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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
132/169

真の力は?

 最後の力を振り絞って巨人の攻撃を避けたユリウスは、


「ぷはぁっ、も、もうダメだ!」


 ついに限界がやって来て、近くにあった家の中にプリマヴェーラ共々、倒れるように飛び込む。


 そこは、投石機によって壊された建物の一つで、ユリウスは這うように移動して建物内にあった大岩に背中を預ける。


「はぁ……はぁ……も、もう……動けない」

「ユ、ユリウス様!? 大丈夫ですか?」


 息も絶え絶えといった様子で喘ぐユリウスに、すぐさま立ち上がったプリマヴェーラが紋章兵器マグナ・スレストによる回復を施す。


「体力回復とはいきませんが、痛みはある程度和らげる効果はありますから」


 プリマヴェーラがの言葉通り、先程まで苦しくて仕方がなかった脇腹の痛みが和らいでいく感覚に、ユリウスの顔から苦悶の表情が消えて行く。


「……すまない。もう充分だ」


 痛みが無くなり少しは楽になったが、まだ吐く息は荒く、ここからまた先程と同じように逃げ続けられる自身はなかった。

 それでも随分と楽になった礼をプリマヴェーラに言ったユリウスは、紋章兵器を使って周りの状況を確認する。


 先程から大岩による投擲が行われないと思っていたが、どうやら既にストックが底を尽いたようで、だからこそセシルがこちらに向けて動き出したようだった。

 あれだけの大岩、用意しろといってもそう簡単には用意できないだろうから、投石機による援護はもう期待できないといっていいだろう。


「となるとやはり、これしかないか……」


 そう言ってユリウスは、腰のベルトから一振りのナイフを取り出すと、プリマヴェーラの方を見やる。


「先ほど説明した通りだ。いいな?」

「はい、お任せください」


 力強く頷くプリマヴェーラにユリウスも頷き返すと、ナイフの刃を見て大きく深呼吸をした。




 ユリウスたちが逃げ込んだ家の前々やってきた巨人は、大穴が空いた屋根に手をかける。

 木製の屋根をベキベキと力任せに引き剝がすと、そこには二人の人影がいた。

 一人は謎の光を用いて巨人の力を削いでみせたフードを被った人物。そしてもう一人は、同じ色のフードを外し、素顔を晒したまだ若い、少年といっても差支えの無い男が並ぶように手を繋いでこちらを見ていた。




 ユリウスを見た巨人は、思った以上に若い二人の顔に驚きながらも、もう逃げようとしない二人に向かって話しかける。


「どうした。逃げないのか?」

「…………」


 観念したように立ち尽くすユリウスたちを見て、巨人がようやく追い詰めることができたと笑い出す。


「ハハッ、どうした? 顔色がよくないではないか。そんな様子で俺から逃げられるとでも思っているのか?」

「逃げる? 勘違いしてもらっては困るな」


 嘲笑する巨人に、ユリウスは呆れたように肩を竦める。


「僕たちはもう逃げる必要がなくなったんだよ」

「……どういうことだ?」

「そのままの意味だよ」


 ユリウスはぐるりと屋根を剥ぎ取られた家の中をぐるりと見渡すと、巨人に向かって自信に満ちた表情で告げる。


「ここがお前の墓場となる場所だ。だからこれ以上は、逃げる必要がないのさ」

「俺の墓場……だって?」


 ユリウスの言葉に、巨人は大きく身を屈め、震えたかと思うと、


「ククク、クックック、ハッハッハーー!!」


 体を大きくのけ反らせ、大声で笑い出す。


「俺の墓場だって!? 何を言い出すかと思えば、お前は自分が置かれている状況がわかっているのか?」


 巨人は両手を広げてユリウスたちがいる家の縁を両手で掴むと、顔をユリウスたちに近づけて大声で捲し立てる。


「お前たちはこの俺の両手で収まる小さな家に押し込まれ、逃げることすら許されない! そして、お前たちの内の一人は、観測に長けた紋章兵器が使えるようだが、それさえ潰してしまえば、残る者を殺し尽すのは造作もない。違うか?」

