生きてこそ
その後、ユリウスたちは近隣の村々を周ってリーアン王国の兵たちを討伐し、村から盗まれた食料や財産を取り返したり、場合によってはこちらから支援物資を支給したりした。
ただでさえ貴重な物資を分け与えるなど、正気の沙汰とは思えないと思われるかもしれないが、それを平然とやってのけるのがファルコという人間だった。
そして、そのファルコの献身的な態度がラパン王国民たちの心を打ち、民たちはミグラテール王国軍に協力的になり、本国からの救援物資も滞りなく届くようになった。
――そうして、王都へ向けて進み続けること三日、遂に待望の時がやってくる。
「ラパン王国軍が!?」
「はい、ファルコ様とお会いしたいと、使いの者がやって来ております」
その一報に、ファルコはユリウスと目を合わせ、強く頷き合う。
ここから先は王都にも近いとあって、リーアン王国軍の強い抵抗が予想されていただけに、このタイミングでの接触は正に渡りに船であった。
「僕の方も話がしたいと伝えて欲しい。それで、会見の場所は?」
「この近くの村で、だそうです。そこに逃げ延びた兵士たちを束ねる者がいるそうです」
「わかった。準備ができ次第、こちらから伺うと先方に伝えておいてくれ」
「かしこまりました」
伝令は深々と頭を下げると、ファルコの意を相手に伝えるために颯爽と立ち去って行った。
伝令が立ち去ると、ファルコは深々と溜息を吐く。
「よかった……ギリギリだったけど、どうにかなったね」
しかし、安堵するファルコとは対照的に、ユリウスは慎重だった。
「喜ぶのはまだ早いぞ」
「……どういう意味だい?」
「そのままの意味だ。相手が本当にラパン王国軍である保証はないからな」
ここに来るまで、ユリウスたちはラパン王国からの理解を得るために、わざと目立つように行動してきた。
当然ながら敵であるリーアン王国にもその活動の報告はいっているだろうし、最近はそれを予期しての待ち伏せに遭うことも出てきた。
故に、今回の接触がラパン王国の罠である可能性は否定できなかった。
「こちらも最大限の警戒はするが、ファルコも万が一の可能性があることだけは、覚悟しておいてくれ」
「……わかった。でも、僕は大丈夫だと思うよ」
「それは得意の勘か?」
「まあ、そんなところだね……後は、ユリウスなら何とかしてくれると信じているからだよ」
「――っ、お前って奴は……」
全幅の信頼を寄せてくるファルコとの言葉に、ユリウスは呆れたように嘆息するが、その顔には悪い気はしないという気持ちが現れていた。
それでも、ユリウスは自分の両頬を強く叩いて気を取り直すと、ファルコを諫めるように話す。
「お前のそのお人好しは、最大の利点だが、同時に最大の欠点だ。何処かしこでもそんな態度を取っていたら、いつか足元を掬われるぞ」
「わかってるよ。でも、そうならないために、僕は普段から気をつけて行動しているつもりだよ」
「どうだか……」
これ以上の議論を重ねたところで、ファルコには勝てないと踏んだユリウスは、話は終わりだと手を振りながら立ち去ろうとする。
「とにかく、僕が先に行って様子を見てくる」
「わかった。ユリウス、任せたよ」
「……言われるまでもないさ。まだファルコに死なれては困るからな」
と、ユリウスは精一杯の皮肉を口にしながらファルコのテントから立ち去って行った。
結論から言うと、ユリウスの不安は杞憂で、接触したいと言ってきたラパン王国軍は本物だった。
ユリウスが先行して村の様子を確認した時、村は非常に落ち着いた様子で、誰かに脅されたり、略奪された跡がなかったことや、武装こそしていないが、村人の何人かは、立ち回りが軍で鍛えられたと分かる動きをしていたことから、ここにラパン王国軍の生き残りがいるのは間違いないと判断したからだ。
そうしてファルコたちが通されたのは、村の備蓄庫の地下に造られた秘密の会議室だった。
「はじめまして、ファルコ様。私はラパン王国軍、第三師団を任されていたカルドアと申します」
ファルコたちを出迎えてくれたのは、いかにも歴戦の猛者という風格たっぷりの、中年の男性、カルドア将軍だった。
ガルツが差し出してきた手を握り返しながら、ファルコは笑顔で返す。
「はじめまして、カルドア将軍。お会いできて光栄です」
「いえいえ、ファルコ様たちの活躍は、私たちも聞いております。この度は、我が国のために本当にありがとうございます」
カルドアが膝を付いて頭を垂れると、後ろに控えていた部下たちも一斉に頭を下げる。
「本来なら、王を失ったのに我々が生きていること事態が恥なのですが、いつか必ず再起できる日が来ると……王都を再び取り戻して民たちを安心させる日が来ると、恥を忍んで今日まで生き長らえてきました」
「そんな、恥だなんて言わないで下さい。僕たちからすれば、カルドア将軍が生き残ってくれたからこそ、こうして力を合わせることができるのです」
「……もったいないお言葉、ありがとうございます」
そう言って再び頭を下げ、静かに泣き始めるカルドアに、畏まったことが得意ではないユリウスが割って入る。
「感極まっているところ悪いが、そろそろ本題に入ってもいいか?」
「えっ? あっ、はぁ……ファルコ様、彼は?」
「ああ、彼はユリウス。僕の軍で軍師をやってもらっている」
「軍師? こんな若い者が?」
まだ子供といっても差し支えないユリウスの体を見て、カルドアは目を見開く。
信じられないと呆然とするカルドアに、ファルコは問題ないと強く頷きながら話す。
「彼の実力は、僕が保証しますから心配ありません。それに、これまで僕たちが勝ち続けて来れたのも、ユリウスがいたからです」
「そ、そうですか。ファルコ様がそうおっしゃるのであれば信じます」
「ありがとう。それじゃあ、ユリウス。ここから先は任せてもいいかい?」
「ああ、任せろ」
ユリウスは鷹揚に頷くと、ファルコに代わって前へと進み出る。
「僕はまどろっこしいことが嫌いだから、早速本題に入らせてもらうよ」
そう言うと、ユリウスはカルドアたちに次々と矢継ぎ早に質問していった。




