戦い
【ログイン49日目】※ゲーム内時間換算(34日)
【イベント1日目】
漸く経った三時間。
今、俺の目の前には続々とプレイヤーが現れている。
続々と……続々……続々……。
「おいおいおいおい!! 多すぎだろ!!」
《念動力》にて上空で待機している俺。
狼人たちは、俺の攻撃に巻き込まれないよう村長家に避難させている。
あとはプレイヤーを相手にするだけ。
なのだが……。
村のほうを見れば、まるでプレイヤーがゴミのように蠢いているじゃないか。
これを相手に一人で戦う?
「無理があるよなあ」
と、思わず独り言の一つもこぼれてしまうというものだ。
森エリアで戦ったときは30人相手でも大丈夫だったが、それはあくまでも30人だったから。
そして今は、ぱっと見で1000はいる。
「逃げたい」
逃げたい。めちゃくちゃ逃げたい。
だが……これはイベント。
しかもメダル争奪戦のはずだった。
いまのところメダル要素は皆無だが、まあこれから出てくるんだろう。
というか争奪戦? 魔物と人間で奪い合うのか?
本当によく分からん。
と、俺が悠長に考えているうちに、プレイヤー達は村を漁り始めていた。
上空っていうのは意外とバレないらしい。
まあ、俺が《隠密》を発動しているからというのもあると思うが。
しかし、こうして見ればプレイヤー達はただの泥棒だ。
我先にと狼人たちの家へ走っている。
狼人たちには悪いが、もう少し観察しとこう。
決してビビっているわけではないぞ。
ん?
いま狼人の家から出てきたプレイヤー……手にメダル持ってなかったか?
……よく見れば、ほかのプレイヤーの手元にもキラキラ反射するものがある。
色は青、かな。
なるほど。
魔物を倒して獲得するものだと思っていたが、普通に置いてあったりするらしい。
あれ、それなら俺も漁るべきじゃ――
「――痛っ」
なんかダメージを受けた。
というか、魔法が飛んできた。
下を見れば何人かこちらを見上げている。
あれ? 《隠密》さん?
《隠密》を破るスキルを持ったプレイヤーがいるのかな。
さすがの《隠密》でも、障害物も何もない空だと効果はイマイチなのかもしれない。
……いや、そんなことより問題は。
一人。また一人と、空を見上げるプレイヤーが増え続けていることだ。
あー、ヤバいー。
幸い封印の仮面をつけているので、俺の顔がバレることはないと思われる。
だが、このままだと不味いの明白。
とか言ってるうちにほら。
また魔法が飛んできた。
今度はたくさん。
それはもう沢山。
火やら水やら風やら土やら……オールスターだ。
とりあえず全部《念動力》でお返ししとこう。
この分もスキルレベルの糧になるといいんだが。
案の定驚いているようだなプレイヤー達は。
おお、次は矢が飛んできたぞ。
結構高いところに浮かんでるのに、よく届いたな。
まあこれも《念動力》でお返ししとこう。
矢を打った本人へと真っ直ぐ命中。
結構ダメージを受けたっぽい。
……うん、ぶっ壊れてますねコレ。
正直、俺って遠距離攻撃無効なんじゃないか?
マカみたいな物量でこられない限り、という一言が付くのが嫌だけど、ほとんどは無効だろう。
おっと、また魔法が来た。今回はかなり多いな。
《念動力》でお返ししてと。
お返しして、お返しして、お返し……。
……ヤバい。魔法が止まる気配がない。
というか、勢いが増してる気がする。
あ、ついに全方向から魔法が。
《魔力操作》のおかげで、まだお返しできているが、そろそろ処理が追いつかなくなってきたぞ。
返しても返しても魔法の嵐が止まらない。
ど、どうしよう。
なんとか《気力操作》でプレイヤーの動向を見てみる。
すると、かなりのプレイヤーが山へと走っていた。
と同時に、追加のプレイヤーがどんどん現れている。
や、やべーよ。
かなりの数の罠を設置しているが、プレイヤーの数もそれと同じ、いやそれ以上いる。
有効な足止めにはならないだろう。
いきなり詰んだかもしれない。
と、大袈裟に思いつつも。
実は心の中ではかなり冷静だったりする。
まあ何とかなるからね。
《念動力》を一方向に集中して発動する。
必然的に他の方向の処理が遅れるが、許容範囲だ。
この魔法の嵐から、一時的にでも脱出できれば良い。
俺は集中処理していた方向へ《念動力》で加速。
同時にその方向からくる魔法のみを処理することに集中する。
よし。魔法の嵐を突破した。
案外、簡単に突破できた。
すぐに急降下。
このまま空中にいれば、また良い的になってしまうだけだ。
そして!
着地と同時に ≪圧殺≫ !!
