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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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93 Answer is near

2年間、更新できず申し訳ありませんでした。詳しくはあとがきに書きます。

 動いたのは同時だった。

 踏み込みはアスファルトを粉々に砕き、四方に石片を飛ばす。が、それが地面に落ちるよりも早く、二人の男は激突した。

 先に入ったのは、篠崎の拳だった。風を生み出す能力で加速し、風見よりも早く行動できたのだ。

 拳が顔面に直接突き刺さる。メキメキと身体中が悲鳴を上げるが、風見自身が悲鳴を上げる暇はない。すぐさま次の行動へ移らなければ、置いていかれる。

 風見は明滅する視界の中で必死に情報を集めた。


(右拳を振り切った姿勢、踏み込みが強すぎて足は動かない、腰を捻っている……)


 集められる情報をまとめ、反射的に身を後ろへ倒した。ちょうどその位置を、篠崎の左拳が通過する。


(当たりだ…!)


 追撃をするなら左拳しかないとの読みは的中。見事、風見は二撃目を回避した。

 身体を倒した勢いをそのままに足を持ち上げ、篠崎の顎を蹴飛ばす。これでお互い様だなと言うように、風見はニヤリと笑った。

 二人は、篠崎が初手で使った加速を除き、能力を使わずに拳を交えた。それが決め事であり、あるいは互いの矜持であるように。

 目の前の敵を己の拳でもって、完膚なきまでに叩き潰す。二人の目には、もはやそれしか映っていなかった。

 それができたのは二人にとって、互いがただの通過点でしかないからだった。

 風見の目的は御影奈央を救い出すこと。

 篠崎の目的は壁を破壊すること。

 目の前の敵を倒すことは目的ではなく、ただ道中に立ちふさがった壁を乗り越える程度のことだった。だからこそ、ある意味リラックスした状態で戦闘に臨むことができていたのだ。


「随分、吹っ切れたよーな顔してるじゃァねーか」


「そう見えるか」


 高速で展開する戦闘の中、ふとした隙間に篠崎はこうして会話を挟んでくる。風見の油断したところを突こうという風ではなく、ただ純粋に話したくなったから話したとでもいうように。


「死んだ女のこたァ、どーでも良くなったのかァ?」


「そりゃ違えな、そうじゃねえ」


 そう、違う。

 決して風見は、高坂がどうでも良くなったから復讐をやめたのではない。当然ながら、篠崎への思いだってまだ燻っているし、こうして相対したことで湧き出す怒りだってゼロじゃない。

