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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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奪還、そして……

 巨人を失ったリーアン王国軍が壊滅するまで、それほど時間はかからなかった。


 無敵と思われた巨人が堕ちたという情報が、戦場に駆け巡った瞬間、ラパン王国軍は沸き立ち、リーアン王国軍の間に動揺が広がったのが契機となった。

 さらにそこへファルコたちミグラテール王国軍が、ラパン王国軍に合流したことで勝敗は決したも同然だった。

 もはや勝機なしと悟ってしまったリーアン王国の兵士たちは一様に浮足立ち、隊列は乱れ、混乱の余り早々に武器を放り出して逃げ出す者もいた。

 指揮官と思われる人物が慌てた様子で諫めようとするが、既に決壊した部隊の士気が元に戻るはずもなく、逃げ惑うリーアン王国軍の兵士に対し、王と都を奪われたラパン王国軍は追撃戦を仕掛け、一兵たりとも逃すことなく容赦なく叩き潰していった。




「我等の悲願はここに叶った。皆、勝ち名乗りを上げるんだ!」


 暁の空に向かってカルドアが愛用の剣を掲げると、ラパン王国軍の兵士たちは一斉に獲物を掲げて鬨の声を上げる。

 その声には、王都を奪還することに成功した喜びだけでなく、どこか哀愁めいた悲しみが滲んでいた。

 それはやはり王都を取り戻したとしても、城の玉座に座る王を失った悲しみと、主を差し置いてむざむざ生き残ってしまったことの自責の念があるからだろう。

 だから彼等の上げる声には、この国の誇りを取り戻したという想いの爆発以外にも、死者たちに捧げる鎮魂歌の意味合いもあった。


 その後も、ラパン王国の兵士たちによる大地を揺るがす鬨の声は、誰が指示したわけでもなくいつまでも続いた。



「ふぅ……今回もどうにかなったね」


 叫び続けるラパン王国軍たちを遠巻きに見ながら、ファルコが大きく嘆息する。


「勝てたのは喜ばしいことなんだろうけど……」


 そう言ってファルコが見やる先は、精も根も尽き果てたかのように休息を取っているミグラテール王国軍の兵士たちだった。

 今日まで大きな被害を出すことなくどうにか連勝を重ねてきたミグラテール王国軍だったが、巨人との戦いで実に二百人近い死者を出すことになってしまった。

 これは全体の十%を超える損害であり、ミグラテール王国軍だけでのこれ以上の進軍は事実上不可能といえるだろう。

 こうなると一度本国に伝令を送り、どうにかして兵の補充をしないとな。そんなことをファルコが考えていると、


「死者の国への送還作業、終わったぞ」


 事後処理を行っていたユリウスが報告のために現れる。


「……全く、百名を超える死者を出したのに、たったの馬車二台に収まってしまうなんてな。紋章兵器に対する戦い方をもう少し考えないと、人員がいくらあっても足りんな」

「…………」

「どうした? 僕の顔に何かついているか?」

「いや、逞しいなって思ってさ」


 一つ間違えれば自分も亡くなっていたはずなのに、それを気にした様子もなく既に先のことを考えているユリウスに、ファルコは苦笑を浮かべると、小さくかぶりを振る。


 彼に倣い、自分も切り替えるべきだ。ファルコはそう判断すると、気になっていたことについてユリウスに尋ねる。


「それで結局、敵の紋章兵器マグナ・スレストの正体については、わからなかったんだのね?」

「セシルが完全に破壊してしまったからな。文句があるなら僕じゃなくて彼女に言えよ」

「いや、いいんだ。別に責めているわけじゃないんだ」

「本当にそうか? お前、最初はあの紋章兵器を手に入れて来いって僕に言おうとしていただろ?」

「そ、そんなこと……」


 ない。と言おうとするファルコだったが、


「…………」

「いや、申し訳ない。その通りだよ」


 無言のユリウスに三白眼で睨まれ、観念したように手を上げる。

 当初、ファルコは巨人になる紋章兵器を手に入れれば、これからの戦闘を楽にこなせるかもしれないと考えていた。


「だけど、その為に数多くの犠牲が必要であることを知った今では、手に入れなくて良かったと思っているよ」

「そうだな。僕もあの紋章兵器はどうかと思うよ」

「えっ?」


 ユリウスの反応に、今度はファルコが眉を顰める。


「いや、ユリウスならてっきりどんな犠牲を払ってでも、勝てばいいと言うと思っていたんだけどな」

「……お前は僕をどういう人間だと思っているんだ」


 ユリウスは心外だと謂わんばかりに大袈裟に肩を落として反論を口にする。


「確かに僕は勝つ為ならばどんな手を厭わないつもりだが、あれは駄目だ。あれは僕の考えと根本から違う」


 確かに巨人になって戦う能力は強力だが、あの巨人がいては作戦も何もあったものではない。圧倒的な力を持って敵を殲滅できる兵器があるのならば、誰もがその力に頼るだろうし、それを運用するための労力を惜しまずに使うだろう。


