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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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密かな想い

「あの巨人は、バラバラにした人たちを粘土のように固めて造った謂わばお人形みたいなものです」


 巨人を見て気付いたことをプリマヴェーラはユリウスに伝える。


「使われている人数まではわかりませんが、あの大きさと強度から、かなりの人数……五十人以上の人が使われていると思われます」

「五十人……その人数は当然?」

「ええ、ラパン王国の罪なき民だと思いますわ」

「そうか……」


 別にラパン王国の民がどうなろうがしったことではないが、一度退けた巨人と再びまみえた時、斬ったはずの手足が元に戻っている可能性が高いことを知り、ユリウスは表情を曇らせる。


 プリマヴェーラが巨人の秘密に気付けたのは、普段から命と向き合っているから……ではなく、彼女の紋章兵器マグナ・スレスト、エレオスリングの能力の一つであった。


 エレオスリングには、より上質な命を求めるための嗅ぎ取る能力があり、ユリウスのアイディールアイズのように明確に見えるわけではないが、命の質を感じることができるのだという。

 そして、バラバラにした人たちで造られた巨人の命の質は非常に悪く、色で言うなら腐った汚泥のような色をしているのだという。

 エレオスリングと感覚を共有しているプリマヴェーラは、だからこそ巨人に対してあそこまで強い怒りを抱いたのであり、さらにとんでもないことを言い出したのである。



(全く……本当にとんでもないことを言ってくれたものだな)


 ゆっくりと歩を進めながら、ユリウスは呆れたように嘆息する。


「どうしましたか?」


 すると、ユリウスのすぐ隣から可愛らしい声が聞こえる。


「まだ、巨人の気配は感じませんから、そう緊張なさらなくても大丈夫ですよ」

「言われなくても知っている。そもそも見ることに関しては、プリムより僕の方が長けている」

「フフッ、そうでしたわね」


 口元に手を当てて上品そうに笑うプリマヴェーラを見て、ユリウスは彼女に見えないように再び小さく嘆息し、彼女の姿をまじまじと観察する。

 ユリウスに寄り添うように並んで歩くプリマヴェーラは、いつもの神官を思わせるような純白のローブではなく、何の装飾もない白の地味なチュニックに、ベージュのロングスカート、そして、それらをすっぽりと覆うグレーのローブを身につけていた。


「……そ、そんなに見つめられると照れてしまいます」


 すると、ユリウスの視線に気付いたプリマヴェーラは、恥ずかしそうに身じろぎしながらローブのフード部分を不安そうに掴む。


「あの……もしかしてこの格好、変ですか?」

「いや……そんなことはない。よく似合っている」

「そうですか……よかった」


 プリマヴェーラは心底安心したというように胸を撫で下ろすと、嬉しそうにユリウスの腕に自分の腕を絡めて微笑を浮かべる。


「フフフ……わたくしたち、お揃いですね」

「そうだな……」


 そう言われたユリウスも、プリマヴェーラと同じグレーのローブを身につけていた。

 何がそんなに嬉しいのか、終始ニコニコと笑顔を浮かべているプリマヴェーラに、ユリウスは顔をしかめて苦言を呈する。


「おい、あんまりくっつくな」

「いいじゃありませんか。ここにいるのは、わたくしたち二人だけなのですから」

「だったら尚更だ。ここは敵地で、遊びに来ているんじゃないんだ。僕たちのなすべきことを忘れたわけじゃあるまいな?」

「大丈夫ですわ。それこそ忘れるわけありません」


 プリマヴェーラは得意気に人差し指を立てると、確認するように今回の作戦を話す。


「お兄様たちを囮にして巨人を惹きつけている間に、わたくしとユリウス様の二人で、あの憎たらしい巨人に一泡吹かせてやろうというわけですわね」

「……まあ、その通りだ」


 プリマヴェーラの優秀な回答に、ユリウスは苦虫を嚙み潰したような顔になる。


 作戦の概要はこうだ。

 現在、ファルコたちにはカルドアたち、ラパン王国軍に合流するように動いてもらっている。

 伝令の話では、リーアン王国軍と激突したラパン王国軍は、破竹の勢いで王城に向けて侵攻しているという。

 互いに紋章兵器を持たない状況では、やはり地理に詳しいというのと、是が非でも自分の王都を取り戻したいという強い想いが士気の差に現れているようだった。

 ここにファルコたちが上手く合流できれば、リーアン王国は巨人を残して一気に全滅することになる。

 いくら一騎当千に等しい力を持っているとしても、無限に活動できるはずがない。

多大な犠牲を払うかもしれないが、物量で押せばいくら巨人とて倒し切れるだろう。


 そんな事態を巨人が見過ごすはずがない。


 そして、巨人が前線に出て来たところで、ユリウスの案内でプリマヴェーラが巨人にエレオスリングによる回復を行い、巨人化を解こうというものだった。

 本来なら一国の姫を紋章兵器を持つ敵に接敵させる作戦が許されるはずもないのだが、プリマヴェーラが頑としてこの作戦以外を認めなかったので、ファルコも周りも折れるしかなかったのだった。


 その作戦のため、ユリウスたちは部隊を離れてプリマヴェーラと二人で、巨人が消えた方角へと向かっていた。

 僅かな民家と田畑だけだった景色は、王城が近づくにつれて民家の割合が増え、同時に死角も増えるので、ユリウスは常に右目の紋章兵器を発動させて敵兵が潜んでいないか確認しながら注意深く歩いていた。

 何度目かの路地を折り返したところで、ユリウスはプリマヴェーラに確認するように問いかける。


「今回の作戦では、ファルコたちに具体的な指示を出せないから、僕たち独自で動く必要がある。非常に危険な作戦だが、大丈夫なのか?」

「はい、わたくし、こう見えて体力には自信がありますから」


 プリマヴェーラは力こぶをつくってみせると、フン、と鼻を鳴らす。


「それに、わたくしのことはユリウス様が守ってくださいますのよね?」

「当然だ。全力は尽くしてみせる……だが、それでも絶対ではないんだぞ?」

「ええ、わかってます」


 プリマヴェーラは大きく頷くと、微笑を浮かべる。


「わたくしの命は、既にユリウス様に捧げていますから」

「そうか……」

「それにわたくしが質問した時、すぐさま全力で守ってくださると仰って下さいました。それだけで十分です」

「そう……か」


 プリマヴェーラからの全幅の信頼に、ユリウスは思わず恥ずかしそうに視線を彼女から逸らす。


「と、とにかく、奴が動く前に奴が認識できる場所までとっとと移動するぞ」

「はい、お供します」


 早足になるユリウスの背中を追いかけながら、プリマヴェーラはうっとりしたように目を細める。


(ああ、やはりとても綺麗な色……)


 全てを奪われ、絶望し、復讐しかないと言いながらも、自分の意思を強く持って前へ進むユリウスの姿は、プリマヴェーラの目にはとても強く、美しい色に輝いて見えた。

 そんなユリウスがこの先、どんな道を歩むのか。


(そして、叶うならばわたくしの願いをユリウス様に……)


 自分の想いを密かに想いながら、プリマヴェーラはユリウスに遅れないように後に続いた。

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