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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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認められるために

 下着姿となったセシルに、ユリウスは困惑した様子で問いかける。


「いきなり脱ぎ出すとか……お前、そう言う趣味でもあるのか?」

「違うわよ。替えの服が少ないから破れてもいいようにという配慮よ……それとも何? もしかして、私の下着姿にドギマギしちゃった?」

「いや、別に……」

「本当かしら? 私の新たな魅力に気付いて、内心かなり焦っちゃってたりするんじゃないの?」


 ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら言い寄ってくるセシルを、ユリウスは辟易しながら押し退ける。


「しつこいな。女の裸ならヴィオラので見慣れているから、貧相なお前の体を見て今更思うことなど何もない」

「…………」

「…………」


 その言葉にセシルだけでなく、何故かプリマヴェーラの笑顔まで凍り付く。

 室内が体感で三度は下がったような寒気に、ユリウスが狼狽したように二人の女性に問いかける。


「………………何だ? どうした?」

「いや、別に……」

「そうですね。特に何かがあったというわけではありませんが……」


 プリマヴェーラはユリウスの腕に自分の腕を絡めると、耳元で囁く。


「ヴィオラさんの裸で見慣れているという話、後でじっくりと聞かせていただきますからね?」

「あ、ああ……わかった」

「なら結構です。さあ、セシル様。こちらは大丈夫ですから、とっとと試練とやらを受けて下さい」

「あっ、はい……わかりました」


 プリマヴェーラに促されたセシルは、そのまま流されるようにラファーガの柄を握ると、正眼に構える。

 そのまま目を閉じ、ラファーガに力を送るように柄を握る手に力を籠めると、緑色の風がセシルの体を駆け抜け、彼女の体を覆っていた下着を切り裂いて、彼女の控えめな乳房と、引き締まったお尻を露わにする。


「キャッ!?」


 生まれたままの姿にされたことに、セシルが思わずラファーガを放り出して秘部を隠そうとするが、


「武器から手を離すな!」

「――っ!?」


 ユリウスからの鋭い指摘に、セシルはすんでのところでラファーガを放り出すのを踏み止まる。


「うう……」


 だが、その顔は羞恥に赤く染まり、内股でもじもじと恥ずかしそうに身を捩る様子は、とてもラファーガに力を送るような気迫はない。

 そこで、


「セシル様、大丈夫ですよ」


 プリマヴェーラがセシルに声をかける。

 その声にセシルが目を向けると、ユリウスの目を両手で隠したプリマヴェーラがいた。


「ご覧の通り、ユリウス様の視界はわたくしがこうして塞いでおりますから、気にせずにお続けください」

「あ、ありがとうございます。でも、それだとユリウスがいる意味がないんじゃ……」

「大丈夫ですよ。多少の怪我なら、わたくしの紋章兵器マグナ・スレストで治してさしあげますから」

「はぁ……わかりました」


 確かにプリマヴェーラの紋章兵器なら、余程のことがない限り命の保証はされるはず。そう判断したセシルは、再びラファーガを正眼に構えて力を籠める。


 再びラファーガに集中し出すセシルを見て、プリマヴェーラはユリウスの目を隠したまま囁く。


「……これで、よろしかったでしょうか?」

「ああ、問題ない」

「ですが、本当に目を隠したままで、限界を見極めるなんてできるのですか?」

「目を隠されたままでも、僕の紋章兵器を使えば問題なく見えるのさ」

「……そういえば、そうでしたね」


 パロマの街での出来事を思い出し、プリマヴェーラは不満そうに唇を尖らせる。


「……ちなみにですが、本当に下心はないのですよね?」

「しつこいぞ。プリムもファルコの妹なら、僕が嘘を言っているかどうかぐらい、判断できるはずだろ?」

「…………まあ、それは……はい」


 ユリウスの毅然とした態度に、本心が分かっていたプリマヴェーラはすごすごと引き下がる。


(やれやれ……)


