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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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62 戦闘開始は唐突に

 それが異常事態なのだと理解するのに、少々の時間を要した。それだけ壁の中の生活に安心しきっていた。

 赤いランプがしきりに明滅していて、避難指示がアナウンスされている。その光景が、ひどく現実離れしたものに思えた。

 真っ白な頭の中に浮かんでくるのは、「なぜ?」という疑問。戦闘訓練をしていたはずだったのに、なにがどうしてこんなことになっているのか。自問しても答えは出なかった。


「近くに強力なゾンビ反応が探知されました。避難住民は、直ちにシェルターへ避難して下さい」


 アナウンスが言う。


「おいおい嘘だろ……。こんなに大量の反応、かたっぱしから当たってったって間に合わねえぞ!」


 四条も焦っていて、出撃準備ができている第二部隊の面々にも指示が下りない。

 それだけ敵の反応は大量だった。


「クソ、春馬! 部隊を分けるぞ!」


「了解、俺が名前を呼んだやつはA地点に向けて出撃しろ! 他のやつは四条さんと共にC地点に向けて出撃!」


「「了解!」」


 四条と春馬は息を合わせ、名前を呼ぶ。高月の名前はどうやら呼ばれないようだ。


(――その場合は、四条さんとC地点へ!)


 なにも考えようとしない頭を無理やり動かして思考する。そうだ、名前を呼ばれない者は四条とC地点へ行くのだ。

 昨日渡された武器を手にとって、戦闘服を着た高月は出撃した。




 それは突然だった。

 訓練の途中に、突然避難指示が出たかと思ったら四条と春馬に指示が下りた。

 第二部隊の部隊員の総数は意外と少なく、百ないし八十くらいといったところだ。

 対する敵の数は、およそ千。

 そしてこれは自我を持つゾンビの数の話だ。彼らが連れてきた通常のゾンビの数も含めればその数はおそらく万に届くだろう。

 それを、たった八十の戦力で相手するなどどう考えても不可能だ。

 そこで今回は、第三部隊も出る。

 第三部隊は百二十いる。足して二百人の戦力となる。

 それでも万を相手にするには遠く及ばない。

 そこで、新政府は苦渋の策を下す。

 切り札を切ったのだ。

 第一部隊の戦力の一部を投下した。

 これによって、互いの戦力差は大きく縮まる。味方部隊の士気も上がった。

 ここまでの情報を高月は走りながら無線で聞いた。


(と言っても、一人あたり自我のあるやつを二、三体くらいは倒さないとダメみたいだな)


 考えながら走っていると、前方を走っていた部隊員が足を止めていた。


「どうしたんですか、早くC地点に――」


「あれ、なんだ……?」


「……え?」


 先輩である部隊員は、空を見上げて愕然とし、足を止めている。指差す方を高月も見上げてみた。

 そして、絶望した。


「なん、ですか……あれ……」


 視線の先には。

 あまりにも大きすぎる、亀がいた。

 現代知られている大きい亀は、ほとんどが二、三メートル以内のものだろう。全長四メートルのアーケロンなんていう怪物ウミガメがいた時代もあっただとか聞いたことがある。

 だが、目の前のあれは。

 それらと比べるにはおこがましいくらいに、スケールが違いすぎた。

 形はただのリクガメ。甲羅があり、甲羅には手足や首、尻尾を出すための穴があり、手足は垂直に地面へ下りている。

 だが足の大きさが、一本につき都庁のビルほどもある。その上にゴツゴツとした甲羅がくっついているため、一番高い箇所は雲にも届いているのではないだろうか。

 距離は離れている。……が、それでも近すぎた。

 巨大すぎる亀が、その口を開く。


「……伏せろ新入り!」


 先輩の声と同時に、亀の口から発射された光線が見渡せる一帯を薙いだ。

 高月たちが走っていた町並みは、その全てが、一瞬にして灰に変わった。





※※※





 一方の永井は、汎用型のパワードスーツでA地点に来ていた。A地点は壁の北側だ。そこを目指しているゾンビがいるらしい。

 集められているのは第二部隊の半数と第三部隊。それから倒れた者を次々に治療していくための医療部隊。医療部隊は壁沿いにいるため、怪我をしたらそこまで走らなければならないというのが永井としては大変な気がした。

