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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
140/169

披露

 相手の紋章兵器マグナ・スレストを打ち破る手はない。軍師であるユリウスがそう断じたことで、天幕内の空気は完全に凍り付いていた。

 勝つ為の作戦を立案するはずの軍師の手放しの降参とも言える発言に、この場にいる誰もが呆然と立ち尽くしていた。


 そんな中、いち早く正気に戻ったファルコが慌てた様子でユリウスへと質問する。


「ユ、ユリウス……ちょっと待って。相手の紋章兵器を打ち破る術はないって……どういうこと?」

「どうもこうも、そのままの意味だ」


 そう言うと、ユリウスは自分の目で見て、観測した相手の紋章兵器、先ずはその形状について話す。


「相手の紋章兵器だが、金槌の形をしていた」

「金槌?」

「ああ、両端が尖った変わった形の金槌だ。どうやらあれで叩かれると、使用者の意思によるものなのか、何かしらの要因が働いた時なのかは不明だが、爆発するようになるらしい」

「それじゃあ、見つかった生存者たちは……」

「捕まった時に叩かれたのだろう。どうしてそんなことをしたのかは、容易に想像がつくが、それはここでは伏せておく」


 ユリウスの見立てでは、敵が捕まえた民たちを爆発させた理由は、ラパン王国軍の心を傷付けるため、自分たちの力を見せつけるためだけのただの嫌がらせだと思っている。

 紋章兵器越しにバオファの顔を見ただけだが、その顔は、あの低俗な山賊たちと同じ、他者を弄り、辱めることに快楽を見出す嗜虐に満ちた顔立ちをしていた。

 だが、ここでそのことを話したところで何の解決にもならないし、怒りに任せて飛び出す者が現れては困るというものだ。


 ユリウスは「続けるぞ」と言って、今度は兵器としての威力について話す。


「既に知っていると思うが、あの投石機による爆発する攻撃は脅威だ」


 爆発の範囲は爆発物の質量に比例するのか、大岩による爆発かなりの広範囲に渡る。

 そして、さらに脅威なのは爆発した岩の破片だ。


「実を言うと、爆発の威力自体はたいしたことはない。そうでなければ、僕やヴィオラは跡形もなく吹き飛んでいるからな」


 ただ、それでも岩の破片による攻撃範囲の広さは絶大で、ユリウスが最後に左目の紋章兵器で視た危険範囲は、中隊規模の人数であれば楽々カバーできてしまうほどの広さを誇っていた。

 故に、あの投石による攻撃に狙われたら回避することは不可能。だからユリウスは、あの紋章兵器を打ち破る術はないと言い切ったのだった。


「……ちょっといいか?」


 すると、疑問があるのか、カルドアが手を上げてユリウスへと質問する。


「相手の攻撃がどれほど脅威なのはわかった。だが、どうして攻撃範囲が回避不可能なほどの広さがあるとわかるのだ?」

「わかるも何も、僕には見えているからな」

「見えて……いる?」

「そうだ」


 そう言ってユリウスは、前髪で隠れている右目を衆目に晒す。


「――っ!?」


 その瞬間、カルドアをはじめとする天幕内の人間が一斉に息を飲むのがわかった。

 前髪から出てきた筋張った右目、その青白く光る瞳に映る幾何学模様を見て、全員それが紋章兵器であることを理解する。

 驚いている者の中には、ラパン王国軍だけでなく、ミグラテール王国軍の者も少なからずおり、これでユリウスが紋章兵器の使い手であるということを、全員が知ることになった。


「……というわけだ」


 周りの畏怖するような視線を受けて尚、ユリウスは涼しい顔を崩すことなく唇の端を吊り上げてカルドアに向けて笑う。


「僕の目には、脅威を測ることができる紋章兵器がある。これで少しは僕の言うことを信じる気になったのではないか?」

「あ、ああ、わかった……だが、軍師殿が紋章兵器の使い手なら、どうして今まで黙っていたのだ?」

「別に言う必要はなかろう。僕の力に戦況をひっくり返せるほどの大きな力はないのだ。知っていようが、知るまいが君たちに要求する内容は変わらない」

「そ、それはそうかもしれないが……」

「それに、僕が紋章兵器の使い手だからと、それに頼るような脆弱な軍になられても困る。紋章兵器に頼った軍がどのようなものになるかは、言うまでもなかろう?」


 個々の実力は浅く、連携も碌にとれない。その割に態度だけは大きく、張り切ってやることといえば略奪と凌辱だけという軍というよりは賊という言葉が似合うような低俗な集団。

 言外にリーアン王国軍を馬鹿にしたようなユリウスの言葉に、カルドアは苦虫を嚙み潰したような顔になる。


「……確かに、その通りかもしれないな」

「だろう? だが、心配しなくていい」


 ユリウスは大きく頷くと、全員を見渡しながら微笑む。


「今回、僕がこうして紋章兵器の使い手であることを話したのは、君たちが信頼するに足る存在になったということだ。そのことは大いに誇っていい」


 ユリウスの尊大な態度に思わず苦笑する者もいたが、信用に足る存在になったと言われて悪い気はしないようで、その顔には笑顔が浮かんでいた。

 同じように苦笑していたカルドアも、どこか納得したように何度か頷くと、気になっていたことをユリウスへと尋ねる。


「軍師殿、君の考えはわかった。だが、君は先程、敵の紋章兵器を打ち破る術はないと言っていたが、それでも何か策があると考えてもいいのか?」

「無論だ。僕は勝ちを届けるためだけにここにいるからな」


 その頼もしい言葉に、天幕内のあちこちから「おおっ」という驚嘆する声が上がる。

 絶対に回避不可能な長大な力を持つ相手を前に、一体どのような策を持って戦うというのか。

 全員の期待に満ちた視線が集まる中、ユリウスは大きく息を吸うと、自身が考えた作戦を完結に伝える。


「今回、君たちには死んでもらう」

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