リーアン王国軍の巨人
それから暫くして、カルドアが会議室内に姿を見せる。
「到着が遅れてしまい、申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げるカルドアに、ファルコは気にしていないと穏やかな笑みを浮かべる。
「いえいえ、気にしないで下さい。こちらとしても、お互いを知るいい機会になりました」
「そう言っていただけると助かります」
カルドアは互いの陣営の様子を見つめ、漂う空気の微妙さに眉を顰めながらも、後れを少しでも取り戻そうと話を本題へと移す。
「それで、ファルコ様。改めて確認するまでもないと思いますが、敵の紋章兵器につきましては、既に情報を共有していると思って構いませんか?」
「ええ、互いに優秀な情報網があって助かりますね」
「……全くです」
ファルコがユリウスからもらい受けた報告書を示してみせると、サッと目を通したカルドアは頷く。そして、大きく息を吐くと、誇らしげに胸を張るソルティを見て苦々しい表情を浮かべる。
「ただ、こちらとしては、大事な部下を失う寸前でしたので、偶然とはいえ、協力していただいたことに付きましては感謝しかありません」
「それについてはお互い様ですよ。彼女たちの気転のお蔭で、よりスムーズに、しかも相手の戦力を大幅に削ることもできました」
「正直、待つ側としては生きた心地がしませんがね」
「それについては同意します」
どうやらファルコがユリウスの独断専行を知らなかったように、カルドアもまた、ソルティが情報を仕入れるために独断専行したことを知らなかったようだ。
ファルコとカルドアは、互いに上に立つ者同士だけが分かり合える苦しみを共有するように苦笑すると、互いの報告書を見て溜息を吐く。
「ですが、これはどうしたものですかね…………」
「確かに……これほどとは」
二人は報告書を前に、どうしたものかと首を捻る。
ユリウスたちから持たされた情報は、それほど有益であったが、同時に絶望的でもあった。
ラパン王都に居座るのは、リーアン王国軍の大将軍、エバという男で、噂の通り巨人化する紋章兵器を持っているという。
ただ、その詳しい情報は、リーアン王国軍の中でもかなり機密性が高いようで、情報源である大隊長も、エバが紋章兵器を使って巨人化するところを実際に見てはいないという。
具体的な変身方法は不明だが、エバは紋章兵器の力で五メートルほどの巨人へと変貌し、さらに鉄製の鎧を身に纏ったエバが一度拳を振り上げれば、頑強な城壁をまるで固くなったパンを割るかのように簡単に破砕し、完全武装の兵士たちは、数秒で肉塊へと変えられてしまうほどの破壊力を持つという。
それでいて敏捷性も高く、馬よりも早く、地面を盛大に揺らしながら駆ける様に、近くにいる者はまともに立っていることもできず、相対したところで勝負にすらならないまさに規格外の強さを持つという。
「これが嘘や誇張ならいいのですが、どうやら本当に巨人一人だけで、王都を壊滅状態に陥らせたようなのです」
「そして、この男を倒さなければ、我々に勝機はないということなんですよね」
エバを倒すためにこうして話し合っているのに、情報を整理しただけで、全く勝機を見いだせないことに気付き、ファルコとカルドアは揃って溜息を吐く。
だが、祖国を取り戻すために、是が非でも諦めたくないカルドアは、少しでも勝機を見出すために思いついた案を提案する。
「……やはり、紋章兵器に対抗するためには、紋章兵器しかないのではないでしょうか?」
そう言って見やる先は、敵の紋章兵器を奪い、自分の物にしたセシルだった。
「わ、私?」
「そうです。残念ながら我が国は、これといった紋章兵器は保有しない弱小国家です。それ故、我々としてはあなたに頼るしかないのです」
「そ、そうね、プリマヴェーラ様の紋章兵器では戦うのは無理だし……」
カルドアだけでなく、全員の視線を受けたセシルはゴクッ、と喉を鳴らして唾を飲み込むと、息を喘ぐように話す。
「わ、わかり……」
「先に言っておくが、セシルの紋章兵器、ラファーガを当てるのは無しだ」
だが、その前にユリウスがセシルの話を遮る。
「カルドア将軍、あなたの意見はもっともだが、我が国の紋章兵器をどう使うかは、こちらで決めさせていただく。余計な口出しはしないでもらおう」
「ユ、ユリウス、そんな言い方……」
「ファルコ様、すみませんが、これは遊びではないのです」
穏便に済まそうとするファルコを、ユリウスは睨んで諫める。
「セシルの紋章兵器は、我々の切り札です。件の敵を打ち倒せるとしたら、彼女のラファーガ置いて他にないでしょう。そんな切り札を先に切ってしまったら、どうやって敵を倒すつもりですか?」
「そ、そうだね……ゴメン、僕が間違っていたよ」
ファルコはシュン、と肩を落としてユリウスに謝罪すると、申し訳ないとカルドアへ頭を下げる。
「すみません。というわけで、セシルの紋章兵器を使うのはナシの方向でお願いします」
「わかりました。確かに止めを刺す方法を失っては、本末転倒ですからね」
カルドアもユリウスの意見を聞いて自分の過ちに気付き、おとなしく引き下がる。
「……ですが、そうなるとどうやって戦いましょうかね?」
カルドアは顎の下を擦りながら、射貫くようにユリウスを睨む。
「ちなみに軍師殿は、何か作戦を考えていたりするのですか?」
「ああ、当然だ」
挑むようなカルドアの視線を真っ直ぐ見つめ返しながら、ユリウスは不敵に笑う。
「相手を実際に見ていないのでどこまで通じるかわからないが、守りの堅い敵を倒す方法ならいくつか案がある」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ、そのために将軍、あなたにいくつか用意してもらいたいものがある」
そう言うとユリウスは作戦の概要をカルドアに説明し、遂行に必要なものを伝えた。




