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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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生まれ変わった姿

 翌日、ユリウスはファルコと共に、かつてカルドアたちと対面した村にある秘密の会議室を再び訪れた。


「待っていました。ファルコ様、軍師殿」


 会議室に入ると、笑顔を浮かべたソルティが迎えてくれる。


「申し訳ございません。お二人の到着が思いのほか早くて、まだカルドア将軍は見えていないのです」

「大丈夫ですよ。こちらは待つのには慣れていますから」


 主にプリマヴェーラに待たされることが多いファルコは、気にしていないと笑顔で応える。

 そんなファルコの対応にソルティは胸を撫で下ろすと「少しお待ち下さい」と言ってベルを鳴らす。


 すると、複数の女性がやって来て、ファルコたちミグラテール王国の者に紅茶を提供する。


「このお茶は、我が国の秘蔵の紅茶です。せっかくですから、皆様にご賞味いただこうと今日のために用意させていただきました」

「ありがとう。う~ん、いい匂いだね」


 出された紅茶に、ファルコは目を閉じで先ずは香りから楽しんでから口を付ける。


「うん、美味しい。せっかくだからユリウスもご馳走になりなよ」

「ああ……」


 ファルコの言葉に従い、ユリウスも薦められるままに紅茶へと手を伸ばす。


「…………ん?」


 そこで、ユリウスは自分を熱心に見つめる視線があることに気付く。

 思わずそちらを見やると、見知った顔がそこにあった。


「…………君は?」

「軍師様、昨晩はありがとうございました」


 そういって深々と頭を下げるのは、大隊長に奴隷にされていた少女だった。

 少女は昨日とは打って変わり、生まれ変わった姿になっていた。

 濃紺を基調としたラパン王国軍の軍服を身に纏い、しっかりと化粧をして髪を整えた姿は、プリマヴェーラに勝るとも劣らない整った顔立ちだった。

 その証拠に、この場にいる誰もがチラチラと少女の様子を伺っており、少女がユリウスとどんな関係にあるのか興味深く見守っていた。

 周りの視線に少女も気付いているようだが、そんな視線などまるで存在しないかのように気にも留めず、深々とユリウスに頭を下げる。


「改めましてクーアと申します。この度、ソルティさんの部下として、ラパン王国解放軍の末席に加えていただくことになりました」

「そうか……もう充分苦しんだのに、わざわざ戦う道を選んだのだな?」

「はい、戦う力は皆無ですが、私もこの国を救うため、何かできることがあるんじゃないかと思いまして、自ら志願しました」

「……物好きだな」

「他の方にも言われました。ですが……」


 ユリウスの言葉にクーアは苦笑すると、不安に駆られる自分を制するように自信を抱いて苦し気に心中を吐露する。


「一人でいると、どうしてもあの日々を思い出してしまうのですが、体を動かしている間はあの忌々しい記憶を忘れられるのです。でしたら、あいつらを駆逐するために動くのが一番だと思ったんです」

「そうか、君が選んだ道なら僕から言うことはないが……命は粗末にするなよ?」

「はい、軍師様に助けていただいた命ですから、無下にするつもりはありません」


 まだ不安そうではあるが、それでお爽やかな笑みを浮かべながら話すクーアの様子に、ユリウスは納得したように頷く。


「ふ~ん……」


 その様子を見ていたファルコは、何やら意味深な笑みを浮かべる。


「ユリウスとクーアさん……だっけ? 何だか随分と仲が良さそうだけど、何があったの?」

「……別にたいしたことはない」


 ファルコの質問にユリウスはゆっくりとかぶりを振るが、


「そうですね……」


 一方、クーアは意味深な笑みを浮かべてユリウスの顔を見る。


「…………何だ?」

「いえいえ……」


 眉を顰めるユリウスに、クーアは妖艶な笑みを浮かべると、自分の唇に指を当てて頬を赤く染めながら話す。


「そう……たいしたことはありませんでした。敢えて言うなら、暗闇で熱く、蕩けるほど唇を交わし合ったぐらいですかね?」


 クーアがそう言った瞬間、ガシャン、という陶器が割れる音が辺りに響く。


「す、すみません」


 音をした方に注目が集まると、セシルが赤い顔をしてペコペコと頭を下げていた。

 だが、その目は謝りながらもユリウスに真っ直ぐと注がれており「後で説明しなさいよ」と訴えていることに気付き、ユリウスは背中に冷たいものが走るのを自覚する。


(こ、この女……)


 皆の前で何を言い出すんだ。ユリウスは非難の眼差しをクーアへと向けるが、彼女はどこ吹く風で澄ました笑みを浮かべていた。

 思わず苦虫を嚙み潰したような顔になるユリウスに、ファルコは興味津々と言った様子で尋ねてくる。


「それで、クーアさんの言っていることは本当なのかい?」

「…………嘘ではない」

「そうなんだ。クーアさんみたいな美人とたった一晩でそんな情熱的な関係になるなんて、ユリウスも隅には置けないね」

「よしてくれ。あれは事故みたいなものだ。僕が望んでやったことじゃない」

「おいおい、そんな言い方ないだろ。流石にクーアさんに失礼じゃ……」

「いえ、ファルコ様。本当のことです」


 不躾だと思いながらも、クーアはファルコの言を遮ってユリウスをフォローする。


「軍師様の仰る通り、私の方から迫ったのですが、残念ながらフラれてしまいました」

「そう……なの?」

「はい、ですが、私としては忘れらない夜になったことだけは事実です。軍師様と出会えたお蔭で、私はこの場にいるのですから」


 クーアの含みのある言葉に、またしても周りがざわつき出す。

 その声は、クーアに想い人がいることを残念に思う声が大半で、それ等の声を聞きながらユリウスは大きく溜息を吐く。


(…………そういうことか)


 自身の美貌が原因で生き延びられたが、その後に地獄を見たクーアは、今の自分に向けられる男たちの視線の意図にも気付いている。だからこそユリウスに気があるように思わせることで、男避けに使おうという算段なのだろう。

 しかも、クーアが語ったことに嘘や偽りはなく、ユリウスとしても下手に否定できないのが上手いと思った。


(……全く、やってくれたな)


 そう思いながらユリウスがクーアの方を見やると、彼女はニッコリと穏やかな笑みを浮かべるだけで、その真意まではわからなかった。

 だが、その様子から周りは自分に入る余地はないと勝手に思ったようで、あちこちから溜息が聞こえ、セシルは「ぐぬぬ……」と唇を噛み締めていた。


 たった一言で、自分を狙う男たちを見事に退けたクーアの手腕に、ファルコは舌を巻きながら小さく安堵の溜息を吐く。


(この場に、プリムがいなくて本当に良かった)


 ここにプリマヴェーラがいたらどんな修羅場になっていただろうと思いながら、早くカルドア将軍が来てくれないものかと、冷めてきたお茶に再び口を付けた。

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