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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
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使用者捜し

 それからユリウスは、ファルコの力も借りてどうにかプリマヴェーラを宥めると、話を本題へと戻し、今後の方針を決めて軍議は解散となった。



 軍議を終え、ユリウスはファルコのテントを出てその足でセシルたちに今後の方針を伝えた。


「……というわけだ。今後、我々はラパン王国の王都へと向かうことになった」

「そうね、この国を救うならそれが一番でしょうね」


 ユリウスからの報告を聞いたセシルは、拳を打ち鳴らして気合を入れ直す。


「昨日は消化不良だったけど、今度こそ私の活躍、見せてやるんだからね」

「そうか……」


 どうやら昨日から気持ちの切り替えは上手くできた様子のセシルを見て、ユリウスは胸を撫で下ろす。

 せっかく調子が戻ったならばと、軍議に出る前にセシルたちに指示しておいたことについて尋ねる。


「それで、アレは結局、決まったのか?」

「…………」

「…………」


 ユリウスの質問に、セシルたちの動きがピタリと止まる。


「…………どうした?」


 何かおかしなことでも言っただろうか? 押し黙るセシルたちを前に、ユリウスは頭を傾げる。

 セシルたちには、兵士長が使っていた紋章兵器マグナ・スレスト、ラファーガの次の使用者を決めておくように指示していた。

 紋章兵器は誰でも使えるという訳ではなく、兵器が使用者を選ぶという特性がある。

 それは適性なのか相性なのかはわからないが、せっかく手に入れた紋章兵器だ。このまま宝の持ち腐れにしておくのは余りにも勿体ない。

 剣に達者な者が使用者に選ばれればそれに越したことはないが、他の者でも戦力の増強には確実に繋がる。それ故に指示だったのだが……


「……まさかと思うが、何も決まっていないのか?」

「いや……」

「その…………ね?」


 セシルたちは顔を見合わせると、気まずそうに視線を逸らす。

 その曖昧模糊とした態度に、ユリウスは苛立ちを露わにする。


「ええい、ハッキリしないな。何があったんだ言ってみろ」

「……まあ、実際見た方が早いわ」


 セシルは小さくかぶりを振ってそう言うと、ユリウスに付いてくるように手招きしながら歩きはじめた。



 セシルに連れて来られたのは、一般兵士たちが寝泊まりしているテント群の一角で、炊き出しをするために空けられたスペースの一つだった。

 そこでは、屈強な男たちが地面に突き立てられたラファーガを前にして、困ったように唸っている。その奥では、シーツにくるまった男たちが何やら青い顔をしてブルブルと震えており、状況が飲み込めないユリウスは、困惑したように眉を顰める。


「……よし、次は俺が行くぞ」


 すると、一人の男性兵士が果敢にも前へ進み出ると、ラファーガの柄を握って引き抜く。

 深呼吸を一つした男性は、ラファーガを正眼に構えて大きく目を見開くと。


「はあああああああああああぁぁ……」


 気合の雄叫びを上げながらラファーガの力を解放しようとする。

 すると次の瞬間、緑色の風が強く吹いたかと思うと、男性の着ている服がバリバリと音を立てて切り裂かれ、男性は一糸纏わぬ姿へと変えられる。


「いやああああぁぁ、見ないで!」


 裸にされた男性がラファーガを放り出してその場に蹲ると、男性に仲間たちからシーツが投げられて素肌を隠してくれる。

 放り投げられたラファーガは、まるで意思を持っているかのように暫く中空に制止した後、くるりと刃を下にして回ると、再び地面に突き刺さる。


 こうなることがわかっていたセシルは、男性を見ないように手で隠しながらユリウスに説明する。


「というわけよ。あの武器を手にして力を使おうとすると、着ている衣服を全部剥がされるのよ。それでも我慢して持っていると、次は体中が傷つけられちゃうのよ」


 だから、誰もラファーガを手にすることができないでいるということだった。


「なるほどな」


 状況説明を聞いたユリウスは、手を伸ばして試しにラファーガの柄を握ってみる。

 すると、まだ地面から引き抜いてもいないのにラファーガから風が生み出され、ユリウスの手に無数の傷痕を作る。


「――っ!?」


 ユリウスは慌ててラファーガの柄から手を離すが、無数の切り傷がつくられた手からは、赤い血が滴り落ちていた。

 今までとは明らかに違う反応を見せたラファーガに、辺りはにわかに騒がしくなり、セシルが心配そうに声をかけてくる。


「ユ、ユリウス、大丈夫?」

「大丈夫だ。血は出ているが痛みはさほどではない」

「で、でも……今までそんな反応されることなんてなかったのにどうして……」


 ユリウスの手に止血を施しながらセシルはどうしてと首を捻る。


「…………」


 だが、その理由にユリウスは思い当たることがあった。

 それは自分が紋章兵器の保持者だからということだろう。

 兵器が使用者を選ぶのであれば、既に紋章兵器を持っている者に対して忌避間を抱くということは十分にあり得る。

 だが、それは同時に、使用者となるには、兵器に気に入られるような者でなければならないということだった。


「皆、聞いて欲しい」


 手に応急処置を受けたユリウスは、すっかり及び腰になっている兵士たちに向けて話しかける。


「見ての通りこいつは使用者を選ぶ性質を持っている。そして、使用者として選ばれるためには、越えなければならない試練があるようだ」


 故に、


「服を切り裂かれようが、体を傷付けられようが、耐えずに剣を握り続ける胆力が必要だ。もう既に試した者は再び選ばれることはないだろうから、次に掴む者は、多少辛くても耐えて欲しい」


 ついでに剣の実力にそれなりの自信のあるものが望ましいという旨をユリウスが告げると、この場にいる全員が顔を見合わせて押し黙ってしまう。


「…………ああ、ユリウス……その件だけどね」


 すると、既に試したのか、体にシーツを巻き付けたブレットが申し訳なさそうに話しかけてくる。


「実は、剣に自信がある者は、既に全員試したんだよ。それで今は、僕たち弓兵に声がかかって来たんだけど、ご覧の有様でさ……」

「…………本当か?」

「残念だけどね」

「……なんてことだ」


 申し訳なさそうに頷くブレットに、ユリウスは頭を抱えたくなった。

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