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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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奇策?秘策?

 それからユリウスたちは一度本陣に戻り、準備を整えて再び出立した。


 敵兵から得られた情報は、リーアン王国の大隊長がいる場所とその特徴、そして、大隊長がいる場所に怪しまれずに入る方法までと、至れり尽くせりの情報だった。


 用意した馬車に揺られながら、ユリウスは得られた情報を確認して満足そうに何度も頷く。


「全く……今回ばかりは、ブレットの手腕に驚かされたよ。相手を屈するのに最も適しているのは、相手を痛めつけることだとばかり思っていたが、相手に寄り添うことでも口を割らせることができるんだな」

「あっ、うん……」

「しかも、その後の対策まで教えてくれた親切な敵兵を、最後は容赦なく首を掻っ切って殺すのだから、ブレットの悪党としての才能は中々のものだな」

「そ、そう……ありがとう」


 意気揚々と話をするユリウスとは対照的に、ブレットの表情は何処か浮かない。もじもじと居心地悪そうに何度も身動ぎし、辺りの様子を何度も確認したかと思うと、所在なさげに床へと視線を下ろす。

 そんなブレットの様子を気にすることなく、ユリウスはブレットの肩を抱きながら快活に笑う。


「相手に暴力を振るうことなく籠絡するその才能、眠らせておくのは勿体ないな。今一度、頼むこともあるだろうから、その時はよろしく頼むぞ」

「それはいいけどさ…………」


 ブレットは赤くなっている顔を上げると、珍しく語気を荒げてユリウスに問い詰める。


「どうして僕は、女の子の格好をさせられてるんだよ! それに、ユリウスも同じ格好をしているのに、どうしてそんなに平然としていられるんだよ!」

「これか? これは相手の陣地に忍び込む為のとっておきだ」


 ユリウスは自分の着ている服の裾を掴みながら不敵笑う。


 ユリウスたちは今、いつもの動きやすい服装を脱ぎ、とある格好をしていた。

 肌の大部分を露出させ、胸元とどうにか隠せるほどの面積の少ない布に、腰の部分に巻かれた色とりどりのパレオ風の腰巻き以外は、向こう側が透けて見えるほどの薄い布を体に巻いているだけの非情に扇情的な格好をしていた。

 そんな殆ど裸同然の格好をしているユリウスは、薄いヒラヒラの布を振りながら衣装の説明をする。


「聞いた話では、この衣装はラパン王国の女性が、収穫の祭りの時に切る踊り子の衣装のようだ」

「そうみたいだけど……僕が聞いているのは、どうして僕たちがその踊り子の格好をしているのかってことなんだけど……」

「だから言っただろう。これは敵を油断させるための作戦だと」

「それってつまり?」

「そういうことだ」


 ようやく事態を察したブレットに、ユリウスは大きく頷いて見せる。

 敵兵から聞いた情報では、大隊長はかなりの女好きで、近隣の村の娘を毎夜呼び出しては、何かしらの催し物をさせているという。

 そして、ラパン王国の伝統的な踊り子の衣装の存在を知った大隊長は、今宵の宴で踊り子たちによる踊りを要求しているのだという。


「だから僕たちは、踊り子の格好をして敵の本陣に直接乗り込んで、大隊長から直接話を聞こうという算段だ」

「それはわかるけど……別に僕たちが女の格好をしなくてもよくないかな?」


 そこでブレットは、馬車の御者台に乗るヴィオラを指差す。


「例えば、ヴィオラさんにお願いするとか?」

「それはダメだ!」


 ブレットの提案を、ユリウスはすぐさま否定する。


「……それだけは絶対に駄目なんだ」

「ユリウス、私なら……」

「ヴィオラは黙ってるんだ!」


 話に割って入って来たヴィオラを、ユリウスは強い口調で諫める。


「…………ヴィオラは、僕の命令なら喜んで踊り子になると言うかもしれないが、僕はもう、ヴィオラを男たちの衆目に晒すような真似は絶対にしたくないんだ……」


 そう言うユリウスの脳裏には、自分の手を振りきって山賊たちの下へと消えて行くヴィオラの小さな背中がが映っていた。

 あの時のような悔しい想いは、ヴィオラを辱めるようなことは二度としない。それが、ユリウスに残されたヴィオラに対する精一杯の矜持だった。


「……とにかく、これは僕たちだけでやるんだ。いいな?」

「わ、わかったよ」

「……すまない。感謝する」


 ユリウスは大きく息を吐くと、唖然としているブレットに笑いかける。


「それに、心配しなくてもどうやら僕は傍から見ても中々の器量良しのようだからな」

「……まあ、それは認めるけども」


 フフン、と胸を張るユリウスに、ブレットは苦笑しながらも認める。

 元々整った顔立ちで、年相応より幼く見えるユリウスは、女装しても十分に女として通用する美貌の持ち主だった。さらに、先日から長い髪で片目を隠すようになったことで、ミステリアスな雰囲気を持った美少女といっても差し支えないほどだった。

 何故か女装している自分に対し、誇らしげな様子のユリウスに、ブレットは自分の腕を摘まみながら眉を顰める。


「ユリウスはいいかもしれないけど、僕は……」


 一方のブレットは、顔立ちこそ双子の姉であるセシルの面影と、ヴィオラの化粧の腕もあって中々の見た目になっていたが、やはり戦士として鍛えられた筋肉を隠すまでには至らず、随分と筋肉質な踊り子になっていた。


「これじゃあ、顔合わせの段階でバレるんじゃないかな?」

「大丈夫だろ? 僕から見ればセシルも似たようなものだ。むしろ、おとなしい分、ブレットの方が女らしいぞ」

「それ、姉さんが聞いたら滅茶苦茶怒るだろうね」

「……だな、だからこの話はくれぐれも内密に頼む」

「わかってるよ。僕も一緒に怒られるだけだし……それより、本物の踊り子さんたちに見つかったら大変だから、本陣に入った後の動きを確認しておこうよ」

「そうだな。先ずは……」


 ユリウスは頷くと、どうやって大隊長の下へ向かうか。その後、どうやって情報を引き出すかについて話し合った。

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