追撃の巨人
拳を振り抜かれれば、数十メートルも空を飛んで地面へと叩き付けられて絶命し、振り下ろされた足に踏まれれば、地面に縫い付けられて絶命する。
果たして、どちらの死に方が苦しまずに死ねるかは謎だが、巨人が手足を振るう度に、ミグラテール王国軍の兵士たちの命が一つ、また一つと散っていった。
「あいつ……」
「待て!」
巨人によって仲間たちが殺されていくことに耐えられず、セシルがラファーガを手に飛び出そうとするのを、ユリウスは慌てて彼女の手を掴んで止める。
「いや! ユリウス放して!」
腕を掴まれたセシルは、目に涙を浮かべながらいやいやとかぶりを振る。
「皆が……このままじゃ皆が……」
「わかってる。だが、お前が出ていったところで奴を倒せる保証はない」
「どうして!? ラファーガならあいつの鎧だって斬れるはずだわ!」
「そうかもな。だが、見てたろ? あいつは近付こうとする者に対して、地面を揺らすことで無力化させてる。いくらお前でも、あの攻撃を受けたらひとたまりもない」
「それは……」
「それに、あいつはああ見えてかなり慎重に行動している。どうやらかなり臆病な性格のようだ」
「……どういうこと?」
「いいか? 今から僕が言うことを踏まえて見てみるんだ」
そう言うと、ユリウスは巨人の動きに気付いたことを述べる、
一見すると無差別に暴れまわっているように見える巨人だが、その行動には一定の法則があった。
全身を鉄の鎧で覆っているにも拘らず、小さな矢の一本でも直撃するのを嫌うように手で防御姿勢を取る。特に首から上への攻撃には、特に敏感に守っていた。
そして攻撃時は、必ずと行っていいほど空高く舞い上がり、相手の数メートル手前に着地して地面を揺らし、相手の耐性を崩してから攻撃に移る。
剣や槍といった近接武器を持つ者、鎧で身を固めた者は拳での攻撃で吹き飛ばし、弓や軽装の者は、手だけでなく足で蹴飛ばしたり、踏みつけたりするといった攻撃も手段として加えていた。
「確かに不自然なほど規則正しく攻撃をしているみたいだけど……これってどういうこと?」
「あれは、自分が最も傷つかない立ち回りをしているようだ」
セシルの疑問に、ユリウスは苦笑しながら答える。
「あれだけの体格差で、しかも完全防備をしているのだ。普通なら矢の攻撃など歯牙にもかけなくてもいいはずなのに……ほら、見てみろ」
そう言ってユリウスが指差す先には、体格から見たら指程の太さもない小さな矢を煩わしそうに振り払う巨人がいた。
「本当だ……じゃあ、攻撃方法に偏りがあるのも?」
「そうだ。剣や槍に足を使わないのは、万が一にも足を傷つきたくないからだろう。そして弓兵に足を使うのは、一刻も早く倒してしまいたいと思っているからだろう。足の方が射程が長いからな」
「そ、そんな理由で……」
「だが、あれのお蔭で思ったより犠牲者も少なくすんでいる。さらに僕の本来の目的もほぼほぼ達成できた」
「じゃあ……」
嬉しそうに笑顔を弾けさせるセシルに、ユリウスは唇の端を上げてニヤリと笑って頷く。
「ああ、奴を倒すために次の作戦に移るぞ!」
そう言うと、ユリウスは中腰になって巨人から死角となる建物の陰に移動する。
建物の陰に移動したユリウスは、後方に向かって大きく手を振ると、両目の紋章兵器を同時に起動させる。
「クッ…………」
両の目の力を同時に使った所為か、脳がシェイクされるような感覚にユリウスは思わずその場に蹲る。
「ユリウス!?」
蹲るユリウスに、セシルが心配そうに手を伸ばしてくる。
「だ、大丈夫なの?」
「……問題ない。どれだけ苦しくても、やらなければ皆、死ぬだけだ」
「そう……ね」
「そういうことだ。だが、僕は上手く動けそうにないから、後方への指示を頼めるか?」
「わ、わかった」
セシルは頷くと、ユリウスの代わりに自分が指示を出す旨を伝えるため、後方に控えるファルコたちに向かって大きく手を振る。
すると、すぐさま鏡の反射を使った返事が返ってくるので、セシルはユリウスへと指示を仰ぐ。
「来たわ! ユリウス、指示をお願い……」
「ああ、わかってる。先ずは……」
止む気配を見せない眩暈と吐き気をどうにか耐え、顔中に脂汗を浮かべながらも、ユリウスはセシルに次々と指示を出していった。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
後方に指示を終えたユリウスは、紋章兵器の力を解除して荒い息を吐く。
「うくっ…………チッ……」
紋章兵器の反動で頭が割れそうに痛むが、まだやらなければならないことがあると、ユリウスは頭を強く振って気丈に立ち上がる。
立ち上がると、すぐさまセシルが寄り添ってきて倒れないように支えてくれる。
「……大丈夫なの?」
「あまり大丈夫ではないが、ここで止めるわけにはいかない。その……死んでいった仲間たちの敵を討たないとな」
「……そうね」
腰に吊るしたラファーガを撫でながら、セシルは力強く頷く。
「見ていて、今度は私が見せるから」
「ああ、期待している」
そうして、ユリウスとセシルは建物の陰から巨人の前へと姿を現す。
「うわああああああああああああああああっ!」
ユリウスたちが姿を現すのと同時に、すぐ近くに巨人の蹴りによって吹き飛ばされてきた兵士がグシャッ、と鈍い音を立てて地面へと叩き付けられる。
その兵士は、首が有り得ない方向に曲がって既に絶命していた。
「――っ!?」
「落ち着け……感情的になるな」
息を飲み、怒りで顔を赤くさせるセシルに、ユリウスは静かに話しかける。
「これ以上の犠牲者を出さない為にも、今は移動を優先させるんだ」
「…………わかってるわ」
セシルはゆっくりと頷くと、大きく深呼吸を繰り返して感情を押し殺そうと努める。
そのまま数度、深呼吸を繰り返したセシルは、
「……行くわよ」
ユリウスの肩に回した手に力を籠めると、指示された場所に向けて移動し始めた。




