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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第三章『東京防衛戦』
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53 互いの切り札

 風見晴人は喜ぶでもなく怒るでもなく哀しむでもなく楽しむでもなく、ただ悟った。

 ――こいつらは殺さないとダメだ、と。

 もう口を開かない中橋を寝かすと、風見は男を睨んだ。


「お? なんだ、ヤるのか?」


「ああ」


 中橋を殺した男は、問いに肯定した風見に対し笑みを浮かべる。それを見て風見は察した。この男は戦闘狂だ。狂っている。やはりここで、殺すべきだと。

 男に向けて足を進めながら、風見は名乗る。


「俺は風見晴人。アンタらとは違って組織的なのには所属してねえ」


 男は風見の自己紹介に興味なさそうに「ふーん」と返したが、自らも名乗った。


「俺は白崎剛。屍の牙って組織に所属してる男だ」


 男――白崎が『屍の牙』とやらに所属しているということは、『屍の牙』のボスが金髪ということだろう。もっと白崎から情報を得たいところだが、相手はかなりの強者に見える。加減などしていたらこちらがやられてしまうだろう。

 一気に勝負を決めるべきだ。

 そう思い、踏み込む。


 ――瞬間。目の前に白崎がいた。


「――なっ!?」


「遅っせぇぞ」


 拳が風見の顔面に突き刺さり、来た道を戻るように吹き飛ぶ。


「が……ばっ!?」


「速度が足りてねぇ」


 美術室の机を粉砕しながら宙を舞う風見に、一度の跳躍で追いついた白崎は追い打ちをかけた。

 白崎は右足を回し踵で風見を蹴る。

 今度は、美術室から廊下へと吹き飛んだ。

 これで、一撃で来た道を戻り二撃目でさらにそれを戻ったことになる。


「ごっ……は……っ!!」


 飛ばされながらも空中で体勢を立て直し、後ろを睨む。白崎は一瞬でこちらへ来ていた。だがその動きが見えないわけではない。

 白崎の動きだけは、風見でも見ることができた。


「く、そぉ!」


 目を凝らし、白崎が右足を動かす動作を見た風見は反射的に左腕で頭を庇う。おかげで、三撃目は防いだ。白崎は軽く目を見開く。


「お? いいねぇ、その調子で付いて来いよ」


「く、そがああああっ!!」


 白崎は両腕を使い怒涛の連打を浴びせる。風見はほぼ条件反射でそれらをいなすものの、反撃はできずジリジリと体力を削られていた。

 速い。

 一撃の重さは風見ほどない。だがそれを上回るほどに、速い。

 風見はすでに、この速さに翻弄されていた。


(どうする……? このままじゃこいつのゴリ押し攻撃にいつかやられるぞ……!)


 風見は着地した瞬間膝を曲げてしゃがむと、同じく着地した白崎の足を狙い足を回す。


「お?」


 足払いされた白崎は体勢を崩した。こうなればこちらのものだ。

 一撃の重さは風見の方が勝る。であれば、一度体勢を崩すことさえできれば風見のターンだ。


「――とでも思ったかぁ?」


「…………ッ!?」


 ニヤリと、崩れ落ちる白崎が笑った。そこから先は、何が起こったのか理解できなかった。

 風見が体勢を崩した白崎を狙い拳を出した瞬間、その腕を白崎が掴んだかと思うと、ぐねりと身体を捻り白崎が風見の腕を利用し回転。全力で出した拳が受け流され、まるで空振った時のように頭が真っ白になった風見は白崎の攻撃に対し反応が遅れた。

 そのままは風見は蹴飛ばされ、隣の壁を突き破り教室へと飛ばされた。


(意味、わかんねえ……ッ! 何なんだアイツ……!)


 白崎は戦闘に慣れている。慣れすぎている。ゾンビ出現以前から喧嘩でもしていたのだろうか、戦闘経験に差がありすぎて風見では歯が立たない。

 先手を打とうとしても後手に回され、反撃を狙っても受け流される。風見は白崎に傷一つ付けられないまま、ボロボロにされていく。

 そもそも相性が悪すぎるのだ。

 金髪のように能力が強いだけで本体の実力は大したことがないというパターンの敵ならば、風見でも太刀打ちできる。だが純粋な格闘能力で勝てない敵が風見の前に現れたなら。

 風見は、勝つことができない。

 その手段が風見には――。


(――いや)


 何もないように見えて、風見にはまだ切り札がある。そもそもの手札が少なすぎて、切るには早すぎるカードではあるが、この際仕方がない。

 出し惜しみをしていては金髪を倒すどころか、再戦することもなくここで死ぬことになる。

 超える。

 まずは目先の敵を、超えてみせる。


「よぉ、どうしたぁ? 怖気づいたかぁ?」


「そんなんじゃねえよ。ああ、クソ。ホントに手札ねえな俺は」


「あぁ?」


「こんなに早く、切り札を切ることになるとは思わなかったよ」


「――な」


 風見が言い終えると、その時にはもうすでにそこに風見の姿はなかった。まるで、最初からどこにもいなかったかのように消えていた。

 世界に何の違和感も残さず、いつ消えたのか、どこに消えたのかも知らせぬまま、足音すら立てずに。


(どこに消えた……!? 今、直前までそこで会話をしてたハズだろぉが!! 一体、どうなって――)


