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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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黒の敗走

 巨人になる紋章兵器マグナ・スレスト、アーミーハーツを持つリーアン王国軍の大将軍、エバは何が起きたのか全く理解できなかった。


 間諜の情報でミグラテール王国とラパン王国が共闘して攻め入って来ることがわかっていたので、片方に自分一人、もう片方に残った全軍を配置して相手の二面作戦を打ち砕く予定だった。


 向こうの様子はわからないが、こちらは当初の予定通り、たった一人で侵攻してきたミグラテール王国軍を圧倒した。

 どこから情報が漏れたのか、相手は戦力を集中させず、分散させることでこちらの紋章兵器に対する対策を取ってきたようだが、所詮は付け焼き刃に過ぎなかった。

 事実、相手が持つ剣や矢では自身が身に纏う黒の鎧を貫くことはできず、多少の面倒はあっても、時間さえかければ相手を全滅させることはできるはずだった。


 だがそこでかつてこちらが所有していた紋章兵器、ラファーガを相手が取り出してきたので、慎重に慎重を期すエバは、最優先でラファーガを持つ女を始末しようとした。

 納屋の屋根を投げ付け、一時的にラファーガを無効化することに成功したエバは、これまで幾度となく敵を葬って来た地面を揺らしての強襲攻撃を仕掛けることにした。

 宙を舞っている最中、驚愕の表情でこちらを見ている者を見下ろすのは、エバにとって最高の愉悦だった。


 しかし、華麗に着地を決めたところで予想外のことが起きた。


 盛大に土砂を撒き散らし、辺り一帯の視界を奪ったところで、突如として頭を巨大なハンマーで殴られたかのような衝撃に襲われたのだ。

 しかもその衝撃は一度ではなく、肩や足元へと立て続けに受け、全身を強打されたエバはその場に屈したのだった。


「い、一体何が……」


 意識が朦朧とする中でエバは、自分に何が起きたのかを確認するため、辺りを見やり、手探りで辺りを確認する。

 すると、左手が固い感触を捉える。


「…………これか?」


 いつの間に現れたのか、エバのすぐ足元に直径一メートルほどの大岩が転がっていた。

 しかもよく見れば、その岩は全部で三つ、自分が受けた衝撃と同じ数だけあった。


「これは……投石機による攻撃か」


 情報が漏れていたとするならば、自分を打倒するためにこういった大岩を撃ち出すことができる攻城兵器を用意するとは十分にあり得るだろう。


 だが、この問題はそんなことではない。


 付近に転がっている大岩は全部で三つ。目に見える範囲に投石機が見えないことから、数百メートル離れた場所から放たれたものと思われる。


「これだけの質量の岩を……百発百中で当てたというのか?」


 果たしてそんな芸当が本当に可能なのだろうか?

 数百メートルという射程距離を誇る投石機だが、その命中精度はお世辞にも良いとはいえず、狙う時も大体の目安を立てるだけで、一点集中の狙いを定めるものではない。


 だが、もしそんなことが可能だとすれば……


「……そういう類の紋章兵器ということか」


 狙った相手に確実に命中させることができる射出型の紋章兵器か。もしくは兵器の着弾点を予測できる観測型の紋章兵器か。

 どちらにしても相手の紋章兵器の力が読めない以上、ここで身を晒し続けるのは得策ではない。


「……ここまでだな」


 ここは一旦引いて相手の出方を伺い、相手の力を見極める。そう判断したエバが顔を上げると、


「――っ!?」


 こちらに向かってくる小さな人影が目に飛び込んできた。




 セシルの存在に気付いたエバが立ち上がるより早く、


「はああああああああああああっ!!」


 地面を滑るように移動してきたセシルが、慌てて立ち上がろうとする巨人の足元目掛け、ラファーガを下から斜め上方へと容赦なく振るいながら駆け抜ける。


「……手応えありよ!」


 緑色の軌跡が宙に描かれると、巨人の右足の膝から下が斬り落とされ、赤黒い血が吹き出して地面を赤く染めていく。


「まだよ!」


 巨人を追い越したセシルは、そのまま踵を返して今度は巨人の胸元目掛けて斬りかかる。

 この攻撃に巨人は咄嗟に左腕で防御姿勢を取るものの、ラファーガの前には無に等しく、巨人の右腕が血飛沫を上げながら吹き飛ぶ。


「――っ、これで!」


 片手と片足、これで巨人の機動力を削いだと判断したセシルは、いよいよ巨人に止めを刺すために、ラファーガの力を解放しようと足を止めて力を集中させようとする。

 だが、


「駄目だ! セシル、逃げろ!」

「……えっ?」


 ユリウスの声で我に返ったセシルが顔を上げると、目の前に黒い塊が飛来してくるのが見えた。


「――っ!?」


 迫りくる飛来物を前に、セシルは考えるより本能で目の前に体を投げ出すことで紙一重の回避に成功する。


「な、何なのよ一体……」


 一体何が飛んできたのかと、首を巡らせたセシルが飛来物を確認すると、それはつい今しがた自分が斬り落とした巨人の右腕だった。


「……う、腕?」


 どうしてこんなものがここに? と、セシルが巨人の右腕に気を取られていると、


「何をしている。敵が逃げるぞ!」

「えっ……あっ!?」


 ユリウスの言葉に反応してセシルが振り返ると、左足一本で器用に跳ねながら逃げる巨人の後ろ姿が見えた。


「ああん、もう……」


 慌ててセシルが逃げる巨人を追いかけようとするが、


「もういい。これ以上の深追いはしなくていい」


 その前にすぐ傍までやって来ていたユリウスから制止の声がかかる。


「相手の方が圧倒的に早いし、一人で突出して孤立するのは得策ではない」

「……そうね、確かにその通りだわ」


 セシルは頷いてラファーガを腰に吊るし直すと、悔しそうに歯噛みする。


「それにしても……まさか、斬り落とされた腕を投げ付けてくるとは思わなかったわ」

「そうだな。それだけ相手も必死だったということだろう……それにこれであの巨人は死に体も同然だ。次に会った時に引導を渡してやればいい」

「わかってるわ。次こそ逃がすつもりはないわ」

「ああ、期待しているぞ」


 ユリウスはセシルの肩を叩き、今はゆっくり休むように指示を出すと、巨人が投げ捨てていった腕へと歩み寄ってその断面を見る。

 それは、これだけの巨人の腕の断面がどのようになっているか見てみたいというただの好奇心のつもりだった。


 だが、


「な、何だこれは……」


 巨人の腕の断面を見たユリウスは絶句してしまう。

 そこには、予想を遥かに上回る衝撃的な光景があった。

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