 だが、それは思考の放棄に他ならない。


 強い力に依存する組織は、その力が排除された時に一気に瓦解する危険性が高い。

 事実、リーアン王国軍の兵士たちは、士気の差があったとはいえ、ラパン王国軍を前に善戦することも敵わず、巨人が堕とされた後は見るに堪えない無残な有様だった。


「あんな醜態を晒すような軍を、僕が認めるはずがない」

「……じゃあ、ユリウスが目指している軍ってどんなものなの?」

「そうだな……」


 ユリウスはおとがいに手を当てながら、自身の考えを披露する。


「僕が立てた作戦に対し、全員が自分で判断して最良の結果を出してくれる。そんな軍隊だな」

「……流石にそれは絶対に無理だろう」


 まるで夢物語のような構想を語るユリウスに、ファルコは呆れたように肩を竦める。

 だが、多大なる犠牲を払って力を得るような独りよがりな軍隊よりは、全然マシだとファルコは思う。


「もし、ユリウスが言うそんな軍隊ができたら、戦いの被害はかなり抑えられるだろうね」

「当然だ。僕が作戦を立てるんだ。最小の被害で最大の功績を出すに決まっている」

「そうか……じゃあ、そんな軍隊を作れるように頑張らないとな」

「ああ、僕のために精々、役に立つ駒を揃えてくれよな」

「……もう、君はまたすぐにそういうことを言う」

「ああ、冗談だからな」

「知ってる」


 軽口を言いながらユリウスとファルコは笑い合う。

 互いに気を許している心地よい感覚に、ユリウスの顔も自然と綻ぶ。

 まだまだ未熟なところが多々あり、見ていてまどろっこしいところがあるファルコだが、いるだけで心地よい気持ちにさせてくれる彼の気質に、ユリウスはすっかり心を許していた。


 もし、生まれ故郷であるフォーゲル王国が健在であり、その国の王子としてファルコと出会っていたとしても、今と同じような関係を築けただろうか。


(……そんなの決まっている)


 どんな出会いであったとしても、ファルコとはいい友人になれたと確信をもって言える。

 そしてこの関係がこれからも続いて欲しい。そんなことを考えていた。


 すると、


「ファ、ファルコ様! 急いでお耳に入れたいことがあります」


 そこへ王都の様子を確認していた兵士から緊急の報告が入る。

 その切羽詰まった様子に、ファルコはすぐさま顔を引き締めて兵士に尋ねる。


「それで、一体何があったの?」

「は、はい、実は王都の中に生き残りがいたんです!」

「えっ、本当に!?」

「本当です。中には小さな子供いたようで、今、セシル様が迎えに行っています」

「そうか……よかった」


 その報告を聞いたファルコは嬉しそうに破顔すると、ユリウスに向かって興奮したように捲し立てる。


「聞いたかいユリウス。僕たちの努力は、無駄じゃなかったんだよ!」

「ああ、そうだな」

「こうしちゃいられない。早く助かった人たちの元気な姿を見に行こう」

「わかった……わかったから腕を引っ張るな」


 興奮が抑えきれない様子のファルコに苦笑しながら、ユリウスはおとなしく彼の後に続いた。




 兵士の案内で生存者が見つかったという場所までファルコたちが来ると、


「あっ、ファルコ様! ユリウスーー!」


 二人の姿を見たセシルが嬉しそうに大声を上げる。

 セシルの手には、生存者と見られる小さな少女の姿があり、それを見たファルコたちの顔にも自然と笑顔が浮かぶ。


「一人でも多くの民が無事なら、それだけ早く国が復興できるね」

「ああ、そうだな……」


 これならラパン王国が復興するまでそう時間がかからないかもしれない。そう思ったファルコたちがセシルに向かって手を振り返そうとした時、



 突如として、セシルが赤い閃光に包まれて爆発した。

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