俺の周りにいたプレイヤーが見事に吹っ飛ばされる。
流石に一撃で死にはしなかったが、まあまあダメージは与えたと思う。
まるでスーパーマン。
いい演出ができたことに満足だ。
「な、なんだコイツっ!」
「ボスだ! ボス!!」
「あんな魔法食らっといて全然HP減ってねぇぞ……」
「囲め囲め! 魔法職は支援を!」
「意外とちっこいな」
おいそこ。ちっこいとか言うなよ、気にしてんだから。
混乱してぐちゃぐちゃになるかな、と思ったプレイヤー達だが、意外とまとまりがある。
完全に陣形を整えられると面倒くさそうだ。
先手必勝。
まずは牽制の意でファイヤボールを発動させる。
そして《付与魔法》を発動。
スキルレベルが30になったことで、同時に付与できる属性の数が3つになったようだ。
今回付与するのは水、風、光。
この3つを体全体に付与する。
これで、各パラメータ上昇とHPMPの自動回復。
さらに状態異常耐性もつく。
久しぶりに《付与魔法》を使った気がするが、やはり強いな。
準備はバッチリ。
では。
自慢の龍劉璽を抜く。
この美しい刀を見よ!
俺は目の前のプレイヤーに向って突進。
圧倒的なステータスの差からか、目の前のプレイヤーは俺の速度に反応できていない。
がら空きの胴へ一閃、二閃。
それだけで目の前のプレイヤーはHPを全損させたらしく、ポリゴンのように消え散った。
流石は龍劉璽。
この調子でどんどんプレイヤーを倒さねば。
なにせ1000人が相手だ。
現在進行形でプレイヤーは増え続けているし、頑張らないと不味い。
こういうときにマカが居ればいいのにな。
あのぶっ壊れコンボで、超広範囲殲滅ができただろうに。
そんな無駄な思考をしながらも、俺は刀を振り回している。
もちろんテキトーに振り回しているのではなく、ちゃんと見て狙って振っている。
猪突猛進。
乱戦に突入。
俺は《魔力操作》と《気力操作》のおかげで、ほとんど死角はない。
そのため、乱戦になっても問題はないのだ。
一人、また一人と斬り伏せていく。
《刀撃》のスキルレベルがぐんぐん上がっている気がする。
この調子、この調子。
というか、一つ気づいたのだが。
認めたくはないが、この小さい身体は意外と便利だ。
特にこの乱戦においてはかなり有利だろう。
プレイヤーとプレイヤーの間を移動しやすく、簡単に懐に入り込める。
何と戦いやすいことか。
流れるようにプレイヤーを切り刻んでいくことができるのも、この身長とステータスのおかげ。まあ速力は下がってるんだけど。
そしてレイクさん曰く、刀は包丁の要領で使うといいらしい。
押すのではなく引いて切るのだそうだ。
まあ龍劉璽の切味は鋭すぎるので、これくらいの相手なら何も考えずに切っても十分だろう。
だが、意識だけはしている。そう意識だけは。
……なんていう思考をするくらいには余裕もある。
俺視点からはプレイヤー達の動きがあまりにも遅く見えるのだから当然か。
せっかくの戦闘で刀しか使わないのも勿体ない。
魔法やほかのスキルも使っていくとしようか。
とりあえず《火魔法》《水魔法》《風魔法》《土魔法》をそれぞれ使う。
全部○○ボールだけど。
そして次は ≪残像≫ や ≪切断≫ といった武技スキル。
残念ながら ≪圧殺≫ はまだクールタイムだ。
あともう少しでまた使えるようになる。
あとは……《影魔法》と《光魔法》か。
シャドウショックとライトショック。
正直、スキルレベル上げ以外に使う理由はないな。
わざわざこんな事しなくても、龍劉璽の一振りで終わりだし。
しかし、こんな激しく動いているのに全く疲れないとは……さすが魔物だな。
現実世界だったらとっくに心臓が破裂してるぞ。
そう思った瞬間、今更ながらあることに気づく。
加藤はどうしてるんだろうな、ということに。
いつもならイベント開始前に連絡の一つもあっていいのだが、そんなものは無かった。
もはや誘われもしなくなったということか。
まあ誘われても断るしかないのだけど。
だが、加藤は必ずイベントに参加しているだろうな。
いや加藤だけでなく、櫛奈や末貫に八瀬も参加しているに違いない。
うーん。会いたいような会いたくないような。
俺の心境はだいぶ複雑だ。
今の俺はエリアボス。
もし会ったとしても敵同士だ。否が応でも戦わなければならない。
……ん?
というか、会ったとしても分からなくないか?
俺はまだEOF内で加藤と会ったことがない。
むしろ会ったことがあるのは八瀬くらいだ。
つまり、八瀬しか分からない。
加藤を見つける事はできないのだ。
……とりあえず八瀬がいるかどうかだけ見てみるか。
八瀬にはラティがいる。
もしここにいるなら見つけるのは簡単だろう。
プレイヤーも最初よりはかなり少なくなったので、《念動力》で空中に上がっても大丈夫だ思う。
そう判断した俺は目の前のプレイヤーを切捨てた後、一気に空中へと加速した。




