下の従順な態度に満足そうに頷きながら、バオファは昨日、ユリウスと対峙したラパン王国の王都近隣にある丘の上に姿を現した。

 バオファがここにやって来たのは、ラパン王国に出した降伏勧告の結果を聞くためだった。

 もし、相手が降伏を受けるのであれば、敵将の首と、こちらから奪った紋章兵器マグナ・スレスト、ラファーガを持って現れるはずだが、


「……フッ」


 目の前に広がる景色を見て、バオファは双眸を細めて薄く笑う。

 そこには、完全武装をして部隊を展開しているラパン王国とミグラテール王国の連合軍がいた。


「ククク、そうでなくてはな……だが、甘いな」


 不意を打とうと思えば打てたはずなのに、わざわざこちらが動くまで待っているなどこちらを舐めているのか、もしくは騎士道精神等というカビの生えた幻想を未だに抱いている愚か者の集まりなのだろうか。


「……まあ、不意打ちをしようとしたところで無駄なのだがな」


 昨晩のうちに本陣の至る所に触れれば爆発する罠を仕掛けておいたので、連中が不意打ちを仕掛けていた場合は、罠によって大損害を被るはずだった。


 バオファが持つ紋章兵器、グリーディスミスは、武器を生成する紋章兵器なのだが、バオファは本来の叩いた物質を武器に変えるのではなく、爆発物へと変えるということに使っていた。

 どうして武器ではなく、爆発物へと変貌するのかは、バオファという人間の性質が原因だった。




 元々ただの一兵卒であったバオファには、昔から人には言えない秘密があった。

 それは、抗いようのない、まるで本能が求めるような決して逃れることのできない渇望……。

 その渇きを埋めるため、バオファはありとあらゆることを試した。

 壊し、奪い、犯し、殺す。元々、他人と比べて倫理観が薄かったバオファは、自分がやりたいと思うことを次々と試していった。


 そうして幾人かの犠牲を経て、バオファが辿り着いた答えが炎だった。

 どうしてバオファが火に対して異様な執着を持ったのかというと、老若男女、強者弱者を問わず容赦なく全てを焼き尽くす様を見て、性的に興奮した時を遥かに超える快感に包まれたからだった。

 三大欲求を超えるかつてないほどの悦びを知り、同時にどうやっても癒せなかった渇きが無くなっていることに気付いたバオファは、次にどうすればさらなる快感を得られるかを考え、自分の妻を無理矢理犯した後に焼き殺し、自分の子供たちを家ごと焼き払った。


 燃え盛る我が家を見て悦に入っていたバオファは、そこである人物と出会う。

 不思議な魅力を持つその人物に従ってリーアン王国城内へと忍び込んだバオファは、宝物庫で自分の望む武器を生成するというリーアン王国の至宝の紋章兵器、グリーディスミスと出会う。

 そこでバオファは、グリーディスミスに自分に合う武器として炎を熱望し、グリーディスミスもまたそれに応えた。

 そうして紋章兵器の使い手となったバオファは、逆らう物を尽く焼き殺し、最後にはリーアン国王を焼き殺して自分が新たな王となったのであった。




 王となったバオファは、自分を紋章兵器へと導いてくれた人物と協力関係を結び、次々と他国へと侵略を繰り返し、略奪と破壊を繰り返し、その途中でユリウスの故郷であるフォーゲル王国をも攻め滅ぼした。

 今回、ラパン王国への侵攻も、協力関係となったその人物の差し金であった。


「まあ、この何もない国に一体どんな価値があるのかわからないが……」


 奪えるのなら、殺せるのなら理由などどうでもいい。

 さらに言えば、相手が必死になって抗ってくれた方が殺し尽した時の快感も一入なので、徹底抗戦してくれるのは非常にありがたい。

 先ずは前哨戦として、こちらが仕掛けた無数の罠に、幸か不幸か相手がかかることはなかった。

 だが、相手がこちらの投石機による爆撃に対して、何かしらの対策が立てられているようには見えない。


 猶予として与えた半日で、相手がどのような対策を講じてくるのか。それを考えると、ほんの僅かではあるが、バオファの中の渇きが癒されるような気がした。

 後はどれだけの血が流れるのか。自分を脅かすような脅威は現れるのか。

 ここまで手こずらせてくれた相手なのだ。少しは面白いものが見れるのではないかとバオファは予期していた。


「……まあ、後は精々、俺の渇きを満たしてくれよな」


 バオファはそう言って唇の端を吊り上げながら手を伸ばすと、眼下に広がる部隊を握り潰すように手を閉じた。

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