アーミーハーツ
片腕と片足を失ったリーアン王国軍の巨人、エバは這う這うの体で自分の拠点がある王都の中心街まで戻って来た。
「クソッ、まさか投石機すら陽動に使うとは……次会ったらあの女、握り潰しながら顔を引き抜いてやる」
悪態を吐きながらエバは投石機をによって一部を壊された兜を掴むと、そのまま強引に兜ごと首から上の部分を引き抜く。
ブチブチと音を立てながら頭を引く抜くと、大量の血を吹き出しながら首の部分から一人の小柄な男性が這い出てくる。
ギョロリと死んだ魚のような濁った目をした小柄な男性こそが紋章兵器、アーミーハーツの使い手であるエバであった。
「早く回復しなければ……」
全身が血まみれのエバは、自身が薄い下着一枚の姿であることや、そこかしこから血が滴り落ちていることを気にする様子もなくズカズカと乱暴な足取りで一軒の民家の扉を蹴破る。
「敵にやられた。すぐに敵が来るからすぐに修復だ。急げ!」
家の中に向かって大声で怒鳴るようにエバが叫ぶと、中からリーアン王国の兵士たちが縄で縛られた人々を引き連れてわらわらと出てくる。
「ヒィィィ……」
「お、お願いだから。もう、止めてくれ」
エバの姿を見て涙を流しながら命乞いをするのは、ラパン王国の王都に住んでいた何の武力も持たない普通の民たちだった。
「おい、腕と足、それと頭だ! 早くしろ!」
そんな民たちの嘆きの声を無視して、エバは血走った目で口角から泡を飛ばしながら自分の部下たちに命令を下す。
その声に、部下たちは慌てた様子で十数人の民たちに目隠しをすると、うつ伏せにして横一列に並べる。
目隠しをされ、ガタガタと震える民たちの後ろに回った兵士たちが、一斉に斧を構えたところで、
「やれ!」
エバが非情な命令を下すと、兵士たちは一斉に民たちの腕を斬り落とし、続けて足も次々に斬り落とす。
「うぎゃああああああああああっ、腕が…………足がああぁぁ……」
「あ、ああ、ああああああああああああああああっ!!」
「痛い! 痛いよ…………」
「う、うわああああああああああああああああああああああああ!!」
手足を斬り落とされた民たちは、血を撒き散らしながら泣き叫ぶ。中には痛みの余りに失神してしまう者もいたが、切り口からは容赦なく血が溢れ、顔からはみるみる血の気がなくなっていく。
泣き叫ぶ民たちに対し、兵士たちは最後に首を斬り落として黙らせると、切り落とした手足、そして頭を持って巨人の失った部位へと持って行き、それぞれを几帳面に並べていく。
切り取った部位を巨人の手足、首の形になるように並べた兵士たちは、その様子を黙って見ていたエバへと報告する。
「エバ様、お持たせしました」
「うむ……」
部下からの報告を聞いたエバは鷹揚に頷くと、自分の胸の周りの血を手で拭う。
すると、下から赤い鉱石のようなものが姿を現す。
よく見れば、それはまるでドクドクと規則正しいリズムで脈打ち、自己主張するかのように赤黒く明滅を繰り返していた。
エバは先程まで自分がいた巨人の首元まで移動すると、自分の胸に嵌った鉱石に手を重ねる。
「さあ、生贄は用意してやったぞ。紋章兵器よ、俺に力を寄こせ!」
エバが声高々に叫ぶと、胸のアーミーハーツが煌々と光り出し、辺り一帯を赤い光で包む。
すると、巨人の切断面から触手のような細い管がいくつも生え出し、並べられた手足、首へと絡みついていく。
並べられた手足を骨に、伸びてきた管が筋肉となるように巨人の腕へとなっていくのを確認したエバは、再び巨人の首元へと収まる。
すると、エバを包み込むように管が伸びて固定すると、周りに置かれた頭にも管が伸びて巨人の頭へと変わっていく。
程なくして真っ赤な管が筋肉へと変貌し、皮膚の無い巨人の手足、そして目の部分に真っ赤な鉱石のような目が嵌った鼻と口がない頭が完成する。
「ふむ…………」
自身が巨人の脊髄へと収まることで、全身を制御する役を担うエバは、早速できあがったばかりの巨人の手足の調子を確かめていく。
幾度か足を振り上げたり、腕を振り回してみたりして巨人の調子を確かめたエバは、
「…………足りぬな」
地響きを上げながら足を踏み鳴らして不満そうに呟く。
現在、残っている巨人の左腕と左足には、五十人以上の人間を生贄に捧げて造ったものだが、今回は二十名にも満たない人物しか生贄に捧げていない。
新しく修復した部分には鎧がないこともあるが、やはり人数が少ないことが関与している所為か、左右で力の均衡が取れていないのが気にかかる。
エバは巨人の紅い鉱石の目をぐるりと巡らせてこちらを見ている部下たちを見やると、くぐもった声で尋ねる。
「おい、もっと生贄となる者はいないのか?」
「そ、それが、もうこれ以上は……」
エバからの問いに、部下たちは狼狽えながら答える。
「ですが、お時間をいただければ、すぐに追加の手配をいたします」
「……それはどれぐらいの時間だ?」
「は、早くても半日はいただきたいのですが……」
「遅い! 敵はすぐそこまで来ているのだぞ」
「で、でしたら五時間……いえ、三時間以内にどうにか用意してみせます」
エバの苛立ちを察した部下たちが慌てて取り繕うように声を上げ、急いで駆け出そうとするが、
「いや、いい……」
そんな部下たちに対し、エバは制止をかける。
三時間以内に用意してみせると言うが、そんなに待てるほどエバは寛容な人間ではない。
それに、今足りないのはほんの十名程度であり、その人物に特別な才や知恵など必要ないのだ。
であれば、手っ取り早く手に入る方法を取るのが最善であろうとエバは考える。
「お前たち、光栄に思うがいいぞ」
「……え? な、何を……」
巨人の目が怪しく光ったのを見て、何かを察した兵士たちが顔を青くさせる。
「エ、エバ様……じょ、冗談ですよね?」
「何を言っているんだ?」
引き攣った表情の部下たちを前に、エバはやれやれと大きな体で肩を竦めてみせる。
「で、ですよね……ハ、ハハハ……」
そんなはずはない。そう思った部下たちが乾いた笑い声を上げるが、
「そこは喜んで犠牲になると言うべきだろう」
「えっ、あ、ああ……ぎゃああああああああああああああああああああぁぁぁっ!!」
そう言ってエバは一人に部下を大きな手でいきなり掴むと、有無を言う前に力任せに引っ張って両足を引きちぎる。
同じように手と頭を無理矢理体から引きちぎり、残った体を放り捨てたエバは、恐怖で凍り付いている部下たちに鈍く光る紅い目を向ける。
「この俺の糧となるのだ。リーアン王国の兵士にとってこれ以上の誉れはないと思えよ」
そう宣言したエバは、自分の部下たちを巨人の膂力を持って次々とバラバラにしていった。




