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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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85 無力感

 その男は、やはり『屍の牙』を率いているだけあった。

 熊田の感想としては、強いの一言だ。

 まだ山城や笹野に比べて戦闘経験の浅い熊田たちは、確実に篠崎には届かない。

 熊田、笹野、佐藤、宮里、矢野のメンバーで篠崎に挑んでいるわけだが、正直勝てるビジョンが見えない。

 そもそも無能力である佐藤と、付近のゾンビを探す能力である宮里は戦えないのだ。

 だから実質三人で相手しなければならないが、その内の矢野も性格的に戦闘には向いていない。

 つまりは、二対一。篠崎という大物を相手にこの戦力では、どう考えても足らない。


「こんなんじゃ、時間稼ぎすらロクにできねぇよ!」


 だのに山城はその仕事をこのメンバーに押し付けた。それは果たして信頼なのか、なにか策があるのか。


「まぁあいつなら、なにか考えがあるって方が『らしい』な」


 そうこぼして、熊田は立ち上がった。


「熊田くん、大丈夫ですか!?」


 熊田を笹野が心配して、戦いながらも声を上げる。手を振って無事を示し、戦闘に割り込めるタイミングを狙った。

 笹野はナイフなどを宙に浮かせて操ることで篠崎を翻弄している。これは笹野の能力で動かしているために、篠崎が風を生み出そうが影響を受けない。

 そのため、篠崎はナイフを避けるしかなかった。


「チィ、うぜーな! クソが!」


 篠崎は苛立ったのか、能力を『迅雷』に切り替え、雷で笹野を狙う。轟音と同時に閃光が笹野を包んだが、肉の焼ける匂いは笹野からはしなかった。

 篠崎と笹野との間に、割り込んだ影があったのだ。

 それは――。


「――ゾンビ、だとォ……!?」


 笹野の能力の本質を目の当たりにして、篠崎が驚嘆する。それはそうだ。意識のないゾンビは、自らの『食欲』に任せて人を襲う。それは襲う相手がゾンビであってさえ例外ではない。

 つまりは、意識のないゾンビが何かを守ろうとすることなど、ありえない。


「ありえねー、はずだァ……!」


「例外というものは、何にでも存在するものですよ?」


「黙ってろババア!」


「私はまだ二十七です!!」


 ババアの言葉に笹野は激昂する。そのせいか、緻密だったナイフの操作にわずかに乱れが生まれた。

 その一瞬を隙と見た篠崎が、一気に距離を詰める。


「まずは一人だなァ!!」


 速度に笹野の反応が一瞬遅れた。既に篠崎は拳を握り、殴りかかっていた。

 反射的に両腕が頭を守ろうと動いたが、篠崎の拳は帯電していたため、無意味だった。

 電気をまとった拳は、笹野を焼いた。


「かっ、あぐはっ……!?」


 一瞬にして全身に広がる痺れと衝撃。熱は遅れてやってきた。だが、痛みにもがこうとしても身体が言うことを聞かない。

 笹野は硬直したままなす術なく地面に倒れ伏した。


「意識が残ってやがんなァ。念のために、眠っててーもらうぜェ」


 篠崎は、形容できない痛みに激しい吐息を漏らす笹野の首元に触れて、追い打ちのように電気を流す。

 笹野は一瞬びくんと身体を揺らしたが、その後は意識を失ってしまったようだった。

 現状最も強いと言える仲間がダウンした。その状況がどれだけ危機的状況であるかは、さすがの熊田も理解していた。


(まずいな……)


 熊田のみでは篠崎という強敵には太刀打ちできない。それができるだけの能力がない。

 そしてそれは他のメンバーにも言える。熊田たちは、まだ経験が浅すぎるのだ。

 その事実は、すぐに露呈した。


「次、テメーだぞ」


「くっ!?」


 熊田たちの態勢が崩れたのを好機と見た篠崎が次に狙ったのは、熊田だった。転がることで笹野と同じ状態にされることは回避したが、打開策は全く浮かばない。

 跳ねるように立ち上がると、篠崎の拳に注意しながら立ち回る。それくらいしかできることがなかった。


「ちっく、しょう……!!」


 考えようにも、熊田の戦闘経験では大した策など思いつくわけもない。おまけに先ほどの笹野への攻撃から、無意識に篠崎の拳を警戒するようになった。

 そのせいで、反撃できるタイミングすら逃してしまう。


(どうしたらいい、どうしたらいい……っ!!)