「ほう、よくわかっているじゃないか。だが、一つ勘違いをしているぞ」

「何だと?」

「僕が持つ紋章兵器の力さ」


 そこでユリウスは、前髪をかき上げると、無数の虫に侵食されたかのような筋が走った右目を晒す。


「――っ、その目は……」


 明らかに異常な状況に陥っているユリウスの右目を見て、巨人の紅い目が驚きで強く光る。

 それを見たユリウスは、不敵な笑みを浮かべて自分の右目を指しながらその能力について話す。


「僕の紋章兵器は、相手を観測するのではない。未来を見る力なのさ」

「未来……だと?」

「そうだ。僕の目には数分後のお前の姿が……大量の死体の中で息絶えているお前の姿が映っているのさ」

「ハッ! 戯言を……」


 突拍子もないことを言い出すユリウスに、巨人は怒りを露わにするようにユリウスたちがいる家の壁を威嚇するように粉砕してみせる。


「そんな力……そんな力、あるはずがない!」

「あるじゃないか。だって、現にほら……」


 ユリウスは自分の周りを見てみながら唇の端を吊り上げる。


「お前が癇癪を起こしても、僕たちに何一つ被害は及んでいない」

「――っ!?」


 冷静な声で言われ、状況を理解した巨人は動揺したように後退りする。

 感情に任せて家の壁を破壊したのは全くの偶然だったにも拘わらず、家の中は散々たる有り様でも目の前に立つ二人には何一つとして傷を負っていなかったのだ。


 これも全て、ユリウスの左目の紋章兵器によるものなのだが、


「そんな、まさか……」


 そんな事実を知る由もない巨人は、本当に未来を見る紋章兵器が存在するのかと明らかに動揺する。


「まさか、本当に?」


 先程ユリウスが話した「大量の死体の中で息絶えている姿が見える」という言葉を思い出し、これまでの経緯を思い出す。


 投石機による神がかりな命中率の高さを、どうやって行っていたか。


 どうして、自分の能力が人々の死体を肉として構築しているのを知っているのか。


 繰り出した攻撃を、ことごとく回避してみせたそのカラクリは。


 その全ては、未来を見ていたからと言われれば説明がつく。


 もしかしたら本当にそんな力の紋章兵器があるのかもしれない。巨人の脳裏に、そんな考えが浮かんだ時、


「さあ、終わりにしようか」


 声が聞こえ、顔を上げると、フードを被ったもう一人が放つ緑色の光が見えた。




「これが何の光か、言うまでもないだろ?」


 ユリウスは、プリマヴェーラと繋いだエレオスリングの回復の光に包まれた手を掲げながらその効果について話す。


「この光は、他者から力を与えてもらえればその効果範囲を飛躍的に伸ばすことができるんだ。ここまで言えば、僕が何をするのかわかるだろう?」

「――っ!?」


 それはつまり、先程は一部分だけだった能力の解除を、全身に及ぼすことができるというわけだ。

 アーミーハーツという強力無比な力を持つ巨人ことエバは、その圧倒的な紋章兵器の力に頼りきっているので、本人の能力は並の兵士よりかなり劣る。

 そんなエバが、アーミーハーツの力を無効化されてしまったら、辿るべき結末は一つしかない。


「クッ、だったら……」


 ここは一先ず距離を取って緑色の光から逃れるしかない。

 そう判断したエバは、ユリウスたちを油断なく注視しながら、距離を取るために大きく飛んで後退する。


 だが、それこそがユリウスの真の狙いだった。


「こ、ここまで来れば……」


 謎の緑色の光を最大限警戒し、おそらく安全であろう距離まで後退したエバを待っていたのは、


「もらったわ!」


 警戒すべき回復の光ではない。本物の破滅を告げる緑の刃だった。

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