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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
117/169

意外な好み

「おい、姉ちゃん。こっちにも酒よこせよ」

「はい、ただいま!」


 一方その頃、ユリウスの裏切りによってリーアン王国軍の給仕をやることになったブレットは、正に馬車馬の如く兵士たちに小間使いにされていた。

 両手に持った盆の上に無数の盃を乗せたブレットは、軽やかな足取りで兵士の間を縫って盃を配って回っていた。


「お待たせしました。お酒ですよ」

「おう、ありがとよ」

「お前さん、顔はイマイチだが、働きっぷりは中々だな」

「……ハハッ、ありがとうございます」


 普段からセシルの面倒を見させられているお蔭か、ブレットの給仕としての仕事ぶりは中々好評だったが、何故か誰もがブレットの容姿に付いて一言ずつ余計なことを言っていくのであった。


「……まあ、綺麗だって男に言い寄られるよりはマシだけどね」


 そうなったらどうやって断ろうか。そんなありもしない現実を妄想しながら、ブレットはひたすら兵士たちに酒を配って回った。




 ソルティたち女性陣による音楽と踊りの宴は、大好評のうちに終わりを告げた。

 全員で並んで一斉にお辞儀をすると、兵士たちの喝采が響き渡る。


「ふむふむ、中々に見事な催し物だったじゃないか」


 舞台が一番よく見える特等席で踊りを堪能した大隊長は、顎の肉をタプタプと揺らしながら他の兵士たちと同じように拍手をする。

 すると、この陣営の副官が大隊長の隣にやって来て、ソルティたちを横目で見ながら質問する。


「それで、今夜はどの娘にするか決めましたか?」

「ううむ、そうだな……」


 大隊長は舞台の上に立つ五人の女性を順に追って眺めると「う~む」と気難しいそうな顔をしてかぶりを振る。


「何て言うか……悪くはないんだが……どの娘もワシの好みじゃないんだよな……」

「やはり、捕らえているあの娘が一番ですか?」

「そうだね。あの娘は最高に虐め甲斐があるよ。ゆくゆくはワシの子を産ませるのも悪くないかもな」

「……まあ、それまで生きていればの話ですかね?」

「そうだね、今度はせめて一年は持ってくれれば…………って、おや?」


 そこで大隊長の目が、甲斐甲斐しく兵士たちに酒を配っているブレットを捉える。


「ん? あんな娘、いたのか?」

「ああ、あれはまだ人前で踊れる域に達していないらしく、今日は裏方に徹しているようです」

「…………いい」

「はっ?」


 大隊長のまさかの言葉に、副官が驚きの声を上げる。


「えっ、あの娘がいいって本気ですか?」

「何だ? お前はワシの好みに文句を付けるのか?」

「そ、そういうわけではないです……はい」


 副官は冷や汗を垂らしながら慌てて取り繕うと、近くにいた兵士に声をかける。


「おい……あそこで酒を配ってる娘を呼んで来い」

「はへ? あ、あれですか?」

「言うな……我等が隊長殿のご使命だ。文句を言わずに、あの娘を連れて来るのだ。残りはお前たちが好きにしていいから早くするんだ!」

「は、はい! 直ちに……」


 兵士は直立不動になって敬礼すると、慌ててブレットを呼びに行くのであった。




 兵士から突如として呼び出されたブレットは、目の前で足をだらしなく伸ばして座る大隊長を見て、笑顔を引きつらせる。


「でゅふふふ、近くで見ると益々いいじゃないか」

「ほ、本気かよ……」

「おおっ、そういう嫌な顔をするのが溜まらなくいいのぅ……非常に虐め甲斐があるというものじゃ」

「ヒィィ……」


 じゅるり、と音を立てながら舌なめずりをする大隊長に、ブレットは全身に鳥肌が立つのを自覚する。

 嫌だ。今すぐ全力で逃げ出したい。そう思うのだが、生憎とここは敵陣のど真ん中。既に退路等ない。

 周りを見れば、ソルティたちが男たちに言い寄られていた。

 向こうは向こうでかなりの修羅場に突入しているようだ。


(…………こうなったら)


