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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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優しい弓手

 ユリウスとブレットは、情報を集めてくると言い残して本陣を後にした。


 明日の夜には、カルドアたちと最終的な作戦の確認が行われる。

 それまでに何かしらの結果を得なければ、王都にほぼ無策で攻め入ることになる。

 それだけは何としても避けたいとユリウスは考えていた。

 有益な情報を得るまで攻め込まないという選択肢を取れればいいのだが、生憎とここは敵地であり、民も疲弊していてまともな協力は得られない。

 自分たちの疲労も蓄積しているし、怪我人の数も徐々に増えていっている。ミグラテール王国からの救援も永遠ではない以上、王都に攻め入れられる余力があるのは、明後日がリミットであった。


「あれ? ユリウス……馬は?」


 てっきり馬を駆って移動するかと思っていたブレットは、迷いなく歩き続けるユリウスに質問する。


「敵を探しに行くのなら、馬を使った方がよくない?」

「後でな。今はまだ必要ない」


 そう言うと、ユリウスは本陣近くの森の中へと入っていく。


「ね、ねえ、ユリウス……」


 森の中を迷いなく歩き続けるユリウスに、ブレットが尋ねる。


「敵を捕らえるにしても、どうやって見つけるつもりなの?」

「簡単な話だ。敵もこちらの情報を探って斥候を多く放っている。先ずはそいつを捕まえる」

「斥候って……今までそれをやって失敗していたのに?」

「それは紋章兵器マグナ・スレストについての質問だったからだ。だが、流石に自分の仕える主の場所ぐらいなら知らぬはずがないだろう」

「あっ、なるほど……それなら知らないはずがないね」

「そういうことだ。斥候なら僕が見つけるから、処理については任せるぞ」

「ああ、任せてよ」

「それじゃあ、早速だが仕事の時間だ」


 ユリウスはそう言うと、右目を青く怪しく光らせる。

 この森で何人もの斥候を葬って来た甲斐があったのか、敵も何か重要な拠点があると思って何人もの斥候を送って来ていた。

 そして今日もまた、憐れな獲物が二人、この森へ死ににやって来たようだった。


 ユリウスは近くに木に身を隠すと、ブレットに向かって顎で指示を出す。


「この先の木の上、二股になっているところで周囲を伺っている奴がいる」

「えっ…………と…………見つけたけどめちゃくちゃ遠くない?」


 冷や汗を流しながらブレットが指差す先には豆粒より小さな、目を凝らせばもしかしたら人かもしれないと思うほどの何かがいた。

 唖然とするブレットだったが、ユリウスは何でもないようにしれっと言ってのける。


「そうか? お前の弓ならギリギリ届くと思うのだが……もしかして、腕が鈍ったのか?」

「むっ、それは聞き捨てならないね」


 ユリウスの安い挑発にブレットは鼻息を荒くすると、背中から弓と矢を取り出す。


「……たまには僕も、かっこいいところ、見せてあげるよ」


 そう言うと、ブレットは矢を弓に番えると、サッと構えて無造作に矢を放つ。

 矢は風切り音を立てながら木々の間を擦り抜け、来の上で調度反対側を見ていた敵の足を貫く。

 突然の奇襲に、敵はバランスを崩して木の上から落ちていく。

 それを見て、ブレットは白い歯を見せてニコリと笑う。


「ほらね、僕ってば役に立つでしょ?」

「御託はいい。落ちた敵に死なれたり、逃げられたりしたら面倒だ。早く捕まえるぞ」


 だが、ユリウスはポーズを決めているブレットを無視して、敵がいた方へと駆け出す。


「…………」


 無視されたブレットは、


「……ユリウスはもっと僕に優しくしても罰は当たらないと思うんだけどな」


 ぶつくさと文句を言いながらユリウスの後を追いかけた。




「クソッ! 殺すなら殺しやがれ!」


 幸いにも木から落ちた敵は意識を失い、足の一本が折れただけで、話すには何も支障がなかった。

 痛みの所為か顔を赤くし、荒い息を吐きながら手足を拘束された敵兵がユリウスたちを睨みつけながら捲し立てる。


「俺は何をされようが、絶対に何も喋らないからな!」

「だ、そうだけどどうする?」

「そうだな……」


 ブレットの質問に、ユリウスはどうしたものかと考える。

 これまで、拷問に関してはプリマヴェーラに全てを任せていた。

 彼女が持るエレオスリングの力を見せつければ、生きたまま内臓を食わせるという恐怖を味わえば、どんな強情な者でもあっさりと口を割った。

 未知への痛みというのは、拷問をする上で最も有効な手段だと思うが、残念ながら今回、彼女はいない。

 となれば、どうにか別の方法を考えなければならないのだが、生憎とユリウスはそちらの知識は左程ない。


「……ちなみにだが、ブレットは何か妙案はあるか?」

「僕かい? そうだね……」


 ブレットは小さく頷くと、恐怖で怯える敵兵に向かってニッコリと笑う。


「ねえ、君は幾らで雇われたんだい?」

「な、何をいきなり……」

「生憎と僕は荒事があまり得意じゃなくてね。だから、君さえよければ君を新たに雇いたいと思っているんだ」

「ふざけるな! そんな戯言に耳を貸す奴が……」

「ああ、別に表立って裏切らなくてもいいよ。僕たちはただ、君たちの中でそれなりに偉い人がいる場所を知りたいだけだから」

「場所……」

「そうそう、場所だけ。それを君は独り言で呟くんだ。別に情報を漏洩させたわけじゃない。敵兵に居場所を知られるなんてよくある話さ。僕たちはそれがわかれば、おとなしく立ち去る。それだけじゃなく……」


 ブレットは懐からチャラチャラと鳴る重そうな布袋を取り出すと、敵兵の前でゆらゆらと揺らす。


「ここにある金貨五枚は入った布袋も置いていこう。これだけあれば例え脱走しても数年は問題なく生きていけるだろうし、傷の手当てもできる」

「そ、それは……」

「君にも大切な家族がいるだろう? その人のためにも、ここは独り言を吐くぐらい訳ないんじゃないかな?」

「…………」


 優しく、心の隙間に入り込むようなブレットの甘言に、敵兵はすっかり険を削がれていた。


「大丈夫だから、ね?」


 最後の詰めとして、優しく手を取られたのが決め手となった。


「そ、その……」


 その敵兵は、視線を地面に落としながら、ボソボソと主の居場所を独白するのであった。

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