 ようやくおとなしくなったプリマヴェーラに、ユリウスは心の中で嘆息しながらセシルへと意識を集中する。



「う……うくっ…………」


 ラファーガへと意識を集中しているセシルの体には、無数の切り傷ができていた。


「この……負けないん…………だから」


 切り傷から血が吹き出し、膝を付きそうになるが、それでもセシルは歯を食いしばってラファーガへと意識を集中し続ける。

 自分が一糸纏わぬ姿となっていることすら忘れるほど集中しているセシルの様子に、ユリウスはプリマヴェーラに目の拘束を取るように指示を出す。

 こうしてユリウスが視界を確保しても、セシルは全く気付かなかった。

 いや、それは気付けなかったと言った方がいいかもしれない。


「あくっ!?」


 中々手放そうとしないセシルに苛立ちを覚えたのか、ラファーガの刀身がより緑色に強く輝き出し、彼女の体をより一層、深く傷付けていたのだ。


「ユリウス様……」

「大丈夫だ。あの剣も、本気でセシルを殺そうと思っているわけではないらしい……」


 そう言うユリウスの左目は、ラファーガが放つ風の刃に死に至るほどの威力がないのをハッキリと捉えていた。

 だが、


「――っ、キャアアアアアッ!」


 そこでユリウスの予想もしなかったことが起きる。


「な、何だ!?」


 これまでおとなしかったラファーガが突如として暴走し、セシルに牙を剥き出したのだ。


「あがっ!? がはっ……」


 一陣の風が腹部を大きく裂き、セシルは口から大量の血を吐き出す。


「ユ、ユリウス様?」

「ああ、これはマズイな……」


 このままではセシルの生死に関わる。そう判断したユリウスが荒れ狂うラファーガの風の隙間を縫ってセシルへと近寄ろうとするが、


「ま、待って……あと少しだから」


 まさかのセシルの方からストップがかかる。


「この子はちょっと拗ねているだけなの。今ここで私が逃げたら、きっとこの子はずっと心を開いてくれない」

「……信じていいんだな?」

「任せて。必ずこの子を私たちの戦力にして見せるから」

「……わかった」


 そこまで断じられては、ユリウスとしては断る理由はなかった。


 それでも万が一、ラファーガがセシルを殺そうとした場合に備えて、ユリウスはプリマヴェーラを安全な場所まで下がらせ、自分はすぐにでも止められるような位置取りを確保する。

 その間にも、ラファーガは刀身の明滅を繰り返しながら四方八方に緑の刃を飛ばしまくる。


「クッ……」


 左目の紋章兵器の力を使っているお蔭でどうにか直撃を免れているが、攻撃が予測できないセシルは、次々と刃によって体に傷を刻んでいく。


「大丈夫……大丈夫だから」


 セシルは荒れ狂うラファーガをあやすように何度も話しかけ、絶対に手放すまいと剣を掴む手に力を籠める。

 すると、抑え込もうとするセシルに反発するように、ラファーガの刀身がさらに強く輝き出す。

 次の瞬間、ユリウスの左目はラファーガの刀身が致死量に達する赤色に染まるのを確認する。


「――っ、セシル!!」


 こうなったら身を挺してセシルを助ける。ユリウスはそう決意して飛び出すが、それよりも早く、ラファーガが力を解放する。


「しまっ――」


 判断が遅れたことを悔やみながらも、せめてセシルの命を繋ぎ止めてみせる。そう思ったユリウスが手を伸ばすと、


「…………えっ?」


 その手が捕らえたのは、硬い剣でも生暖かい地でもなく、とてつもなく柔らかい何か、だった。

 その心地よい感触に、ユリウスが思わず手にしたものに力を籠めると、


「ひゃん!?」


 何やら可愛らしい悲鳴が聞こえた。


「…………えっ? あっ……」


 悲鳴に我に返ったユリウスは、自分がセシルの控えめな胸を思いっきり鷲掴みしていることに気付く。

 胸を掴まれたセシルの顔は、みるみる羞恥と怒りで真っ赤に染まっていき、ユリウスを三白眼で睨むと、地獄から響いてくるようなドスの効いた声で問う。


「な、なな……何してるの?」

「いや、その……これはお前を助けようとだな」

「そう……それはありがとう……」


 セシルはニッコリと微笑んだかと思うと、


「何て言うと思うかああああああああああああぁぁ!」


 一瞬にして怒り顔に表情を変え、ユリウスのことを思いっきり張り飛ばした。

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