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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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立てられた白羽の矢

 剣の紋章兵器マグナ・スレストの使用者を探しているのに、既に剣士にその資格がなくなっていることに、ユリウスはどうしたものかと思案する。


(こうなると残るは、軍議に参加した幹部連中に頼むか……いや…………)


 そこまで考えが及んだところで、ユリウスはあることに気付く。


「……そういえばセシル、お前はもう試したのか?」

「私? 私はやってないわよ」


 セシルは顔の前でブンブンと両手を振りながら否定の言葉を口にする。


「だって、服が脱げちゃうのよ。乙女の柔肌を衆目に晒すなんて真似、できるわけないでしょ」

「…………」

「何よその顔は?」

「いや、正直に呆れていただけだ」


 ユリウスはやれやれとかぶりを振ると、セシルに詰め寄る。


「お前、今の状況がどういうものかわかっているのだろうな?」

「ど、どういう意味よ」

「他意はない。我々が非常に窮地に立たされていることを理解しているのか。と聞いているのだ」

「はぁ、何言ってるのよ」


 ユリウスの言葉に、セシルは憮然とした態度となる。


「昨日、私たちが連中に勝利したのを忘れたの? しかも、圧倒的な勝利を飾ったのよ。そんな私たちが、どうして窮地に立たされているというのよ」

「はぁ……お前は本当に脳筋女だな」


 ユリウスは嘆息すると、現状について説明する。


「いいか? 我々が昨日倒した連中は、リーアン王国にとってほんの一部に過ぎないということだ」

「そんなのわかってるわよ。だから、これからラパン王国の王都に行って、リーアン王国の連中を追い出すんでしょうが」

「そうだ。そして、そこにいるのは、昨日の比ではない数の敵と、強力な紋章兵器があるだろうということは当然、理解しているのだな?」

「……あっ」


 そこまで言われたところで、セシルはようやくユリウスが謂わんとするところを理解する。

 昨日の戦いでは、ミグラテール王国軍の二千に対し、リーアン王国は三千という数の差が既に千はあった。

 普通に考えれば絶対に覆せない数の差であったが、そこを戦略と完璧な連携によって辛くも勝利を手にすることができた。

 だが、勝利を手にすることがはできたが、死者ゼロで済んだわけではなく、ミグラテール王国軍の総数は二千には及ばず、この数が増えていく予定も今はない。

 これからラパン王国の王都に向かう途中で、ラパン王国の民に志願兵を募る算段はあるが、ミグラテール王国軍と上手く連携が取れるかは未知数だし、立ちはだかる敵も当然ながら存在する。


 つまり、現状の戦力でラパン王国の王都を攻め入るのは、無謀としか言えないのであった。


「それでも我々がそれを決行するのは、そうしなければ我々の体力が持たないということだ」


 そしてそれは、ラファーガの使い手が現れる前提で組まれた作戦でもあった。


「紋章兵器の力なしで進み、数が三分の一以下になったら敗北は必至。逃げ帰ることも困難を極めるだろうな」

「あ……」

「そうなった時、適性があるかもしれないのに、肌が見られるのが嫌だからという理由で紋章兵器を拒んだ者がいたとなったら、皆はどう思うだろうな?」

「あうあう…………」


 ユリウスの言葉に、セシルの顔はみるみる青ざめ、額からはダラダラと汗が流れ始める。

 助けを求めるようにセシルが周りを見やるが、ブレットをはじめ、全員が現状を正しく知っていたようで、唯一知らなかったセシルを呆れたような目で見ていた。

 完全に追い詰められたセシルは、


「わ、わかった。わかったわよ! やればいいんでしょ」


 自棄になったように叫ぶ。


「でも、皆の前でやるのだけは絶対に嫌だかね。それでいい?」

「わかった。それじゃあ、準備するから少し待ってろ」


 ユリウスは頷くと、セシルがラファーガの試練を受けられる環境をつくるように周りに指示を出した。




「すぅ……はぁ……」


 テントの真ん中に突き立てられたラファーガを前に、セシルは大きく深呼吸をする。

 一見すると刀身が緑色の直刀だが、手にした者が力を解放すると、その刀身が伸び、切り結んだ剣すら簡単に両断するほどの切れ味を持つ魔剣へと変化する紋章兵器を見て、セシルは思わず身震いする。

 後は、剣の柄へと手を伸ばし、武器を構えて力を解放するイメージをするだけなのだが、


「…………どうしてユリウスだけじゃなくて、プリマヴェーラ様までいるのよ」


 セシルが睨む先には、そこにいるのが当然だと謂わんばかりのユリウスと、ユリウスに呼ばれて彼の隣にそっと寄り添うプリマヴェーラがいた。

 何だか異様に仲がよさそうに見える二人の関係にやきもきしながら、セシルがユリウスに尋ねる。


「いや、怪我をするかもしれないから、プリマヴェーラ様いるのはありがたいですけど、ユリウスがいる意味はなんなのよ!」

「簡単な話だ。僕が危険かどうかの見極めの最終判断を下すからだ」

「はぁ!? あんたに何の権限があってそんなことを言い出すのよ。そもそも、試練がどうとか言ってたけど、あれも本当の話なんでしょうね?」

「当たり前だ」

「全く、信用できないんだけど、その根拠はなんなのよ」

「根拠か……そうだな」


 ユリウスは鼻で笑うと、髪をかき上げて隠れている右目をセシルに見せる。


「――っ!?」


 右目周りに走った幾本もの怒張した筋を見て、セシルの顔が驚愕に染まる。


「な、何よそれ……ユリウス、それ、大丈夫なの?」

「問題ない。これは、僕が紋章兵器の力を使い過ぎたことによる反動だ」

「も、紋章兵器って……あんた、紋章兵器の使い手だったの!?」

「ああ、今まで黙っていて悪いと思うが、色々と事情があってね……」


 そう言うと、ユリウスは自分の紋章兵器、アイディールアイズについて……相手の脅威を見ることができる左目の力を使えば、ラファーガの力が暴走した時、セシルに迫る脅威を事前に回避することができるかもしれないと説明する。

 安全確保のためにこの場にいる。そう聞いたセシルは、


「そう、そういうことだったの」


 どこか納得いった様子で何度も頷く。


「そういえば、あの敵と戦った時も、ユリウスの声で救われたこともあったわね。あれも、その力で見たのね」

「そうだ。少なくとも、僕の力が本物であることは理解しているはずだ」

「……それはわかったけど、一つだけ教えて」

「何だ。言ってみろ」


 セシルは頷くと、ちらりとプリマヴェーラの方を一瞥する。


「ユリウスが紋章兵器の使用者であることを知っているのは、ファルコ様とプリマヴェーラ様だけなの?」

「後はヴィオラだな。つまりセシル、君は四人目ということになる」

「そう……」


 その答えを聞いたセシルはクスリと小さく笑うと、大袈裟に嘆息してみせる。


「わかったわ。そこまで言うのであれば私の勇士、たっぷり見せてあげるわ」


 そう言うと、セシルは上着を脱いで下着姿になると、ラファーガの柄に手を伸ばした。

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