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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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懸念事項

 カルドアたち、ラパン王国軍の生き残りとの協議は、かなりの長時間に渡って熱い議論が交わされた。


 二つの軍が連携して共闘するのは難しいので、それぞれが一つの作戦の下に独立して動くことが決まり、それを前提として提供された王都の地図を頼りに、いかに効率よく攻撃を仕掛け、相手に多大な損害を与えることができるかを話し合った。

 そうして、ある程度話が煮詰まったところで、ファルコが意見を取り纏めてカルドアに確認を取る。


「カルドア将軍、それでは以上の作戦でよろしいでしょうか?」

「こちらは異論在りません。この作戦なら、上手くいく可能性はかなり高いと思います。ただ、一つだけ気がかりなことがあります」

「気がかり?」

「はい、それは相手が持つであろう紋章兵器マグナ・スレストの力が未知数だということです」

「それは、確かに…………」


 カルドアの懸念事項は、ファルコも同様に気になっていた。

 ラパン王国の王都、ルナールが堕ちた時、カルドアはリーアン王国との国境付近の戦いの指揮を執っていた為、どのように王都が堕ちたのか知らないのだという。


「ただ、奇跡的に助かった行商人によると、王都付近に展開していた部隊も、王都にいた人たちも忽然と消えてしまったようなのです」

「消えた……だって?」

「ええ、にわかには信じられませんが……他にも王都の城にも劣らぬ大きさの人影を見たという話もあります」

「人影……ですか?」

「あくまでそういう話があるというだけです。話した本人も相当混乱していたようで、話していてかなり懐疑的な様子でした」

「そうですか……」


 最後に出てきた思わぬ情報に、ファルコはおとがいに手を当てて考える。

 普通なら絶対に信じない与太話のようだが、相手が紋章兵器となると話は変わってくる。

 もし、それらの噂が全て真実であった場合、果たしてユリウス、プリマヴェーラ、そしてセシルの紋章兵器だけで太刀打ちできるだろうか。

 ただ、ユリウスとプリマヴェーラの紋章兵器は戦闘向きではないので、実際はセシルのラファーガ一本で、相手の紋章兵器と渡り合わなければならなくなる。


 果たしてこのまま王都に攻め込んでいいものだろうか。そうファルコが考えていると、


「問題ないだろう」


 ファルコの隣から、頼もしい声が聞こえた。

 この場にいる全員からの視線を受けて、ユリウスは不敵に笑う。


「その辺については、当日までにどうにかして僕が情報を集めよう」

「軍師殿が? 本当に可能なのですか?」


 不安そうに尋ねてくるカルドアに、ユリウスは力強く頷き返す。


「一応、当てはある。上手くいけば、割と早い段階で情報を手に入れられるから、分かり次第、あなたたちにも共有することを約束しよう」

「……わかりました。ここは軍師殿のお手並みを拝見させていただくことにします。ただ、念の為にこちらも独自に動くようにします」

「ああ、そうしてくれ。後は決行の前日に、お互いの情報を擦り合わせて最後の詰めをするようにしよう」

「わかりました。よろしくお願いいたします」


 そう言ってカルドアが差し出してきた手を、ユリウスが握り返したところで、二国間の協議は終わった。




 秘密の会議室を後にし、村から本隊に戻る道の途中で、


「ユリウス、さっきの話だけど……」


 ファルコが話を切り出す。


「当てはあるなんて言ってたけど、本当にあるのかい?」

「ああ、実は以前から密かに動いていたんだけど……今日になってようやく成果が実を結んでね」

「そ、そうだったのか。全然、知らなかったよ」

「ごく限られた人間にしか伝えていなかったからな。ファルコが知らなかったのも無理はない。それに……」

