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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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堕ちた王子

「がっはっは、今回も上手くいったな!」


 商人たちが死んだ峠を降りた河川敷、盗んだ馬から降りた禿頭の頭目、ナルベが豪快に笑い声を上げる。


「これも全て、我等が紋章兵器マグナ・スレスト様々だな」

 馬と荷物を部下に預けながらナルベは山賊たちの間で三白眼でこちらを睨んでいる少年、ユリウスへと顔を向けた。


 ユリウスが紋章兵器、アイディールアイズを装備してから三年の月日が流れていた。


 十六歳になったユリウスの顔つきは幼さが抜け、精悍になったものの、頬はこけ、手足は簡単に折れてしまうのではと思うほど細かった。全体的には華奢な印象を受けるが、赤と青の紋章兵器の入った目は、この世の全てを憎んでいるといっても過言ではないほどくすんでおり、城で生活していた頃の柔和さは微塵も残されていなかった。

 捕らえてきた女たちを目で追っていたユリウスは、すぐ隣にやって来たナルベを見つけると、殺意を籠めて睨みつける。


「女の人たちを攫うなんて聞いていないぞ」

「ハッ、気にするなよ。別にお前の女とは何の関係もない赤の他人だ。あいつ等だって頼まれたら奴隷を販売したり、禁止された植物を販売するんだ。今まで売る側だったのが、今度は売られる側に回るだけだ。ただそれだけの話だ」

「ああ言えばこう言う……でも、ヴィオラに手を出したら殺すからな」

「へいへい、わかってますよ。王子様」

「それもやめろ。僕はもう…………チッ」


 ユリウスは舌打ちをすると、泣き叫ぶ女性たちの声が聞こえない場所へと逃げるように立ち去って行く。

 ナルベたちと同じ空気を吸っている。それだけで自分を許すことができず、気が狂ってしまいそうだった。


 ほどなくして、一際大きな女性の悲鳴が聞こえたかと思うと、辺りが急に静かになる。 

 おそらく攫った女性の内、一人を見せしめに殺したのだろう。

 こうすると女性たちは、次に騒いだら殺されるのは自分ではないかと思い、一様におとなしくなり、その後の仕事が楽になるという。

 知りたくもない知識だったが、ナルベと何度も同じようなことを繰り返していれば、自然とやっていることの意味も分かってくる。


「…………クソ虫どもが」


 ナルベたちの非道さには吐き気がするが、自分もその一端を担っているのだと思い知り、


「そういう僕も…………最低だ」


 ユリウスは怒りを紛らわすように親指の爪を血が滲むまで噛み続けた。


「……全く、王子さまは我がままでいけねぇや」


 ユリウスが立ち去った方向を見やりながら、ナルベはやれやれと肩を竦める。


 ハッキリ言って、ユリウスの装備した紋章兵器を見た時、とんだ貧乏くじを引かされたと思った。

 世界を見る力というが、結局のところそれだけだ。

 見るだけではムカつくやつを殺すこともできないし、金持ちから財産を奪うこともできない。一体どうしてこの程度の力のものが紋章兵器と呼ばれているのかと思ったほどだ。

 だが、蓋を開けてみてどうだ。

 世界を見るということは、今まで危険を冒して探っていた獲物たちの位置が、獲物を守る傭兵たちの位置が手に取るようにわかるようになり、仕事のリスクが比べ物にならないくらい減少した。

 さらに、どうやらユリウスは戦略やら戦術の技術を叩きこまれていたようで、紋章兵器で掴んだ情報を元に、最も効率よく、且つ最も犠牲が出ない作戦を次々と組み立てていった。

 これも全て、協力しなかったらヴィオラを犯し尽して殺すと脅した効果なのか、ユリウスは文句を言いながらも裏切ることなく、最高の結果を出し続けてきた。


「まあ、ここまでは…………な」


 とはいっても、ユリウスの態度に思うところがないわけではないナルベではない。

 今はまだ力が足りないが、徐々に勢力も整ってきた。

 ユリウスの力さえあれば自分たちはまだまだ上を目指せるし、さらなる紋章兵器を入手できれば、今の関係も変わってくるに違いなかった。


「ヘヘッ、精々今は粋がってるがいいさ。お前は俺の下で死ぬまでこき使ってやるからよ」


 ナルベは口の端を吊り上げて邪悪に笑うと、せっかくおとなしくなった女が壊されてしまわぬよう、部下たちの下卑た笑い声が響く方へと歩いていった。

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