巨人の最期
どういうわけか、こちらに背を向けたまま後退してきた巨人に対し、セシルはラファーガを横に薙ぎ払うようにして巨人の両足を一刀に斬り捨てる。
「――っ!?」
支えを失ったところでようやくセシルの存在に気付いた巨人だったが、セシルの猛攻は止まらない。
巨人の両足を斬り捨てたセシルは、態勢を崩した巨人の脛を蹴って飛びあがりながら、右腕を斬り捨て、さらに首元へと張り付く。
伸ばされた手をひらりと華麗に交わしたセシルは、ラファーガを腰だめに構えると、
「はああああああああああああああっ!」
気合一閃、緑色の光を煌めかせて巨人の首を刎ね飛ばした。
セシルが巨人の肩を蹴って着地すると同時に、巨人は操り人形の糸が切れたかのようにその場にどう、と倒れる。
巨人を倒したセシルは、プリマヴェーラから使い手は脊髄に潜んでいると聞かされていたので、恐る恐る巨人の刎ねた首元へと近づく。
すると、
「…………あ、あが…………」
奇跡的にラファーガの攻撃を回避したエバが、息も絶え絶えといった様子で巨人の首元から這い出てくるところだった。
「い、痛い…………痛いよ。クソッ、どうして俺がこんな目に…………」
「…………」
滂沱の涙を流し、悪態を吐きながら悶えるエバを見て、セシルは顔をしかめる。
いくら紋章兵器という破格の力を持っていたとはいえ、自分たちはこんな戦士としては三流以下の男に何人もの仲間を殺され、いいように振り回されてきたのだろうか。
「早く……早く逃げてもう一度、もう一度アーミーハーツの力を……」
アーミーハーツとは、男の胸に寄生するように嵌っている赤く脈動するグロテスクな鉱石のようなものだろうか。そう思ったセシルは、この男は絶対に逃がすことはできないと足早に近付く。
「早く…………ヒッ!? お、お前は……」
セシルの姿を見たエバは、顔面蒼白になりながら這うように巨人の首から脱出し、この場から立ち去ろうとする。
「させないわ!」
それを見たセシルは、一気に距離を詰めると、立ち上がろうとするエバの背後からラファーガを思いっきり彼の背中に突き立てる。
「――っ、あがっ!?」
エバの胸に嵌った紋章兵器毎胸を貫いたセシルは、
「果てなさい!」
ラファーガをエバの頭頂部目掛けて思いっきり振り上げ、上半身を縦に二つに裂いてみせる。
「あぼぶばばばばばばぁぁぁ……」
エバは断末魔の悲鳴を上げ、血と脳症を辺りにまき散らしながら絶命する。
エバの死と共に、胸の紋章兵器が粉々になって散っていくのを確認したセシルは、
「……あの世で自分のしてきた罪を償うことね」
静かに呟くと、ラファーガを鞘へと戻してゆっくりと歩きはじめた。
「終わったようだな」
巨人が倒れ、紋章兵器が消えて行くのを確認したユリウスは、大きく息を吐く。
「奴が阿呆なお蔭でどうにか命拾いしたな」
「命拾いしたな、じゃありませんよ!」
すると、すぐ隣からユリウスを叱咤する声が聞こえる。
「もう、こんな無茶ばかりしないで下さい!」
そう言うとプリマヴェーラは、巨人と対峙した時に繋いでいたユリウスの右手を強く引く。
ユリウスの右手を無理矢理開かせると、そこにはまるで溶接したかのような痛々しい傷跡が刻まれていた。
この傷は、プリマヴェーラの紋章兵器が他者と繋がると効果が上がると巨人に信じ込ませるため、ユリウス自身で傷付けた傷だった。
特に怪我を負っていなくても、エレオスリングを発動させること事態はできるのだが、実際に怪我の治療を行った方が、それもより深い傷の回復の方がより強い光が出るということで、ユリウスは手の平を貫通するほど強くナイフを突き立てたのであった。
「いくら敵の注意を引くためだからって……嘘を真実に見せるためだからって、こんなことやっていたら、ユリウス様の命がいくつあっても足りないですよ」
プリマヴェーラはボロボロと涙を零しながらユリウスの右手をしかと握る。
「わたくし、確かにユリウス様のお力になると約束しましたが、このような無茶はこれっきりにすると約束してください」
「さあな、こればっかりは約束できんな」
「そんなっ、どうしてですか!?」
「単純な話だ。僕たちが弱いからだ」
ユリウスは冷静に、自分たちが置かれている状況を分析しながら話す。
「これまで見てきてわかっただろう。僕たちが持つ紋章兵器は、弱くはないが強くはない。敵を殲滅するほどの力もなければ、戦況をひっくり返す策が安易に打てるわけでもない。セシルが手に入れた武器だって、あの巨人に比べれば可愛いものだ」
「それは……」
「だろ? その分、僕たちが支払っている代償は安いのかもしれないが、敵はそんなことはお構いなしだ」
だからユリウスたちが取れる手は一つしかない。
道理を覆すために、無理を通すだけだ。
…………だが、
「今回に限って言えば、絶対に勝てる自信はあったけどな」
そう言って得意気に唇の端を吊り上げるユリウスを見て、プリマヴェーラはキョトンと目を見開く。
「そ、そうなのですか?」
「そうだ。相手は普段なら自分からは絶対に前に出ない、攻撃も優位を取った時しか攻めない極端に憶病な性格をしていたからな」
敵の性格を深層まで読むことができたからこそ、ユリウスはセシルがやって来るまでの時間稼ぎに相手を騙すという作戦を取ることを決め、より成功率を上げるために自分自身を傷付けることを躊躇わずに行ったのだった。
「というわけだ。無茶をするなと言うが、これは無茶ではない。必要だからやったまでだ。それに……」
ユリウスはプリマヴェーラの目を真っ直ぐ見据えると、顎を掴んで顔を引き寄せて、耳元で甘く囁く。
「僕が怪我をしたら、プリムが飛んできて治してくれるのだろう?」
「――っ、は、はい、それは勿論……」
顔を赤面させ、カクカクと操り人形のように頷くプリマヴェーラを見て、ユリウスは満足そうに頷く。
「頼りにしているぞ。さあ、最大の敵は打ち倒したんだ。後は残った敵を掃討して、王都を取り戻すぞ」
「はい、行きましょう」
ユリウスが差し出した手をプリマヴェーラはしかと握り返すと、ファルコたちと合流するために二人並んで歩きはじめた。




