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終業式の日に世界が終了したんだが  作者: 青海 原
第四章『壁内紛争』
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107 新政府という集団

 高月快斗は『神』が現れ、『神殺し』の風見晴人によって沈められた跡地に来ていた。神の残骸の調査が高月、浜野、春馬で構成された第二特殊小隊『アサシン』に課せられた特務だったのだ。


「つっても、調査任務に充てる人員が間違ってる気がすんだよなー」


「そう言うな浜野、勝手な行動の多い僕らは壁からすれば問題児だ。春馬さんに監視してもらいたいんだろう」


「勝手って言われてもよー、俺たちが御影奈央を助けに行ったおかげもあって神は防げたようなもんじゃんか!」


「だからお咎めなしだったじゃないか。本来なら牢に閉じ込められてたかもしれなかったよ」


 高月と浜野は一週間前の戦いにおいて多々行った身勝手な行動を追求された。結局は壁を統括する少年のひと声によってお咎めなしとなったが、特に第一部隊隊長二村純也には良く思われていない。


「にしてもお前ら、俺たちがボコボコにされた連中とよく三人でやり合おうと思ったな」


 第二部隊の隊長とアサシンの小隊長を兼任する四十歳ほどの男、春馬は苦笑した。確かに篠崎と戦い、敗北した春馬からすれば高月たちの行動は無謀でしかなかっただろう。


「それでも、――彼女を早く解放してあげたかった」


「……『ミカゲ』ね」


「隊長は御影奈央について、どんくらい聞いてんすか?」


 意味深に漏らす春馬。浜野はすかさずそこを突いた。


「どこまでって言われてもな。ぶっちゃけ俺なんか第二部隊隊長に任命されてはいるが、偉いのはどっちかって言うと四条さんの方だからな」


 四条淘汰。第二部隊において副隊長的なポジションに当たる男だ。

 荒々しい性格の男ではあるが、厳しい訓練メニューを隊員に指示し部隊を引っ張る立場にある。そして、壁の役員会にも出席していた。


「いつも思ってたんすけど、なんで春馬さんより四条さんの方が立場的には下なのに四条さんの方が偉いんすか?」


 デリカシーのない浜野は、答えにくいであろう質問も遠慮なくズバズバと聞いていく。高月は額を抑えるが、呆れたという意図は伝わらない。


「そりゃな、四条さんは壁を設立した役員の一人だからだ。あの人は役員のくせに、隊長をやりたがらなくてな」


「壁を設立した人たち……そういえば、僕は壁について何も知らないな」


「そうか。お前らは壁ができてから救助された、生存者たちだもんな」


 高月は第一部隊にヘリで救助されたが、浜野も似たような口だったのかと知る。


「春馬さんは違うんですか?」


「ああ。俺は元々都内の商社に勤めてた、ただのサラリーマンだ」


「ええ!?」


 高月も浜野も共に驚く。春馬の実力は四条や部隊員全員から認められているため、何か戦闘に関する経験があったのだと思っていたのだ。

 しかし高月は春馬の第一印象に自衛隊や警官のような頼り甲斐を感じなかったことを思い出した。あの時の違和感はこれだったのだ。


「そもそも壁は、政府の偉い人たちがみんな海上に逃げちまった結果路頭に迷った自衛隊を指揮した謎の組織によって設立されたらしい」


「謎の組織?」


「『新政府』ですか?」


「そうだ」


 新政府。それは壁が自らを呼称する時に使う名だ。それ自体は政府に変わる立場の者として至極普通の名称ではあるが。


「彼らがいつ発足し、どういった過程を経て自衛隊や警官をまとめ、壁を建設したのか……それは謎な部分が多い」


 と春馬は深刻そうな表情で語る。


「春馬さんは壁建設の時にはもう新政府に合流していたんでしょうか?」


「ああ。今の第三部隊の前身である自衛隊の人たちが突然与えられたパワードスーツに苦戦しながら壁を建設する中、俺たち避難民たちは武器を持って前線で戦った」


「壁の建設による騒音でゾンビが集まってきてたんですね……」


「そうだ」


