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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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告げられる一言

 ミグラテール王国軍とラパン王国軍、二国揃っての軍議は難航を極めていた。


 天幕の中央に設えられた巨大なテーブルを挟んで立つ二国の代表、ファルコとカルドアの間には、撤退したリーアン王国軍からリーアン王、バオファの名前で送られてきた書簡が置かれていた。

 中身は、二国への無条件降伏。今日の襲撃は、自分たちの力を知らしめるための挨拶で、降伏を受け入れなければ、紋章兵器マグナ・スレストを使った全力攻撃で、王都を含めて国中を焦土に化すという脅し文句が書かれていた。

 だが、書簡に書かれた無条件降伏が問題だった。


「こんな降伏勧告。受け入れられるはずがない!」


 怒りに任せてテーブルに拳を打ち付けながらカルドアが語気を荒げる。


「このような屈辱……例え無残に殺されるとしても、許容できるはずがない!」

「同感です。これはもはや降伏勧告とは呼べません」


 カルドアの意見に、ファルコも同意するように頷く。

 二人の指揮官が怒りを露わにするリーアン王国軍の降伏勧告の内容は、次のようなものだった。


 ラパン王国軍とミグラテール王国軍の両軍は、速やかに全ての武装を放棄し、奪った紋章兵器を変換すると共に指揮官の首を差し出すこと。


 戦闘に参加した者は、リーアン王国軍へと迎え入れる準備がある。ただし、その場合には一人につき一つ、仲間の首を差し出す必要があること。


 今回、リーアン王国が受けた損害賠償として、金貨五千万枚を差し出し、さらに毎月、金貨十万枚を差し出し続けること。

 約束した金が支払われない場合は、この国に住む全ての民を人としての権限を剥奪し、家畜とする。家畜となった民は、一切の衣服を着ることは許さず、一切の言葉を喋ることも禁ずる。

 家畜となった民は、求められればどんな場所、どのようなことでも、それが例え命であっても喜んで体を差し出すこと。


 それ以降に書かれているのは、家畜となった後の民の扱いについての記述が続いていた。

 人の尊厳を踏みにじり続ける数々の文言に、ファルコは辟易したように降伏勧告が書かれた書状を握り潰す。


「……カルドア将軍、我々もあなたたちと同じ気持ちです。リーアン王国のこれ以上の暴挙を許さないためにも、死力を尽くして戦いましょう!」

「ファルコ様…………ありがとうございます」


 カルドアは感極まったように鼻を啜ると、ファルコの手を取って深々と頭を下げる。


「我が国への数々のご協力、痛み入ります。このご恩は必ず……必ずやお返しいたしますから……」

「気にしないで下さい。ラパン王国の危機は、隣国である我が国への脅威に繋がる問題です。こうして手と手を取り合えるのも何かの縁です。どうか、今後とも我々と良好な関係を築いていきましょう」

「…………恐縮です」


 ファルコが差し出した手をカルドアが恭しく握り返すと、この場に集まった者たちが一斉に沸き立つ。

 ミグラテール王国とラパン王国、二国の絆はより強いものとなるだろうと誰もが思っていた。


 しかし、絆が深まったからといって、目の前の問題が解決したわけではなかった。

 ファルコもカルドアも、そのことは重々承知していたが、せっかく士気が上がっているのに水を差したくないという考えからか、敢えてそのことを口にしなかった。


 すると、そこへ……


「全く、どいつもこいつもお気楽だな」


 水を差すような一言を平然と言ってのける人物が現れる。


「あれだけの力を見せつけられて、まだ抵抗しようなんて……君たちは本当に愚かだな」


 天幕の入口に寄りかかるようにして立つユリウスは、全員の非難するような視線を受けて大袈裟に肩を竦める。


「といっても、ここで逃げていない時点で、僕も十分過ぎるくらい愚かだがな」


 そう言ってユリウスがニヒルに笑ってみせると、天幕内の緊張が一気に緩和される。


「ユリウス! 来てくれたんだね!」

「……まあな、ここで逃げたらこれまでの僕を否定することになるから……なりますから」

「そうか、深くは聞かないけど、力を貸してくれるってことでいいんだよね?」

「安心して下さい。そのつもりだ……です」

「もう、そんなに畏まらないでいいよ。皆とっくに君がそういう人間じゃないことは理解しているからさ」

「む、そうか……」


 苦笑するファルコに、ユリウスは照れたように視線を逸らしながら頬をかき「コホン」と一つ咳払いをすると、


「では、僕なりのやり方でいかせてもらおう」


 唇の端を吊り上げる邪悪な笑みを浮かべると、机の上の書状を手に取る。

 中身にザッと目を通したユリウスは、呆れたように大きく嘆息すると、書状をビリビリに破いて投げ捨てる。


「こっちは最初から連中を鏖にするつもりなのに、随分と呑気なものだな」

「み、鏖って……」

「何を言っている」


 思わず絶句するファルコに、ユリウスは鋭い視線を向ける。


「これまで連中の非道を見て、まだそんなことを言う余裕があるのか? 奴等を一兵でも逃せば、さらなる悲劇を生む可能性があるのだぞ?」

「それは……うん、そうだね。ゴメン、僕が間違っていた」


 状況は最早、話し合いで済む状況ではなくなっていた。

 自国を守るため、撤退をするわけにはいかないファルコたちと、圧倒的な力の紋章兵器を持つ王が率いるリーアン王国軍。互いに絶対に譲れないものがある以上、どちらかが折れるか、全滅するまで戦うしかないのであった。

 そのことを理解したファルコは、大きく深呼吸を一つすると、改めてユリウスに問う。


「それで、ユリウス。敵を殲滅させるとして、どうやってやるつもりだい? 相手の紋章兵器をどうやって破るつもりだい?」

「そうだな……それについて一つ言っておくことがある」

「言っておくこと?」

「ああ、大事なことだ。敵の紋章兵器についてだ」


 ユリウスがそう言うと、全員が緊張したように一斉に押し黙る。

 全員の視線を受けたユリウスは机に両手を置くと、相手の力についてわかったことを伝える。


「この目で見てわかったことだが、相手の紋章兵器を打ち破る術は……ない」


 その言葉に、全員の表情が凍りついたのは言うまでもなかった。

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