 それでも、違う。

 風見は、決意したのだ。


「俺はさ、かっこつけることにしたんだ」


「……はァ?」


 あの世だったり、生まれ変わりだったり。

 天国だったり、地獄だったり。

 死後の世界なるものが存在するなら、そこに自分が行った時に、高坂と再会して、恥ずかしくないように。

 もしもまだ、心の中で風見のことを見守っているとしたら、これ以上心配させないように。

 これからは、格好つけることにした。


「多分さ、俺は難しく考えすぎてたんだよ」


「どーいうことだァ、そりゃ……」


 大切な人が殺されてしまった。

 自分よりも生きるべき人。自分よりも他人を思いやれる優しい人。

 残された自分が、そういう人に対してできることは何か。そうやって考えたこと自体が、そもそもの間違いだった。


「死んだ人間に対してできることなんか、ない」


 そのことをわかっているつもりで、わかっていなかった。何もできないのに、何かをしようとした。



「俺がやるべきことは、死んだ後、そいつと再会した時に謝ることができる人間になることだった」



 そうして、風見は己の答えを導いた。

 たどり着いたのは、結局、ヒーローを目指すことだった。元の道に戻って、先に進むことだった。

 彼女がそんな自分を好きになってくれたから。

 そんな自分を好きだと言ってくれたから。

 だからせめて、次に彼女に出会う時まで、彼女が好きになってくれた自分で在ろうと思った。


「――お前は、どうなんだ」


 ゆえに風見は、踏み込む。

 篠崎の元まで、躊躇うことなく。

 胸ぐらを掴み上げ、怒鳴った。


「今のお前は、大切な誰かと再会した時に謝れるような人間なのか!?」


 言葉は届かない。それは風見もわかっている。風見が何を言おうと、その一つ一つに篠崎の復讐心を晴らす力はない。


「テメー、俺のことを……。チッ、竹山かァ……」


 だけど言葉は、篠崎に考えさせることができる。篠崎が自身の答えを見つける手伝いができる。


「うる、せェんだよ……」


 篠崎は風見の事情を知っている話ぶりに一瞬驚いたように見えたが、誰に聞いたかを想像して忌々しそうに目を細める。しかしそれに続く言葉はない。続けるべき言葉が浮かばないのだろう。