 おそらく今、秋瀬や御影も集められた医療部隊の中にいるのだろう。


(ここは死守しねぇとな……)


 考えていると、前方にわらわらとゾンビが見え始めた。あれは、通常のゾンビだ。


「いくぞ、手当たり次第に撃破していけ!」


「「了解!」」


 春馬の指示で、第二、第三の合同部隊は動き出した。

 永井も今朝動かしてみたばかりの機体を走らせ、後に続こうとした。

 直後。


「第三部隊、直ちにシェルターモードに切り替えろ!」


 無線で届いた前島の声に永井は戸惑う。

 シェルターモードとは、パワードスーツの全機能、全エネルギーを防御の一点に回すモードだ。非常事態にしか使われないと今朝教えてもらった。


(なんでそれを……?)


 考える必要はなかった。

 前島が同時に画像データを送信してきたのだ。パワードスーツの画面右下に表示された画像を見て、察する。


(亀……?)


 この巨大すぎる亀が、動くのだろうと。

 そうして永井がシェルターモードへと切り替えた直後。



 ――真っ赤な閃光が、視界を焼いた。



「うわああああああああ!?」


 シェルターモードにしているのに吹き飛ばされ、しかしモードを解除するわけにもいかず、受身も取れないまま機体が吹き飛ばされる。衝撃に一瞬だけ意識が飛んだ。

 トラックにぶつかったなどとは比にならない衝撃に、なす術はなかった。

 やがて、全機能を防御に回したはずの機体が数百メートルと飛ばされた後に永井が立ち上がると。


「……地平線?」


 日本の、東京から地平線が見えた。


「嘘だろ……。詩穂、ナオ!?」


 彼女らは外にいた。光に当たっていたら無事では済まないだろう。無線を飛ばすが連絡は繋がらない。


「クソッ! 誰か生きてないのか!?」


「落ち着け永井! 今確認中だ!」


 取り乱した永井も前島の声でハッと我に返る。深呼吸をし、落ち着くと、とりあえず前島の指示を待った。


「……まずいな」


 やがて前島がポツリとこぼす。


「やはり皆、パワードスーツの操作に慣れていない。汎用型の者は大体連絡がついたが、操作の難しい機体に乗っていた者は連絡が取れない。シェルターモードへの切り替えが遅れたか……?」


 パワードスーツに乗っていて、この有様。ということは、生身で受けることになった第二部隊の面々はどうなったのだ。

 そこで雑音混じりの無線が飛んでくる。


「……がふっ」


「春馬か!?」


「……あぁ、前島さん。俺も何とか生き残った」


 そう言う春馬の声は辛そうではあるが、動けそうだった。

 春馬が助かったということは、第二部隊の面々は無事なのだろうか。


「第二部隊は、こっちに来たやつらは全員が無事だ。どうやらさっきの光線、見かけがデカけりゃデカイほど効果が出るような仕様らしい。チビな人間様には効かないみてえだ」


 「だからビルとか吹っ飛んだのかもな」と春馬は笑う。なるほど、能力か何かだろうか。それともそうなるように亀が狙ったのだろうか。

 考えても仕方がない。

 とりあえず、第二部隊が無事なら、もしも能力持ちのゾンビと戦闘になっても大丈夫だ。

 パワードスーツには能力がない。だから能力を持つゾンビには弱いのだ。

 第二部隊に死んでもらっては困る。


「とりあえず、俺の現在地を確認しないと……」


 そう思って周辺のマップ情報を見てみて、固まった。


「嘘だろぉ……」


 永井は先ほど、光線によって飛ばされたが、方向が最悪だった。

 そこはちょうど、ゾンビの反応があった場所だ。

 永井はおそるおそる振り返ってみた。





「よー、お互いつれェな。変な光のせいでこーんなとこまで飛ばされちまってよォ」





 そこには、不敵に笑う金髪の男がいた。

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