 言いながら、春馬は転がっていた石を蹴飛ばす。石は弾丸に匹敵するスピードで飛んでいき、ちょうどこちらに向かって歩いてきていたゾンビの頭を吹き飛ばした。


「俺も謎の多い連中だと思うよ。何せこうなることを知ってたみたいに、準備は万端だった」


「知ってた……みたいに?」


「普通、こんな手際良く壁なんて作れないだろ?」


 言われて確かにと思う。

 新政府はわずか数日であらゆる生ける屍を阻む壁を完成させた。ダムを建設するのに数年かかることを考えると、その効率的なスピードは不可思議だ。

 こうなることを知っていた、というなら高月にも心当たりがある。


「そういえば僕が壁に入った時、狩野さんが言っていたことがあります」


 エニグマという物質の話を聞いた時の話だ。あの時は突っ込みはしなかったが、今思えば不思議なセリフがある。


「十年前全人類のエニグマ量が一度増加しており、その時に色々な計画を立てた……と」


「つまり、十年前からこうなることを想定して準備してたってわけか」


「にしてもだ」


 春馬は納得顔の浜野に向けて硬目を瞑りながら続ける。


「何台ものパワードスーツ、ここまで巨大な壁を建設するための資材、何よりそれらを可能とする技術力。全部を隠しておくにはあまりにも個々が大きすぎる」


「春馬さんは、壁に疑問を持っているんですか?」


 ここまで話してしまえば、高月もズバリ尋ねざるを得ない。壁の統治体制への疑問。彼らはどこに進もうとしているのか。


「まぁ、な」


「疑問はあるけど触れない……といったところですか?」


「妻が、世話になっててな」


 申し訳なさそうに告げた。そう言われてしまえばこちらは何も返せない。

 少し落ち込んだ雰囲気を明るくするように、浜野は盛り上げる。


「春馬さん結婚してたんすね!」


「ん? ああ、子どもも高月くらいになるよ」


「え、そうなんですか?」


「ああ。あいつのことだから、どこかで生きてると思うけどな」


「……壁には、来れなかったんですね」


「そうだな。けど、俺の子どもだよ」


 これ以上雰囲気を落とさないためか、春馬は高月、浜野の頭を撫でながら笑う。しかしそれも、強がりのようにしか見えない。

 子と離れ離れになった父はこういう表情をするのだなと高月は感じた。


(僕の父さんも、――こんな顔、するのかな)


 母さんは学校での騒動で亡くなってしまった。腕にチェーンソーを携えたゾンビとなり、風見に倒された。

 一方の父や妹とは未だ連絡が取れていない。こんなことになってしまってはもはや絶望的だとも思う。


(僕の父さんは、こんな顔……しないだろうな)


 十年前の出来事を回想する。

 高月は十年前、誘拐事件に巻き込まれたことがあった。その時、身代金の要求を受けた父は「じゃああのガキいらねーわ。お前らにやるよ」と言ってのけた。

 そんな父が高月の存在の有無で心を揺らすとは思えない。


「おーい、高月ー。そろそろ調査に戻るぞー?」


 ぼーっとしていると、浜野にどやされる。真面目な気質の高月はしまったという思いに駆られ、調査用の端末を取り出した。

 この端末を使って、そこらに落ちている神の破片をスキャンするのだ。

 レジスターで商品のバーコードを読み込むように、破片を拾い上げてはその成分や内部を分析する。しかしわかるのは、この世のどの物質とも一致しないという一点のみだった。


「はぁ……」


 調査を進めながら、ふと自分は何をしているのだろうと思った。

 どうして家族を探そうとしなかったのか。それはもう母を失ったことで諦めていたからか、それとも考えないようにしていたのか。

 はたまた心のどこかで、死ねばいいのにと――。


(――やめろ)


 考えを振り切る。

 実の親に死ねばいいのにだなんて、どうかしている。めまぐるしい日々が続いたので疲れているのだ。

 高月はまた、そうやって自分の気持ちに蓋をする。

今年最後の投稿がこれはひどいですね。

読者の皆様、良いお年を!

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