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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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屈する時

 巨人の猛攻を横目に、ユリウスたちは巨人から狙われないように中腰姿勢で静かに目的の場所まで移動する。


「もう少し右……そう、そこだ」


 そうしてやって来た場所は、畑のど真ん中だった。

 巨人から距離は取れたが、目に見える範囲に身を隠す物が何もないので、セシルは小さく息を飲む。


「こ、ここでいいの?」

「ああ、ここでいい……」

「ここでいいって……私は戦うからいいけど、ここじゃユリウスが逃げられる場所がないじゃない」

「そうだな……精々、死なないように気を付けるよ」

「気を付けるって……」


 ユリウスの身体能力の低さを知っているセシルは、顔から血の気が一気に引くのを自覚する。


「ユリウス……まさか狙われた時、どうやって逃げるのか考えてないの?」

「フン、逆に考えろ。どうしてそんなことを考える必要がある」


 不安そうに表情を曇らせるセシルに、ユリウスはやれやれと肩を竦めてみせる。


「僕の作戦通りに行けば何も問題ない。それだけだ」


 それに、


「状況は常に変化している。全ての状況に対応するためにも、僕はここから離れるわけにはいかないんだ」

「そう……ね」


 ユリウスの覚悟を聞いたセシルは、表情を引き締め直してゆっくりと頷く。


「確かにユリウスの作戦が上手くいって、私が奴をきっちり倒せば何も問題ないわね」

「そういうことだ。とりあえずの初手をしくじるなよ」

「フン、誰にものを言っているのよ」

「そうか……愚問だったな」

「ええ、まったくもってね」


 そう言ってセシルは邪悪な笑みを浮かべると、ラファーガを抜き放つ。


「それじゃあ、力を解放させるから離れていて」

「ああ、任せた」


 ユリウスは頷くと、ラファーガの力が及ばない距離へと退避する。



「さて……これで準備は大方整ったか」


 ユリウスは後方を見やりながら、手を上げて準備が整った旨を後方に伝える。

 すぐさま鏡の反射による返事が返って来るのを確認すると同時に、


「はああああああああああああっ!」


 気合の雄叫びを上げながらセシルがラファーガの力を解放させる。


「クッ……」


 瞬間、周囲の空気がラファーガへと吸い込まれ、体を引っ張られる感覚にユリウスは歯を食いしばってその場に留まる。


「こ、これは……」


 思った以上の力で吸い込まれる感覚に驚いていると、ラファーガの刀身が伸ばせる最大の長さである六メートルまで至る。

 この状態になると、セシルは呼吸ができなくなってしまうので、ここから先は時間との勝負になる。


「さあ、早く気付け……」


 ユリウスは巨人がセシルの存在を認識するように祈っていると、


「……気付いた!」


 黒い鎧が、緑色に輝く刀身を見て明らかに動揺するのが見えた。



 まさか、自分たちの所有する紋章兵器が奪われるだけでなく、取って代わる使用者が現れるとは思わなかったのだろう。


「…………」


 巨人は小さく頷くと、近くの兵士たちに対し拳を薙ぎ払って一掃すると、セシルを真っ直ぐ見据える。

 それは巨人がセシルを最優先で倒すべき相手だと認識した瞬間だった。

 巨人は周りを警戒しながら近くにある収穫した農作物を入れておく納屋へ近づくと、巨大な手を伸ばして屋根へと手をかけ、ベキベキと破滅的な音を響かせながら力任せに屋根を剥ぎ取ってみせる。


「おいおい……」

「う、嘘だろ……」


 まるで毛布を剥ぎ取るかのように簡単に屋根を剥ぎ取ってみせた巨人の膂力に、ミグラテール王国軍の兵士たちが驚愕に目を見開く中、巨人は屋根を手に大きく振りかぶって、セシルに向かって思いっきり投げつける。


「――っ!?」


 飛来した屋根に対し、セシルはラファーガを振るって真っ二つにして防ぐ。


 だが、


「………………ぷはぁっ!?」


 息止めの限界がやって来たセシルが大きく息を吐く。


「はぁ……はぁ……はぁ……」 


 空気を求めて荒い呼吸を繰り返すセシル。すると必然、ラファーガの緑色の伸びた刀身が搔き消えて普通の長さへと戻ってしまう。



 そして、それこそが巨人の狙いだった。


 ラファーガの刀身が短くなったのを確認した巨人はしゃがみ込むと、セシルに向かって大きく跳躍する。

 ラファーガの力を再び解放させるには、暫しの猶予時間がかかる。その前に一気に距離を詰め、地面を揺らして耐性を崩したところで一気に勝負をつけようというのであった。


 今までより高く飛翔した巨人は、そのままセシルの手前、数メートルのところへと着地する。


「――ッ、キャアアアアアアアアアアッ!?」


 瞬間、これまでとは比べ物にならないほどの大きな揺れが発生し、セシルは成す術なくその場に倒れる。


「あだっ…………あだだだだだ…………」


 しかも、着地の衝撃で舞い上がった土砂が辺り一帯の視界を奪うだけでなく、砂や小石が礫となって襲い掛かって来て、セシルは逃げるどころではなく、その場で蹲ることしかできなかった。


 礫の嵐は程なくして収まり、体を丸くしてどうにか耐え切ったセシルが顔を上げると、


「――っ!?」


 そこには、鉄の鎧を身に纏った巨人が両膝を付いて蹲っていった。

 頭に付けた兜は一部が大きくひしゃげ、中から血と思われる液体が滝のように流れ出ていた。


 ユリウスからある程度の作戦内容は聞いていたが、まさか本当に巨人の膝を付かせるとは思っていなかったセシルが呆然としていると、


「何をしている! 早く止めを刺すんだ!」

「――っ、ハッ!?」


 雷鳴の如く響いたユリウスの怒声に我に返ったセシルは、ラファーガを握る手に力を籠めて力を解放させると、


「はああああああああああああっ!!」


 裂帛の気合の掛け声と共に、地に伏す巨人へと斬りかかった。

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