「それに?」

「……いや、何でもない。今のは忘れてくれ」


 ユリウスは言葉を濁すと、肩を竦めてこれ以上は追求するなと暗に伝える。


「とりあえず、何か分かり次第、すぐに報告するさ」

「わかった。でも、ユリウス……君自身に危険が及ぶようなことだけはするなよ」

「心配するな。僕が弱いことは、僕自身が一番わかっているからさ」


 そう吐き捨てるように言うと、ユリウスは用事があると言ってファルコと別れた。


 ファルコと別れたユリウスは、そのまま本陣には戻らず、紋章兵器で周りに人がいないことを確認しながら移動を開始する。

 幸いにも会議が長引いたため、陽はすっかり落ち、辺りは明かりが無ければ碌に視界も状況だった。

 そんな中をユリウスは、明かりもつけずに自分の記憶だけを頼りに歩く。

 暗闇で過ごした時間が長いため、闇に対する恐怖は全くといってもいいほどないので、その歩みに一切の迷いはない。


 そうしてユリウスがやって来たのは、本陣からさほどは慣れていない森の中にある、木こりの休憩のために用意された小屋だった。


「僕だ。ユリウスだ」


 小屋の入口をノックしながら名乗ると、


「ユリウス、お待ちしていました」


 扉が開き、中から笑顔のヴィオラが迎えてくれる。


「ああ……ユリウス。今日も無事で何よりです」


 ヴィオラはユリウスのことを強く抱擁すると、悦に入ったように頬擦りをする。

 いつもなら、このまま暫くヴィオラの愛情表現がはじまるのだが、


「ヴィオラさん」


 小屋の中からプリマヴェーラの感情を殺した声が響き、ユリウスとヴィオラを引き剥がしにかかる。


「仲良くしているところ申し訳ありませんが、時間がありませんからそろそろユリウス様を解放してくれませんか?」

「プリムの言うことはもっともだ。ヴィオラ、悪いが続きは後にしてくれないか?」

「そうですね。夜はまだ長いですからね」


 微妙に話が噛み合っていないような気もするが、ヴィオラはおとなしく引き下がる。

 自由になったユリウスは、捨て猫のように縋るように見上げてくるプリマヴェーラに質問する。


「プリム、首尾はどうだ?」

「そうですね。今のところは有用な情報は手に入ってないです」


 プリマヴェーラに案内されてユリウスが部屋に入ると、中から何かが蠢く気配がする。


「ヒッ……」

「も、もうやめてくれ!」


 すると、小屋の隅から悲鳴と、泣き入るような声が上がる。

 ユリウスが目を向けると、そこには両手両足を拘束されたラパン王国の軍服を着た兵士が二人、怯え切った顔でこちらを見ていた。


「…………」


 反対側に目を向けると、エレオスリングによって体の中身をくり抜かれた死体が三つ並んでいた。

 死体の顔はどれもが痛みにもがき苦しみ、絶望の淵に立たされ続けた恐怖で普通ならあり得ないような、顔中の穴という穴が開き切った強張った表情をしていた。

 この状況を見て、ユリウスはやれやれと小さくかぶりを振る。


「……ふむ、ここまでされて誰も何も吐かないということは、本当に何も知らないのかもな」

「うぅ……残念です。せっかくユリウス様のお役に立てると思ったのに」

「何、たいした問題じゃない」


 ユリウスは唇の端を吊り上げて凶悪に笑う。


「残る二人も何も知らないのならば、次を捕まえて来ればいいだけの話さ」

「そうですね。そしたらわたくし、もっと頑張ります」

「ああ、期待している」


 ユリウスがプリマヴェーラの頭を撫でると、彼女は子猫のように嬉しそうにはにかむ。

 相変わらずチョロい女だ。と考えながら、ユリウスはこちらを見ている二人の兵士に目を向ける。


「……というわけだ。残念ながら君たちに明日はやって来ない」


 その死刑宣告に、二人の兵士の顔はみるみる恐怖に歪んでいく。

 その後も、小屋の中から断続的に悲鳴が上がったが、小屋を訪れる人は誰もいなかった。

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