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グローリークレスト  作者: 柏木サトシ
100/169

かき乱される場

節目の第100部です。

特に何かあるという訳ではありませんが、これを機に再び気を入れ直して頑張りたいと思います。

 翌日、朝靄が立ち込める中、ミグラテール王国軍の重鎮たちは、総大将であるファルコのテントへと集まっていた。


 ざわざわと喧騒渦巻く中、全員の目は、二つの気になる事柄に集中していた。

 その内の一つは、これまで軍議に参加することは疎か、ファルコの前に姿を現すこと事態、珍しかったプリマヴェーラ。彼女はファルコの隣に用意された椅子で、ニコニコとした笑顔を貼り付けてことの成り行きを見守っている。


 そして、もう一つは……、


「ユリウス……」


 この場にいる者が誰もそれについて言及しないので、耐えかねたファルコがおそるおそる話しかける。


「昨日の今日で何かあったのかい?」


 そう言ってファルコが指差す先には、右目を隠すように前髪を下ろしているユリウスが憮然とした態度で立っていた。

 昨日までは普通に両目を出していたのに、今日になって片目を隠すように髪型を大きく変えてきたのだから、何かあったのか勘繰るのは仕方のないことかもしれなかった。

 話しかけられたユリウスは、左目をギロリと動かしてファルコを見据える。


「何か……とは何ですか?」

「いや、その……目、見づらくないかい?」

「問題ありません。これはちょっとした気分転換ですから、気にしないで下さい」

「そ、そう……わかったよ」


 ユリウスの迫力に、ファルコはこれ以上の追求はできないと踏んでおとなしく引き下がると、咳払いを一つして本題を切り出す。


「……さて、それじゃあ、軍議を始めようか」


 その言葉にテント内の喧騒は鳴りを潜め、全員がファルコへと注目する。

 ピンと張り詰めた空気の中、ファルコは大きく頷くと、先ずは昨日の戦闘について話し始める。


「皆、昨日はご苦労だった。我々の力は、ラパン王国に侵略してきたリーアン王国にも通用することがわかった。これからも戦闘は続くだろうけど、油断はせずに改めて気を引き締めよう」


 その言葉に、全員が一様に頷く。

 流石はファルコが選び抜いた精鋭だということだろうか。

 その顔は、昨日の勝利を喜びこそすれ、一切の気の緩みや慢心は見受けられなかった。

 ファルコも仲間たちの頼もしい顔ぶれに満足そうに頷きながら、再びユリウスへと向き直る。


「さて、ユリウス。いくつか聞きたいことがあるがいいかい?」

「はい、何でしょう?」

「この先の予定について聞きたいところだけど、その前に……」


 そう言ってファルコは自分の横に座るプリマヴェーラを指差す。


「どうして、プリムがこの場にいるんだ?」

「あら、ファルコ兄様。そんな言い方酷いですわ。わたくしはユリウス様に呼ばれてここに来たのですよ?」

「……ということみたいだが、どうしてプリムをここに呼んだんだ?」


 困惑した様子のファルコに、ユリウスは淡々と答える。


「簡単な話です。プリマヴェーラ様の紋章兵器マグナ・スレストの力は我が軍の貴重な戦力だからです。これから先、プリマヴェーラ様の協力なしでは、立ち行かなくなってしまうでしょう」

「だから、プリムも軍議に参加させるべきだと?」

「はい、我々の動きを知ってもらえれば、プリマヴェーラ様にも遊撃として速やかに回復を行ってもらえます。回復が上手く回れば、それだけで勝率も上がります」

「それはそうだが……それはつまり、プリムにも戦場に出ろということだよね?」

「何か問題でも?」


 ユリウスが何の躊躇いもなくそう言うと、テント内がにわかに騒がしくなる。


「問題って……あるに決まっているだろう!」

「一国の姫様を戦場に立たせるなんてどうかしている!」

「ファルコ様、そのような戯言に耳を貸す必要はありません!」


 ユリウスの提案に、次々と否定的な声が上がる。


「…………」


 部下たちの声を黙って聞いていたファルコは、この状況でも相変わらずニコニコと笑顔を絶やさないでいるプリマヴェーラへと話しかける。


「プリム……」

「はい、何でしょう?」

「君はどうしたい?」

「どう……とは?」

「ユリウスの提案だ。僕も正直なところ、プリムを戦場に出すのはどうかと思う。だが、プリムの力がなければ、いずれジリ貧になるのも確実だ。だから、君の覚悟を聞かせてくれ」

「それならば、言うまでもありませんわ」


 プリマヴェーラは鷹揚に頷くと、控えめな胸に手を当てて優雅に微笑んで見せる。


「この場にいる以上、わたくしもミグラテール王国の勝利のために戦う所存です。一国の姫だからといって、特別扱いされるなんてまっぴらごめんです。ましてや……」


 プリマヴェーラは否定的な発言をしていた連中に流し目を送ると、双眸を細めて白眼視する。


「この場でわたくしを侮る発言をされるのは、非常に心外ですわね」

「そ、そんなつもりは……その、申し訳ございません」


 プリマヴェーラに睨まれた男は、何度も頭を下げながら謝罪の言葉を口にする。

 顔面蒼白になっている頭を下げ続ける男に興味を失ったのか、プリマヴェーラは再び笑顔を浮かべると、この場にいる全員に聞こえるように宣言する。


「ということです。わたくしが戦場に出ることに関しては、何の問題もありません。ユリウス様の命令であれば、最前線にも出てみせますわ」


 そう言うと、プリマヴェーラはユリウスに向かってウインクしてみせる。

 だが、その宣言に流石のユリウスも困惑した顔になる。


「い、いえ、流石にそこまでは要求していないです」

「あら、そうですの?」

「はい。基本的には後方支援をお願いします。勿論、十分な護衛も用意します」

「あら、そうですの。せっかく戦場を思いっ切り走れると思って楽しみにしておりましたのに」


 そう言うと、プリマヴェーラは口元を押さえてコロコロと上品に笑う。


(……やれやれ)


 意外に活発的なプリマヴェーラに圧倒されている仲間たちを見て、ユリウスは密かに嘆息する。

 自分に協力的なのはありがたいが、どうも暴走しがちなところが別の意味で怖いと思う。


(いつか、その辺の線引きをしっかりと話しておく必要があるな)


 ユリウスはそう決意すると、プリマヴェーラの独壇場となっている軍議を元の姿に戻すことにする。

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