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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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攻めて少しでも長く……

 自身の知る紋章兵器マグナ・スレストの情報について話した大隊長は、疲れたように大きく。


「こ、これで、ワシの知っていることは全てだ」

「この情報が正しいという保証は?」

「そんな証明できるものか! ただ、これだけは言えるぞ。我が軍の紋章兵器は最強だ。多少の情報を手に入れたところで、大勢を覆せるなんて思わないことだ」

「ふむ……」

「そういうお前こそ、ワシとの約束をちゃんと守ってくれるのだろうな! ここまで言わせておいて、やはり嘘でしたとか抜かしたら、生まれて来たことを後悔するほど犯し尽してやるぞ!」

「心配するな。約束を違えるほど愚かではない……」


 最後の戯言は捨ておいて、ユリウスは「どう思う?」とソルティとブレットに目だけで問う。


 その問いに、二人は無言のまま頷きで応える。

 追い詰められた大隊長の様子を見る限り、嘘を言っている様には思えないという判断だった。


 二人と同じ考えであったユリウスは、大きく頷くと手にしていたナイフを投げ捨てる。


「わかった。お前の情報が嘘でないと信じよう」

「そ、そうか……だったら、早くこの拘束を解いてくれ。そういう約束だろう?」

「違うな。僕はこう言ったんだ。口を割れば、ナイフを突き立てるのを辞め、おとなしくここから立ち去る、と。拘束を解くなんて一言も言っていない」

「じゃ、じゃあワシはどうなるんだ?」

「言っただろう? 後はお前の運次第だって……」


 ユリウスは肩を竦めると、もう用はないと大隊長に背を向けて、小屋から出るために歩きはじめる。


「……ああ、そうだ」


 その途中、ずっと小屋の隅で蹲っていた陰にユリウスは静かに話しかける。


「もうこっちの用事は済んだから、後は好きにしていいぞ」

「……わかった」


 ユリウスの言葉に、静かに応える声があった。

 声の主は、ユリウスが投げ捨てたナイフを拾い上げると、大隊長のすぐ横に立つ。


「お、お前は……」


 隣に立った人物を見た大隊長の顔が青を通り越して、真っ白になる。

 そこには、血走った目でナイフを握る奴隷扱いしていた少女がいた。

 今すぐにでも襲いかかってきそうな少女に、大隊長は慌ててユリウスに向かって叫ぶ。


「おい、話が違うじゃないか!」

「……おいおい、何を言っているんだ?」


 振り返ったユリウスは、シニカルな笑みを浮かべながら「チチチ」と顔の間で指を左右に振る。


「何も違ってなんかいないさ。僕はお前に何もしないで立ち去るだけ。約束はそれだけだ。ただ、今回は運悪く、お前に恨みを持つ者が近くにいたというだけさ」


 ユリウスは大隊長に向かって親指を逆さにして立てると、彼との約束を守って小屋から立ち去って行った。




「ふぅ……ふぅ…………」


 残された少女は、荒い息を吐きながら大隊長を睨み続ける。

 僅かな光源の中で鈍く光るナイフと、少女の瞳に映る復讐の炎を見た大隊長は、必死に生き延びるための言葉を捜す。


「お、おい……お前。ワシが目をかけてやらなかったら、既に死んでいたことをわかっているのか?」

「黙れ!!」


 少女は口角から泡を飛ばしながら、ナイフを拘束されている大隊長の右手の平に突き立てる。


「あの日、私は生き延びたことを良かったと思ったことなんてない! そもそも、お前たちがやって来なければ、私は何も失わずに済んだんだ!」


 少女は突き立てたナイフをグリグリと動かして手の平の穴を広げていく。


「ぎゃあああああああああああああああああああああああっ!?」


 これには大隊長も耐え切れず、子供のように喚き散らしながら大粒の涙を流し、下腹部からはちょろちょろという水音と共に、アンモニア臭が辺りに漂い出す。


「お前が……お前が来なければ…………」


 だが、少女はそんな臭気など気に留めず、一心不乱に何度もナイフを振り下ろして大隊長の手をグチャグチャに潰していく。


「あ……あがが………………もう、やめ…………」


 逃げることすらできず、大隊長は泣き叫ぶことしかできないが、少女は一向に攻撃の手を休めることはない。


「お前さえ…………お前さえ………………」


 自分が受けてきた苦しみは……屈辱はこんな生易しいものではない。もう二度と戻らない数々の大切なものの恨みを少しでも晴らそうとするように、少女はナイフを振り続けた。


 そうして、大隊長の右手が原形を留めないほど潰れた頃に、


「もう、止めなさい」


 ソルティが少女のナイフを持つ手を押さえて止めに入る。

 復讐の邪魔をされた少女は、当然ながらソルティに対して怒りの矛先を向ける。


「離して! 私はまだ……」

「わかってるわ。心配しなくても、私はあなたの味方よ」


 ソルティは冷静に、諭すように静かな声で少女に話しかける。


「落ち着いて。このまま続けたら、この男はすぐに死んでしまうわ」

「すぐ……死……ぬ…………この男が?」

「そうよ、そんな簡単に復讐が終わってしまうのは勿体ないと思わない?」

「あっ…………」


 そこで少女は、大隊長が痛みの余り、既に虫の息になっていることに気付く。


「ね? 自分を最も苦しめたモノへの復讐もせずに、この男が死ぬなんて許せないでしょ?」

「そう……ね?」


 少女は静かに頷くと、ソルティと一緒に大隊長のある一部へと視線を注ぐ。


「あが………………が…………ヒ、ヒイイイイイイィィッ!!」


 女性二人の視線が、自分の下腹部へと注がれているのに気付いた大隊長は、嫌々と必死にかぶりを振りながら足を閉じようとバタバタと暴れる。

 だが、しっかりと拘束された四肢は、ちょっとやそっと暴れたぐらいではビクともせず、大隊長は顔中の穴という穴から体液をまき散らしながら命乞いを繰り返す。

 そんな大隊長を冷たい視線で見下しながら、ソルティはナイフを握る少女の手を自分の手で包む。


「私が最も苦しむ方法で殺す方法を教えてあげるから、それを試してみない?」

「それは……はい、お願いします」


 少女が大きく頷くのを見たソルティは、大隊長を最も苦しめて殺す方法を意気揚々と説明していった。




 その様子を、万が一に備えて傍から見守っていたブレットは、


「女って…………女って…………やっぱり怖い」


 青い顔をしながら身震いをすると、これ以上は見ていられないと小屋の中から退出する。


「やっぱり僕も、ユリウスと一緒に出ていくべきだったな……」


 小屋の中から聞こえてきた人のものとは思えない絶叫に耳を塞ぎながら、ブレットはあの場に残ったことを激しく後悔するのであった。

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