 どうしようもなかった。

 熊田の能力は、触れたものを砕く、あるいは細切れにする能力。戦闘には使えないどころか、日常ですら使いどころがない。

 この能力の弱さに山城も風見晴人も呆れた反応を見せていたが、誰よりも熊田自身が一番この能力に呆れていたのだ。

 わかってはいた。自分が外れを引いたことくらいは。

 だからこそ能力を使わない戦闘をできるように、共食いだって重ねた。そのはずだ。

 結果はついてこなかった。

 立ちふさがった壁は大きすぎた。


「まー、雑魚の寄せ集めの割りによく頑張ったよ。これで二人目、だなァ」


 とうとう疲れて、足がもつれた。そこを当然のように篠崎は突いてくる。

 そして、熊田はあっけなく殴り倒された。電撃を伴っていたために、もう起き上がれない。

 視線の先には、宮里柑奈。

 幼馴染の少女だった。

 彼女だけは、無事でいてほしかった――。


「三人目は、誰が良い? テメーらで話し合えや」


 笹野に続き熊田までもが倒れたせいか、矢野も佐藤も戸惑っているようだ。そんな彼らに、なんて残酷なことをするんだと熊田は思った。

 そんなことを迫ったら、彼女は自身を犠牲にするに決まっている。


「私が、三人目で構いません」


 熊田の予想通り、宮里は前へ出た。

 熊田の方を一瞬だけ見たその視線は、こんな形でしか協力できなくてごめんね、と謝っているようにも見えた。

 自身の無力感に押しつぶされそうだった。


(誰か、誰でもいい……っ! あいつは、あいつだけは傷つけたくないんだ……っ!!)


 痺れる身体を無理やり動かそうとするが、まともに動かなくて、涙が溢れそうになって。


(誰でもいいから、助けてくれ――)


 篠崎の魔の手が、宮里に近づく。

 宮里は来るだろう衝撃に備えて、瞳を閉じた。

 しかし訪れたのは衝撃ではなく浮遊感だった。

 ふわりと誰かに抱きかかえられ、どこかへ移動する感じ。

 ゆっくりと瞳を開く。

 そこには――。



「――大丈夫かい?」



 とても優しそうな瞳をした少年がいた。少年は、少女に名乗る。


「僕は高月快斗。君は、君たちは確か……山城天音の仲間、だったよね?」


「は、はい……」


 高月の優しい声に答えながら、宮里は下された。


「そうか、どうやら彼とは目的が同じだったと見ていいらしい」


 宮里や熊田には意味がよくわからなかったが、高月は呟いた。それは篠崎も同じ。気軽な調子で、篠崎は尋ねる。


「どーいうこった」


「山城の目的だよ。僕と同じだった、それだけのことさ」


「つまりは、俺にとっちゃ新手か」


「そういうことになる。ナオは、返してもらうよ」


 その言葉に篠崎ははっとなった。そういえばこの少年の服装は、『壁』の連中のものだ。高月は、『壁』側の人間と見ていい。

 ということは、先に行かせた彼らは。


「――――」


 何もかも、『壁』の連中に奪われた。

 大切な仲間も、大好きな祖母も、篠崎の全ては『壁』に奪われた。

 その上で生き残ってくれた仲間たちすら、奪うというのか。

 それは確かに、覚悟はしていた。彼らが命を落としてしまう事態になってしまうことがあることくらい、わかってはいた。

 だけど、それと納得できるかとは異なった。


「そーか、テメーはどォやら俺を怒らせたらしーぞ」


 低い声は、震えていた。

 ビリビリと空気の震えるような錯覚に、熊田も宮里も、矢野も恐怖する。

 しかし高月は驚くほど冷静に、だが確実な怒気を乗せて答えた。


「安心してくれ、それは僕もさ」


 となりの舵医院の中で轟音が響いた。

 それが二人の、戦闘を始める合図となった。

またもや投稿遅れてしまって申し訳ないです。今月は少しリアルの方が忙しいために執筆の時間がとれず、こんなことになってしまっています。すいません。


永井パートも、山城パートも、今回から始まるはずの高月パートもなんかいい感じな展開になってますけど、次話から風見晴人パートやります。笑

ええ、やります。笑

なんでって? 早く書きたいからですよ!!

というわけで、次回の更新をお楽しみにしていてください!

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