誤謬を正す
その後もユリウスは、紋章兵器を使ってリーアン王国軍の斥候兵を見つけては秘密裏に捕らえ、次々と拷問にかけていった。
秘密裏に行動を起こす理由は、ファルコやセシルをはじめとするミグラテール王国軍の兵士たちは、生真面目で曲がったことが嫌いな者が多く、情報を得るために敵兵を拷問にかけるような卑劣な手を嫌う傾向にあった。
これは国柄によるものなのか、それとも全員がファルコのことを尊敬しているから、思考が似てきているからなのかはわからないが、随分と生温い連中だとユリウスは思っていた。
幸いにも協力者としてプリマヴェーラがいるので、周りの目を誤魔化すことに関しては苦労しなかったこと。相手が斥候なので、ヴィオラ一人でもどうにか対応できたのが大きかった。
だが、既に十人以上の斥候を捕まえて拷問にかけてきたが、誰もが敵の紋章兵器について情報を持っておらず、無駄に死体を増やすだけだった。
「う~む……」
死体を掘った穴に埋めて処理をしたユリウスは、自分の認識が甘かったことを痛感する。
どうやら敵は、斥候を任せる者に必要以上に情報を持たせないようにしているのかもしれなかった。
情報を持ち帰ることが任務である彼等は、敵に捕らえられる可能性が必然的に高くなる。そんな彼等に、自分の弱点となるような重要な情報を与えるだろうか。
(僕なら……まずしないな)
だとすれば、自分の作戦の根本が間違っていたこととなる。
相手に情報を与えないためにも、これからも積極的に斥候を叩く必要はあるだろうが、拷問にかける相手は選ばないといけないだろう。
「……どうやら、考えを改める必要があるみたいだな」
「ユリウス?」
「どうなさったのですか?」
頭に疑問符を浮かべるヴィオラとプリマヴェーラに、ユリウスは自信の考えが間違っていたこと、捕まえる相手は斥候ではなく、本隊に所属している人間を捕まえる必要があることを伝える。
「ユリウス……でしたら私に命令してください」
すると、すぐさまヴィオラが目を光らせながら進言してくる。
「ユリウスの命令であれば、どんな相手でも捕らえてみせます」
「……駄目だ。ヴィオラにこれ以上の無茶はさせられない」
これまでは相手が一人、多くても二人の状況を狙って奇襲を仕掛けることでどうにか捕らえられてきたが、本隊に所属する人間となるとそうはいかないだろう。
「ヴィオラの強さは信じているけど、無茶をさせるつもりはないよ。ここは、素直に誰かを頼ろうかと思うよ」
「誰か……とは?」
「そうだな……」
そう言うユリウスの脳内には、ある人物の顔が浮かんでいた。
翌日の早朝、王都に攻め込むまで残り二日となり、今日の予定を決める軍議を終えたユリウスは、その足で目的の人物を訪ねていた。
「……ブレット、ちょっといいか?」
「おはよう、ユリウス。僕に何か用かい?」
「ああ、悪いが少し顔を貸してもらえるか?」
「……いいけど、ユリウスが悪いと言うとなると、何だか嫌な予感がするな」
「正解だ。だが、拒否権はないと思え」
「うげぇ……わかったよ。じゃあ、姉さんにユリウスのところにいるって伝えてくるから、先に行ってて」
「……わかった。だが、くれぐれもセシルを連れてくるような真似はするなよ?」
「わかってるよ。任せて」
ユリウスの雰囲気から何かを察したのか、ブレットは肩を竦めて苦笑しながらセシルに事情を説明しに走っていった。
その後、ブレットを自分のテントに呼び出したユリウスは、これまでの経緯を包み隠さず話した。
「……そうか、そんなことやってたんだ」
ユリウスの話を聞いたブレットは、感心したように頷く。
「ここの人たちはそういうの嫌うから、隠れてやっていたのは正解だと思うよ」
「そういうお前は、僕に忌避感を抱かないんだな?」
「ハハハ、まあ、ユリウスの性格は既に知っているからね。そういうことをしていても、別に不思議はないかな~って」
「そうか、それで……」
「ん?」
「悪いが、敵兵を捕らえるのを手伝ってもらいたいと思っている」
「わかった。僕でよければ力になるよ」
ユリウスの提案に、ブレットは間髪入れずに回答する。
その思い切りの良さに、ユリウスの方が逆に面喰ってしまう。
「……本当にいいのか?」
「いいも何も、僕に拒否権はないんでしょ? だったらおとなしくユリウスの指示に従うだけだよ」
それに、
「姉さんが紋章兵器の使用者になった以上、姉さんを守るためにも、僕も何かやりたいと思っていたんだ。だから、僕も自分の手を汚すことを厭わないよ」
「そうか、感謝する」
ユリウスは安堵の溜息を吐くと、明日の朝までに何としても有益な情報を手に入れてみせると意気込むのであった。




