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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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「ううっ……」


 ズキズキと頬が痛む感覚に、ユリウスの意識が覚醒する。


「痛ぅぅ……そ、そうだ。セシルは?」


 暴走したラファーガから助けようとしたのに、何故かセシルの胸を揉むという事態になってしまったが、それより気になるのは、セシルが紋章兵器マグナ・スレストの使用者として認められたかどうか、だった。


 自分がまだ先程のテント内にいることを確認したユリウスがキョロキョロと辺りを見渡していると、


「起きたか。スケベ野郎」


 部屋の隅から、セシルの可愛らしい声が聞こえてきた。

 声のした方を見やると、プリマヴェーラに治療してもらい、着替えが完了したセシルが怒り顔でこっちを見ていた。

 セシルの無事に安堵の溜息を吐きながら、ユリウスは先程の評価について異議を唱える。


「……スケベ野郎という評価は心外だな」

「何よ。事実でしょ」

「言っておくが、あれは事故だ。他意はなかったぞ」

「それじゃあ、どうして私の胸を掴んだだけじゃなくて……も、揉んだのよ!」

「…………その、それは……無意識だったというか……」


 思ったより揉み心地が良かった。などと言えるはずもなく、ユリウスは気まずそうに視線を逸らす。


「と、とにかく……その腰に下げている紋章兵器はちゃんとモノにできたのか?」

「…………なんか、強引に話を逸らそうとしてない?」

「そんなことない。僕としてはその武器が使い物になるかどうかが第一だ。何て言ったって僕は、この軍の軍師だからな」


 鼻息荒くしながら一気に捲し立てるユリウスに、セシルは暫く三白眼で睨んでいたが、呆れたように嘆息すると、腰に吊るしたラファーガを愛おしそうに撫でる。


「まあ、さっきの件は後で追求するとして……お望み通り、この子は私のことを使用者として認めてくれたわ」

「そうか、そいつは何よりだが……そうなると最後の暴発は何だったのだ?」

「ああ、あれはね……」


 セシルは大袈裟に肩を竦めると、指を二本立ててユリウスの両目を指す。


「上から目線でこちらを値踏みしている生意気な紋章兵器に、嫌がらせをしたかったんだって」

「何……だと?」


 聞き捨てならないことを聞いたと、ユリウスは目を見開く。


「嫌がらせをしたかったって……セシル、そいつが何を言っているかわかっているのか?」

「何となくだけどね……頭の中に、この子が言いたいことがフワーッと伝わるのよ」

「……そいうものなのか?」


 ユリウスは部屋の隅でおとなしくこちらの様子を伺っていたプリマヴェーラにも確認を取る。


「ええ、そうですね」


 プリマヴェーラは頷くと、右手の薬指に嵌められたエレオスリングを掲げる。


「確かにわたくしも感じる時があります。といっても、わたくしの場合は声ではなく、漠然とわかるというだけですが……ユリウス様の紋章兵器は、お話したりしないのですか?」

「ない……」


 ユリウスは小さくかぶりを振ると、自嘲気味に笑う。

 と言っても、自分の目から声が聞こえたとしたら、それはそれでかなり怖いと思うが、少なくとも紋章兵器の方からユリウスにコンタクトを取ってきたことは、今まで一度もなかった。


「で、でもでも、大丈夫ですよ」


 ユリウスが気落ちしている様子が伝わったのか、プリマヴェーラは慌てたようにフォローに回る。


「わたくしも紋章兵器の考えがわかるようになったのは、使い始めてから随分経ってからですよ」

「……僕はこいつを装備して三年以上経つけどな」

「あう~、で、でも、ユリウス様の紋章兵器は、そう簡単に心を開いてくれないだけだと思いますよ」

「そうだといいがな」

「そうですよ。そうに違いありません!」


 近付いてきたプリマヴェーラは、ユリウスの手を取って元気づけるようにブンブンと乱暴に上下に振る。


「ユリウス様の紋章兵器はお体に直接装備しているのですから、わたくしたちとは違う方法でお声を聞けるんだと思います。それに、時が来れば必ず聞こえるはずです」

「…………そうなのか?」

「そうです! ユリウス様の紋章兵器が特別なのはわたくしが保証しますから、今は焦らずにその時が来るのを待ちましょう」

「わかったよ」


 プリマヴェーラが余りにも必死に説得してくるので、ユリウスとしては笑うしかなかった。


 それに、今は落ち込むよりも、声が聞こえるというセシルから確認すべきことがある。


「セシル、武器の声を聞いたということは、その武器の特性もわかったのか?」

「ええ、それについてはバッチリよ」


 セシルは鞘からラファーガを引き抜くと、緑色の刀身を見せながら説明する。


「この子、ラファーガの最大の力は、刀身に風を纏っての無限の切れ味よ。他にも刀身を長くするというのがあるけど、これは周りの空気を奪う所為で呼吸がままならなくなるから、余りお勧めしないわね」

「なるほど……だからあの敵は、刀身を伸ばした時は一歩も動かなかったのか……」


 射程を伸ばす代わりに機動力を失うのでは、使いどころはかなり限られてくるだろう。

 だが、周りの空気を奪うというのは、別の使い道がありそうだった。


 ラファーガの使い道についてあれこれと試行錯誤していると、セシルが探るように尋ねてくる。


「どう……かな? この子を使っての有効な作戦あるかな?」

「ああ、任せておけ。これから近隣の村を回るから、機会があれば一つ試してみよう」


 ユリウスは大きく頷くと、犬歯を剥き出しにして獰猛に笑う。

 悪い顔をしているユリウスを見たセシルは、


「……あれ? もしかして私、余計なこと言っちゃったかな?」


 今更ながら後悔するのだが、時すでに遅しだった。

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