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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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いざ、潜入……

 ユリウスたちがリーアン王国軍の陣営を見つけたのは、空が赤く染まり、山の向こう側に陽が落ちそうという時だった。


 紋章兵器マグナ・スレストの力でリーアン王国の旗を見つけたユリウスは、ヴィオラに馬車を止めるように指示する。


「ヴィオラ、右側前方に森の中へ通じる獣道がある。その先にちょっとした広場があるからそこで馬車を止めよう」

「わかりました」


 ユリウスの指示に従い、ヴィオラは馬車を舗装された道から外すと、指示された通りに移動して、森の中に空いた広場に止める。

 馬車が止まると同時にユリウスは飛び出し、御者台に座るヴィオラに話しかける。


「すまないが、ヴィオラはここで待っていてくれ」

「……わかりました。ユリウス、くれぐれも気を付けてください」

「ああ、いってくる」


 最後にヴィオラと軽く抱擁を交わしたユリウスは、ブレットを伴ってリーアン王国軍の陣営目指して移動を開始する。



 移動の途中で陽は完全に落ちたので、ユリウスたちは夜の闇に紛れてリーアン王国軍の陣営が肉眼で確認できるところまでやってきた。


「それで、どうやって中に入るつもりだい?」


 草葉の陰に身を隠しながら、ブレットがユリウスに声を殺しながら尋ねる。


「いくらなんでも、真正面から侵入なんて言わないよね?」

「流石にな……とりあえず正面以外に中に入れる場所がないか探るぞ」

「そうだね。見つからないように注意しながら……だね」


 二人は頷き合うと、中腰のまま陣営の外周に沿って移動する。

 陣営の外周には、篝火が侵入者を防ぐ策に沿って焚かれ、物見櫓の上には見張りの者が周囲を注意深く警戒していた。

 リーアン王国軍の大隊と言うだけあって陣営の大きさはかなりのもので、蟻の一匹も通さないほどの厳重な警戒態勢に、ブレットは諦めたように溜息を吐く。


「こりゃあ……侵入するのは一苦労しそうだね」

「そうでもない。これだけ大きな陣営となると、真面目に仕事をする人間というのも限られてくる……例えば、櫓が近過ぎるところとかな」


 そう言ってユリウスが指差す先には、櫓の上にいる見張り同士が、楽し気に談笑していた。

 他にも注意深く見てみれば、欠伸をしていたり、手持ちの武器を弄んでいたりと、敵が攻めてくると思っていないのか、一部に弛緩した空気が流れているようだった。


「これだけ人数が多いと、自分だけは手を抜いても大丈夫だと思う輩が出てくるものだ。そして、そういった空気は簡単に伝染し、思った以上の人間が手を抜いていたりするものだ」


 ユリウスは紋章兵器の力使って陣営全体を上から観察しながら、兵士たちの動向を探る。

 そして、


「フン、やはりな……」

「ということは?」

「ああ、穴を見つけた。いくぞ」


 そう言って唇の端を吊り上げてニヤリと笑うと、ブレットを連れ立って見張りの穴を見つけたという場所へと向かう。


 そうして辿り着いた先は、いくつかある少人数を通すための小さな勝手口の一つだった。

 そこで、ブレットは予想外のものを見て、呆れたように肩を竦める。


「ああ、こりゃ駄目だね」


 見張りという立場なのにも拘わらず、浴びるように酒を飲んだのか、盛大ないびきをかいて眠っている二人の兵士たちだった。

 近くには空の酒瓶が転がっており、二人が随分前から職務を放棄していたことが伺える。


「……こんな奴がいても、誰も注意しないんだね」

「別にこいつ等に限ったことではなく、誰もが同じことをしているのだろう。問題さえ起きなければいいのだろうさ」

「だけど、現にこうして問題が起きようとしているのにね」

「僕たちにとっては、そういう奴等がいることが幸いだ。さあ、行くぞ」


 勝手口の扉を開け、周囲に人がいないことを確認して、ユリウスたちはリーアン王国軍の陣営の中へと足を踏み入れる。


 中は大小様々な天幕が張られ、ユリウスたちはその内の一つ、櫓の上から死角となる天幕の近くに腰を下ろす。

 そこで一息吐いたブレットは、辺りを注意深く警戒ながらユリウスに尋ねる。


「それで、肝心の大隊長は何処にいるのだろう?」

「普通に考えれば一番大きな天幕だろうな。まあ、そこで軍議を行うから、次に大きな天幕の可能性もある」

「なるほど……じゃあ、すぐにそこに乗り込む?」

「いや……それは難しいな」


 紋章兵器で陣営内の様子を探っていたユリウスが下唇を噛みながら悔し気に吐露する。


「軍の幹部がいると思われる天幕の前には、何処も見張りが立っている。流石にそこの連中は、真面目に仕事をしているようだ」

「じゃあ、裏から回れば?」

「そうしたいが、そっちは櫓の上から丸見えだ。複数の見張りの視線を逸らさなければ、侵入は難しい……」


 だが、幸いにもそういうチャンスは近いうちに必ず訪れる。


「こうなったら、宴が始まったところで、大隊長の天幕に潜入しよう」

「まあ、それしかないよね……」


 他に代案も見つからないので、ブレットは異議なしと大きく頷く。


 後は、天幕内で宴が終わるまで待機し、連中が寝静まったところで強襲する。

 となると、宴が始まるまで何処で待機するか。そんなことを考えていると、


「マズイ!」


 ユリウスが焦った様子で声を上げる。


「一つ向こうの天幕から誰が出てきた……しかも、こっちに来ている!」

「ええっ、そ、それってマズくない?」

「マズいなんてもんじゃない……ここにいたら、確実に見つかる」

「ど、どどど、どうしよう……」


 いきなりのピンチに、ブレットは顔から滝のように汗を流しながら視線を彷徨わせながら、腰巻きの後ろに隠したナイフへと手を伸ばす。


「どうする? 予定は変わるけど、ここで殺っちゃう?」

「それはダメだ……相手は二人いるし、ここでは死体の処理に困る」

「それじゃあ、どうするのさ」

「そうだな……」


 一瞬だけ考えを巡らせたユリウスは、意を決して顔を上げる。


「……こうなったら堂々と姿を晒して、踊り子の振りをするしかない」

「ええっ!? で、でも……踊れって言われたら?」

「その時はその時だ……覚悟を決めろ。いいな?」

「う……うん」


 有無を言わさないユリウスの言葉に、ブレットは不承不承ながら頷く。

 二人は立ち上がると、互いの衣装を見比べて特に乱れがないことを確認すると、


「……いくぞ」

「うん……」


 互いに頷き合い、こちらへやって来る兵士たちの前に姿を晒すために動き出す。



 だが、


「うぐっ!?」

「……もがっ!?」


 その直前で二人は何者かに背後から襲われ、そのまま隠れていた天幕内へと引き摺りこまれていった。

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