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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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勝利を手に入れるために……

 一方、リーアン王国の兵士たちが目指していた村では、


「本当に……本当にありがとうございます」


 村長がファルコに向かって、何度も頭を下げて礼を言っていた。


「この国が堕ちてから、各地でリーアン王国による略奪行為が続いていると聞き、我々の村もいつ襲われるかと……そんな中、まさかミグラテール王国の光の王子様に来て頂けるなんて……光栄です」


 恐々と小さくなって震える村長に、柔和な笑みを浮かべたファルコが安心させるように肩を抱く。


「我々が来たからにはもう大丈夫です。ほら、噂をすれば……」


 そう言うファルコが指差す先には、リーアン王国兵たちを殲滅してきたセシルの姿があった。

 セシルはファルコの下へと真っ直ぐやって来ると、頬を紅潮させた恋する乙女の顔で報告する。


「ファルコ様、敵を蹴散らしてきました」

「ご苦労様、紋章兵器マグナ・スレストの調子はどうだった?」

「想像以上でした。本当に私一人で、一小隊を相手にすることができました」

「それは凄い! 流石と言いたいところだけど、何だか浮かない顔をしているね」


 人の機微に敏感なファルコは、セシルの表情の差に目敏く気付いて質問をする。


「何か気になることがあるのなら遠慮なく言ってほしい。僕たちにできるのは、大事に至る前に手を打つことだけだからね」

「あっ、はい。ありがとうございます。でも、大丈夫です。これは私個人の問題ですから……ただ、少し休ませてもらってもいいですか?」

「勿論だよ。暫くはこの村で話を聞かせてもらうから、その間、ゆっくりと休んでくれ」

「はい、ありがとうございます」


 セシルは深々とお辞儀をすると、少しふらつきながら去っていった。



 立ち去って行くセシルの背中を、ファルコが少し寂しそうに見送っていると、


「戻ったぞ」


 セシルを援護する位置に待機していたユリウスたちが戻って来た。

 ブレットが駆る馬からようやくといった様子で降りたユリウスは、手で敵を両断するような仕草をしながら興奮したように捲し立てる。


「見事なものだ。五十名近い敵兵を全て真っ二つだ」

「みたいだね。って、真っ二つ?」

「ああ、ラファーガならまともに切り結ぶ必要はないからな。敵陣に突っ込み、力を解放し、空気を奪われて敵の動きが止まったところを一網打尽だった」


 敵兵がいた丘の上は、血と臓物の海で凄まじいことになっているぞ。とユリウスからの報告を受けて、


「ああ、それでか……」


 ファルコはセシルの調子が悪そうだった理由に思い至る。

 つい先日の戦いの後、ファルコは戦争というものがどれだけ凄惨で、後味の悪いものであるかを十分すぎるほどに理解した。

 これから先、何度も目にするであろう光景だと自分に言い聞かせて、少しでも耐性をつけようと努めたが、それでも気分が悪くなって密かに戻してしまったりもした。

 実力は随一だが、セシルも経験という点ではファルコと大差ないことから、敵兵の無残な死体を見て気分を悪くしたのだと思われた。


「…………」


 そんな中、紋章兵器を使って一部始終を見ていたであろうユリウスが平然としているのを見て、ファルコは自分もこうあるべきだなと改めて感心する。


 そんなことをファルコが思っていると、ユリウスが隣に立つ村長を指差しながら質問してくる。


「それで、例の件は村長に話したのか?」

「えっ、例の件?」


 ユリウスの言葉に、何か無茶な要求をされるのではないかと察した村長が、ガタガタと震え出す。


「も、申し訳ないのですがこの村は小さく、備蓄は疎か、お金も僅かしか……皆様のお役に立てることなんて何も……」

「あっ、そういうことではないですから安心してください」


 今にも泣き出しそうな村長に、ファルコは慌てたように本来の目的について話す。


「僕たちは皆さんの蓄えに手を付けようなどとは微塵も思っていません」

「で、では儂等に一体何を?」

「実は、皆さんにある噂を広めてもらいたいと思いまして」

「噂……」

「はい、そんなに難しい話でもないので、そう気構えないでください」


 そう言うと、ファルコは話してもらう噂について話す。


 その内容は、ミグラテール王国軍がラパン王国を救うために行動をしていること。

 今から一週間後に、ラパン王国の王都を取り戻すために攻め入ること。

 そして、それを成すためにラパン王国の協力を取り付けたいというものだった。


 これらの噂を、近隣の村や、行商にやってくる商人に流してほしいというものだった。


「はぁ……それくらいでしたら、協力出来ると思います」

「そうですか、ありがとうございます」

「いえいえ、それでは儂等はこれで……」


 村長は何度も頭を下げると、早速、噂を流してきますと言って立ち去って行った。



 村長の小さな背中が見えなくなるまで見送ったファルコは、


「これで、よかったの?」


 隣に立つユリウスに質問する。


「あんな抽象的なお願いで、本当に協力者なんて現れるのかな?」

「現れるさ。ただ、僕たちが待つのは、村人の協力者じゃない。連中がいくら増えたところで、盾以外の役には立たないだろうからな」

「……相変わらずだね」


 いつもの歯に衣着せぬユリウスの言葉に、ファルコは苦笑する。


「では、誰の協力を待つんだい?」

「ラパン王国軍の生き残りさ」


 ユリウスは指を立てながら説明する。


「いくら王都が堕ちたからといって、ラパン王国軍が全滅したわけじゃない。生き残った者は、再起するチャンスを何処かで狙っているはずなんだ。そう言う連中とコンタクト取れれば、王都を取り戻せる確率は上がるだろう」

「……もし、ラパン王国軍が現れなかったら?」

「その時は今の戦力で死闘を繰り広げるだけだ。ただし、奇跡的に勝てたとしても、我が軍の被害は甚大なものになるだろうがな」

「そうなることは、避けたいね」

「ああ、だからなるべく派手に村々を助けながら王都を目指そう。それが、我々の勝利に確実に近づくからな」

「そうだね。そういう作戦なら、皆も積極的に動いてくれるだろうしね」


 ファルコは力強く頷くと、次の村へ向かう旨を全軍に伝えるために動き出した。

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