 誰一人逃げることなく、男たちの機嫌を損ねないようにしているソルティたちを見て、ブレットは決意する。


 大隊長に選ばれた人間がどうするかは、既に決まっている。

 予定と違って自分が選ばれてしまったが、ここから先は自分が何とかしなければならないのだ。


「あ、あの……」


 ブレットはもじもじと身を捩りながら、顔を赤くして大隊長に訴える。


「そ、その……私、皆に見られるのはちょっと……」

「ほほう……じゃあ、二人っきりならいいのかな?」

「…………………………はい」


 ブレットがようやくといった様子で頷くと、大隊長の顔が喜色に染まる。


「ほほぅ、それじゃあワシの天幕に行こうか。さあっ、さあっ!」


 大隊長は勢いよく飛び上がると、その巨体からは想像もつかないほどの身のこなしでブレットの隣に移動して気安く肩に手を回す。

 ついでに当然のようにブレットの尻を一撫でする。


「…………おぅ」

「ほほぅ、見た目通りしっかりと鍛えられている尻じゃ。ワシはこういう鍛えられた尻に目がないのじゃ」

「…………ど、どうも」


 ブレットとしては、そう言うのがやっとだった。


「フフフ、愛い奴じゃのう」


 そんな態度も好意的に取るのか、大隊長は終始笑顔でブレットを自分の天幕へと誘うのであった。




 大隊長の天幕までの数十メートルは、ブレットにとってまさに地獄の時間だった。

 体の至る所をまさぐられ、てっきり男だということがバレるかと思ったが、最後まで股間へのタッチだけは拒否したのと、筋肉質な体だからあちこちが固くても仕方がないという無茶な言い訳を真に受けてくれたのが大きかった。


「セシルちゃんがいくら拒否しても、ワシから逃げられないもんね」

「わ、わかってますよ……」


 名前を聞かれ、咄嗟に姉の名前を名乗ってしまったことを後悔しながら、ブレットは天幕の中にいるはずのユリウスに「助けてくれ」と願いながら入り口を潜る。


 すると、


「お帰りなさいませ。ご主人様」


 ブレットたちの前に、一糸纏わぬ姿の少女が地にひれ伏していた。


「あ、あの……」


 全裸の少女の登場に、ブレットは顔を赤面させ、視線を逸らしながら大隊長に質問する。


「こちらの方は?」

「ああ、こいつはワシの奴隷じゃよ」

「……奴隷?」

「ああ、肉奴隷という奴じゃな。ほれ、ご主人様が帰ったらどうするのだ? この娘に教えて差し上げなさい」

「はい、ご主人様……」


 ブレットが思わず息を飲むほど顔立ちの整った少女は、虚ろな目を大隊長に向けると、幽鬼のような足取りで近付いて大隊長の首に手をまわして自分の唇を大隊長の唇に重ねる。


「――っ!?」


 音を立てながら濃密な口付けを交わす二人を見て、ブレットは恥ずかしい気持ちと、こんなクソ野郎に名も知らない女の子が、好き勝手に陵辱されているということに対する怒りが湧き上がってくる。

 このまま後ろから襲い掛かって少女を助け出そうとするが、


「そうそう……よう…………やく、わか…………て」


 少女と唇を離した大隊長がふらふらとその場に揺れ出す。

 そして次の瞬間、地響きを立てながら巨体が崩れ落ち、


「んごおおおおおぉぉ……んごおおおおおぉぉ………………」


 眠ってしまったのか、大いびきをかきだした。


「な、何が……」


 起きたのか。状況が飲み込めないブレットが頭に疑問符を浮かべていると、少女に毛布が掛けられ、


「辛い思いをさせてしまったが、よくやったな」


 後ろからユリウスが現れ、少女の腕を掴む。


「気持ちはわかるが、今はまだ殺すなよ?」

「……わかってる」


 少女はおとなしく頷くと、毛布を体にしっかりと巻き付けて隅に移動して蹲る。その目はさっきまでとは打って変わり、爛々と輝き、大隊長を射貫くように睨んでいた。


 少女の豹変ぶりに、ブレットが唖然としていると、


「まさか、君が選ばれると思わなかったぞ」


 ユリウスが大隊長を見下しながら呆れたようにブレットへと話しかける。


「この男、相当な変わった趣味の持ち主のようだな」

「それについては同意するけど……それだけ言われると、流石の僕でも傷つくんだけどな」

「そう言うな。それなりに可愛かったぞ。セシルちゃん」

「……それ、姉さんの前では絶対に行っちゃダメだからね?」

「わかってる。それよりこっちはこっちでやることをやるぞ」

「そうだね。皆を助けないと……」


 最優先目標である大隊長の確保はあっさりと達成できたので、後はソルティたちを助けて脱出路を確保する必要があった。


「行くぞ。ここからは僕たちの時間だ」


 ユリウスは預かっていた弓と矢をブレットに渡すと、右目の紋章兵器マグナ・スレストを解放させた。

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