 自分の行動が正しいのかどうか、迷ったことは風見にもある。矢野の言葉を受けた時は、特に迷った。今の篠崎は、そんな風見と同じだ。

 言葉を投げつけられ、動揺している。


「テメーとは、違ェんだよ……!」


「同じだ、奪われた」


「違ェよ! 重さが!!」


「同じだ! 大切なのは変わらない!!」


 互いに声を張り上げ、主張をぶつけ合う。睨み合い、己こそが正しいのだと声高に叫ぶ。


「本当に大切なら、たかだか一日寝たくらいで吹っ切れるわけねーだろォが!」


「本当に大切だから、あいつが望む俺になろうと思ったんだよ!」


 ここまで、風見は色々な人たちの言葉を受けてきた。矢野里美、高月快斗、御影奈央、高坂流花。彼らの言葉は風見に、復讐が間違いであることを気づかせた。

 風見晴人に、答えを出させた。

 だから今度は、風見の番。

 風見が、間違いだと気づかせる番だ。


「答えを出せ!」


「答えだァ? んなもんとっくに出てんだよォ!」


「違う、お前は逃げてるだけだ!」


「逃げてる、だとォ…?」


 風見の言葉に篠崎は眉を吊り上げる。そうだ、彼には逃げているだけだという自覚がない。風見もそうだった。

 結局風見も篠崎も、大切な人を失ってしまった虚無感に耐えきれず、復讐という形で逃げただけなのだ。


「どうしようもなくムカついた時、物に当たりたくなることがあるだろ?」


「…………」


「復讐ってのは、それと同じだ。ただ、怒りのはけ口がそれだっただけなんだよ」


「それが、『逃げ』だって……テメーは言うのか……!?」


「そうだ」


 復讐に正しさなどない。

 復讐とは、怒りをぶつける行為に過ぎない。それは無意味であり、ただ虚しい。

 例えば、親を殺された子どもが犯人に復讐するのは悪だと言えるか。言えるとも、それは憤りをぶつけただけだ。

 例えば、妻を殺された夫が犯人に復讐するのは悪だと言えるか。言えるとも、どんな理由があっても、他者に殺意を抱くことが正しいはずがない。

 大切な人を奪われて、奪った人間がのうのうと生きているのが許せなかったとしても、その感情に従っては奪った人間と何も変わらないのだ。

 胸糞悪くても。

 後味が悪くても。

 誰も報われなくても。

 最低最悪だったとしても。

 自分がその人と再会した時に、笑って再会できる人間でないとダメだ。そんなこともあったねと、これからはずっと一緒だねと言えるような人間のままでいないとダメだ。

 大切な人間を奪ったような人間と同じところに堕ちることだけは、ダメだ。


「答えは、近くにある」


「だから、とっくに出てんだよ!」


「そう言いながらも、迷ってんじゃねえのか?」


「――クソが」


 篠崎は目をそらす。矢野の、高月の、御影の、高坂の言葉を受けた風見と同じように。

 その問いは、図星だったのだ。


「クソッタレな戯言はァ、もー聞き飽きたわァ……」


 だから雑音に耳を塞いだ風見と同じように。

 篠崎も、風見の言葉を跳ね除ける。


「――ぶっ潰す」


 そうして、彼らの決め事は破られる。

 爆風が風見を篠崎から引き剥がした。そのまま一直線に吹き飛ばされ、近くの電柱にぶつかる。

 これまでは無能力同士の戦いだった。

 それは、互いが互いを立ちふさがった壁としか見ていなかったからだ。

 だが、これより先は違う。


「テメーを潰して、俺の正しさを証明してやる」


 これより先は、戦闘ですらない。

 ただの潰し合いだ。

 風見は咳込みながらも、篠崎を説得できなかったことに歯噛みする。元々説教は得意ではない。怒らせることをわかっていてやったことだから、後悔もしていない。

 だが、ここから篠崎に勝つ手段はなかった。


「……!」


 そこで視界の隅に寝そべる高月が、必死に立ち上がろうとしているのを見た。

 身体中が痛むだろうに、両足に力を込めて、剣を杖代わりに立とうとしている。

 それを見て風見は思い出した。

 風見晴人が、一人ではなかったことを。


「…………」


 風見は透明化を使い、篠崎が風見を見失った一瞬に高月の元へ移動した。

 突然現れた風見に戸惑う高月を置いて、風見は小さな声で言う。


「おい、立てるか」


「……ああ、僕はまだやれるよ」


「なら協力してくれ、一人じゃあんなの倒せねえ」


 風見が提案すると、高月は軽く笑った。何が面白いのかわからず、今度は風見が戸惑った。

 やがて高月は安心したように微笑んで、口を開いた。



「おかえり、――サニーマン」



 風見はその言葉に少しだけ目を開く。

 高月が十年も昔のことを覚えていたことに驚いたのだ。


「……んな、昔のこと……よく覚えてんな」


「僕が追いかけたヒーローだからね」


「恥ずかしいからやめろ」


 照れ臭くて目をそらす。

 風見は篠崎の方に向き直って、彼がこちらを見つけたことに気づいた。長くは話せない。高月の調子を見つつ、篠崎を打倒する作戦を練りたいところだが。


「決め台詞は、言わないのかい?」


 煽るように、高月の声が背にかかった。

 言わないという手もあったが、それはそれで高月に負けたような気がして嫌だったため、風見は羞恥心を殺した。一度息を吸い込んで、宣言するように言ってのける。



「太陽の光を、届けに来たぜ」



 そして今、彼らの戦いは本格的に幕を開けた――。

お久しぶりです。青海原です。

2年前、風見晴人が篠崎響也と再会し、第三章のラスボス戦へと突入したところまで書いたところで更新がストップしていました。

ここまで応援してくれていた読者の皆様を待たせ、不快にさせたことは大変申し訳なく思っております。


ではなぜ2年も続きを書くことができなかったのかと言いますと、それは書き手である僕の技術不足になります。

当時、僕は篠崎響也との戦いを書き終えてから投稿しようと考えておりました。これは1番盛り上げたいシーンなので、しっかりと推敲も重ねて上げようという判断です。

しかし何度戦いを書き連ねても、どうしても納得する出来栄えになりませんでした。風見晴人をかっこよく書けず、篠崎響也をラスボスらしく書けず、僕自身が満足する第三章最終決戦が仕上がりませんでした。

そうこうしているうちにスランプと言えるほどに文章が書けなくなってしまい、今に至ります。


もはや拙作を応援してくれる方などいないかと思います。ただせっかく書いたのだから、という作者の身勝手な気持ちで、当時納得できなくて投稿できずにいた部分を数話、1日ずつ投稿しようと思います。

2年前に書いた文章なので、文章も話も稚拙だと思いますが、どうか気が向かれましたら読んで、鼻で笑ってやってください。


今まで本当に申し訳ありませんでした。

そして応援してくれた読者の皆様、ありがとうございました。

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