驕る者たち
ユリウスの目論見通り、数多くの成果を残し、調子に乗ったナルベたちは自分たちこそが最強と信じ、これまでとは比べ物にならないほどの相手に手を出そうとしていた。
「頭ぁ……張っていた連中が動きましたぜ」
それは定期的に待ちへ出て情報を集めている男からの報告だった。
ユリウスが持つ紋章兵器が山賊行為に対して有用でも、その効果範囲には限界があり、遠く離れた街や城の様子まではわからないので、目ぼしい標的を見つける為の斥候をナルベはあちこちに放っていた。
今日はそのうちの一人、とりわけ新たな紋章兵器についての情報を集める男からの報告だった。
喜色を浮かべる男を労いながら、ナルベがもったいぶったように質問する。
「それで、そいつの紋章兵器は使えるのか?」
「へえ、それは……どんな傷でも病でもたちどころに治してしまうっていう奇跡の力でさ。聖女様と呼ばれているミグラテール王国の王女がそれを使って、民たちを無償で救ってるって話ですわ」
「ほう、そいつは金になりそうだな」
「それはもう……我々の力にすれば、決して倒れない無敵の兵が大量にできたも同然ですぜ。そしたら国盗りも夢ではないですな」
「ククク……そいつは面白そうだ」
ナルベは獰猛な笑みを浮かべると、控えている部下たちに良く通る声で話しかける。
「おい、聞いたか野郎共。聖女様だかなんだか知らないが、紋章兵器の力を慈善事業なんかに使おうなんて、頭がイカれてるとしか思えない人間がいるそうだ。これはもう、正しい使い方を教えてやるべきだと思わないか?」
「そうだそうだ」
「病気が治せるなんて触れ込みがあれば、貴族からいくらでも金をむし取れるぜ」
「これはもう、俺たちの出番だな」
ナルベの煽りに、山賊たちは口々に自分勝手な戯言を吐く。
「……決まりだな」
山賊らしい、汚い言葉の数々を心地よさそうに聞いていたナルベは、拳を高々と掲げて宣言する。
「次の得物は、ミグラテール王国の王女だ。野郎共、ぬかるんじゃねえぞ!」
その言葉に山賊たちは「おうっ!」という鬨の声を上げた。
「……いよいよだ」
盛り上がる山賊たちを三白眼で睨みながら、ユリウスが手を繋いだままのヴィオラに話しかける。
「あいつ等、僕の読み通り、分もわきまえず手を出してはいけない領域に足を踏み入れようとしている。それが自分たちの破滅を招くとは知らずにね」
「……果たしてそんなにうまくいくのでしょうか?」
「大丈夫だよ」
ユリウスは心配そうに眉を寄せるヴィオラを励ますように、繋いだ手に力を込める。
「そのために奴等に協力してきたんだ。それに王女奪還の作戦は僕が考えるんだ。失敗するはずがない。だからヴィオラは安心して吉報を待っていて欲しい」
「…………はい、信じていますよ。ユリウス」
主の頼もしい言葉に、ヴィオラは表情を全く変えないまま静かに頷いた。