「――こっちだ」


 声は突然白崎の耳元で聞こえた。

 慌てて振り返った白崎の顔面に突き刺さったのは、拳。

 風見晴人の拳だった。


「が、はっ……!?」


 白崎は先ほどの風見と同じくように教室の壁をぶち破り、隣の教室へと吹き飛ぶ。

 痛みを堪え白崎が顔を上げると、丁度空いた穴から風見が入ってくるところだった。


「どうだ、俺の切り札は?」


「畜生、瞬間移動か……? 厄介だなぁオイ」


 その推測に風見は答えない。答えはしないが。


(ハズレだ)


 心の中では否定した。

 風見の能力は透明化だ。先ほどのは透明化し、一瞬で白崎の後ろに回っただけにすぎない。

 攻撃するときには実体化しなければならないし、瞬間移動と異なりわざわざ自分で動かなければならないため風見的には嬉しくない能力だが、初見殺しにはもってこいだ。

 風見が推測する山城天音の能力の下位互換のようなものだ。

 ――と、風見は自身の能力を推測していた。


「こりゃ、こっちも切り札切るべきかもなぁ」


 白崎がニヤリと笑いながらそう言った。その言葉に風見は身構えるが、続く衝撃はない。

 白崎は、立ち上がっただけだった。


「さぁて、かかってこい」


 白崎はそう言って手を広げた。その謎行動に風見は警戒するが、攻撃しない限り相手の能力は分からないだろう。

 風見と同じく出し惜しみしていたことから触れたら即死のような能力ではないと信じたいが、白崎は戦闘狂だ。どんな強力な能力だって使うべき時までは出し惜しみしそうである。

 考え出したらキリがない。まずは一撃、それで様子を見れば良い。それだけのことだ。

 自分に言い聞かせ、風見は能力を発動し、透明化した。

 次に風見が実体化したのは、白崎の右横。そしてその横っ面をぶん殴ってやろうと拳を振るう。

 だが。


「……は、ぁ?」


 ゴンッ! という音は風見の耳にも聞こえたものの、当の白崎は微動だにしない。まるで、風見の拳と白崎の顔面との間に『鉄壁』でも現れたかのように、風見の拳は届かない。


「いや、まさかそれがお前の――」


「――正解だ」


 ガシッと腕を掴まれる。そして拳が、返される。

 風見は廊下を挟んで向かい側の教室に吹き飛ばされた。





※※※





 無理だ。

 こんなのは無理だ。

 差がありすぎる。ああ言えばこう言うように、手札を切ればそれを上回るカードが返される。

 なす術がない。

 もう切れる手札もない。

 どうしろって言うんだ。どう戦えって言うんだ。

 風見は倒れ伏したまま、そう心の中で考え続けた。

 そうしている間に、視界が暗くなる。意識が落ちようとしているのだろうか、身体も思うように動かない。このまま、風見は白崎に殺されるのだろうか。

 金髪を殺せぬまま。高坂の無念を晴らせぬまま。

 ザザ。

 そんな時、耳元でまた雑音が聞こえた。


(こんな時まで出てくるなよ……)


 遠のき始めた意識で、風見はそれだけ考えた。また風見に訴えかけるような雑音が続くのだろう。

 もう聞き飽きている。うんざりだ。

 そう思った風見だったが、雑音は風見の知る雑音とは若干異なった。

 というか、普段聞く雑音に割り込むように、別の雑音が入ってきたのだ。


(……あ? どうなって……)


 気づくと風見は、視界が真っ暗になっていながら意識は落ちていないことに気づいた。つまりは、真っ暗な空間に来たのだろうか。しかし、どうやって。

 そして唐突な展開に驚く風見の前に、その少女は現れた。

 まるでそれが必然であるかのように。


「君は……?」


 少女が誰であるのか、風見は知らなかった。


(誰だ? 容姿は誰かに似ている気がする。けど、まだ小さいな。似ているというよりは面影があるって感じか……)


 少女は小学生くらいで、髪は真っ黒だった。風見が今立つその場所の漆黒よりも、一際黒く見えた。

 影がかかっていて顔は見えない。だから、風見が似ているといったのは感覚的なものだ。雰囲気というか、なんとなくそう感じた、という感覚だ。

 ただ少女が笑っていることだけは分かる。

 何が嬉しいのか、何が喜ばしいのか、少女は風見の知る誰よりも嬉しそうに笑っている。そしてそのまま、倒れる風見の元まで歩いてくる。


「君、は」


 同じ問いを繰り返そうとして。

 屈み込んだ少女が、手を出したことで風見の言葉は止まる。少女の手はそのまま風見の頬へと伸び、優しく触れた。

 少し暖かくて、だけれど冷たさもあって、不思議な手のひらだった。



 ――少女は言う。





「力が、ほしいの?」

少女って書いてるから全然何ということもないけど、実際少女っていうか幼女って感じだからラストは完全に事案。


更新遅れてすみません。

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